源氏物語の「花」を語らせてください
大河ドラマで源氏物語が流行っているので、これは流行りに乗りたいです。
源氏物語に登場する夕顔という人物。
美人薄命とはまさにこのこと、わたしもこんくらい儚い女になりたかった。
そんな儚かわいい夕顔ですが、源氏物語本文ではある花に例えられるんですね。
それが「常夏」という花。今は「常夏」よりは「撫子」という名前で有名でしょうか。
夏中ずっと咲くから「常に夏」という名前。
どこか浮世離れして、ちょっとどきどきする一夏の恋と終わった夕顔との関係にぴったりの花なんです。素敵。
この「常夏」という花、読み方は「とこなつ」。昔はしゃれがすきなんでしょうね。
「とこ」に「床」をかけて、「床」が「なつかし(好ましい)」っていう意味で和歌に詠まれることが多かったんですよ。お耽美。
ちりをだにすゑじとぞ思ふ 咲きしより 妹とわが寝るとこなつの花(古今集・夏・)
この和歌とか特にそうですよね。
愛しいあなたと寝る寝床には塵を残しませんよ!ご無沙汰にはしませんよ!っていうなんか元気な和歌です。面白いですよね。
「常夏」という花は一夏の恋と同時に夜をも連想させる花なんですね〜。非常におもろい。
さてここでおもろいのはこれだけじゃない。
「常夏」の花の別名は覚えてますね?
そうです「撫子」です。大和撫子っていう言葉はたおやかな美人を指すことでもよく知られていますね。そう、この「撫子」も実は源氏物語においてある女性を指す花として使われているんです。
「夕顔」ではありません。「夕顔」の娘、「玉鬘」です。
っていうのも「撫子」という和歌がどのような意味で和歌に使われていたかみてみるとこの理由が分かるんです。
双葉よりわが標(し)めゆひし撫子の花のさかりを人に折らすな (後撰集・夏・183)
小さい頃から育ててきた大事な娘を他の男に取られてなるものかっていう親バカ溢れる可愛い和歌です。可愛いよね。
ここではこの花は「撫でし子」。頭を撫でて可愛がった子、という意味で使われてるんです。
「常夏」だとどうしても「床」、妻とか愛人とかそういう人を指しますけども、別名の「撫子」だと愛する子供を指すようになるんです。
そして極め付けは気づいた方もいると思いますが、「撫でし子」なんですよ。「撫でた子」、過去形なんです。次の和歌見てくださいな。
見るままに露ぞこぼるる後れにし心も知らぬ撫子の花 (後拾遺・哀傷・569)
見てると涙出てくるわ、親に先行かれたまだあどけない子供という和歌です。
この「撫子」、愛しい我が子っていう意味で読まれることも多々ありますが、それと同時にこんな感じで「愛した子」、つまり「遺児」を指すこともあります。「玉鬘」といえば親である「夕顔」が亡くなり、不遇の人生を送っている「夕顔」の「遺児」として登場しますね。
「玉鬘」を表すにぴったり!
一つの花なのに二つの側面がある。すっごくおもしろい花です。恋人としての「夕顔」は「常夏」。その「夕顔」の子供「玉鬘」は「愛する子」である「撫子」。まさにこの二人の登場人物は一つの花のイメージから生まれたんじゃないかな〜と思っちゃいますよね。
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