見出し画像

#9 浄化槽の話

帰省したときに聞いた話である。
先日の大雨の影響で古い浄化槽に土が詰まってしまい、そのせいでトイレが詰まるというピンチに見舞われたらしい。

浄化槽。
私にとってはその存在が当たり前の浄化槽。
ふと母が言った。
「あんたのとこは浄化槽、月いくらくらいなん?」
「えーと………あれ?」
私は実家を出てから、隣県の街中で暮らしていて、そしてそこに家を建てて10年は経つ。
そういえば。浄化槽、ない。
「うち…浄化槽無いんちゃう?」
「は?あるやろ。どうしてんの?バキュームカー来るやろ?」
「……言われてみれば、こっちでバキュームカー見たことないわ。」

当たり前かもしれないが大きな街には下水道が通っている。
そう。浄化槽がいらないのだ。
当たり前すぎて、私は浄化槽が無いことについて考えたことがなかった。プロパンガスと都市ガスの違いは知っていたのに。
逆に母は、浄化槽が当たり前すぎて、そもそも下水道という認識が無かった。
私の地元は下水道が通っていない。ちょっと調べたところ、まだ下水道計画も無いらしい。

翌日、母と一緒に件の浄化槽を見に行った。古いタイプの浄化槽らしい。土が詰まっていた場所は、重くて厚いコンクリートの蓋の下だった。また詰まるのではないかと心配なので、ちょくちょくチェックすることにした、とそこそこお婆さんになった母が、重くて厚いコンクリートの蓋を持ち上げながら言った。下水道さえ通れば、そんな心配は無くなるであろうに。

山々に囲まれ、川の水も底が見えるほど透き通ってる。野生動物も出没するような、そんな自然豊かな地元。
一方では高齢化の波で田畑が荒れ果てて、山と里との境界線が曖昧になり、野生動物たちは人里近くまで降りてきてしまい、人々にとっては害獣となる。先述の通りインフラもまだまだ途上のようだ。

豊かな自然の裏側には、そんな問題も抱えてる。
田舎暮らしも楽じゃない。
そこで長年暮らす母は、本当は都会が好きだったりする。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?