パンセクシャルの僕が、すきなひとと幸せになりたくてもがく話。②

パンセクシャルの僕が、すきなひとと幸せになりたくてもがく話。②

①はこちら。

二人で一度遊んでからは、るる君がいなくても遊ぶ事が増えた。勿論るる君がいてくれる時は三人で遊んだし、お互いに全然別の人と遊ぶ事だってあった。
別に何か契約を結んだ訳でもないんだから、当たり前。
それでも二人で遊ぶようになると、ゆっくり距離が縮まってく。少しずつ、うすば君がパーソナルな部分を話してくれるようになっていった。勿論好きなゲームの話からです。

そんな事が滅茶苦茶うれしかったな。いい年して、恋愛慣れしてない高校生みたいな事が嬉しかった。うすば君は聞き上手で、つい僕の方が話す事も多かった。そこも年下とは思えなくて、さ。
「今日は沢山話せたな」「今日は一言も話せなかったな。」…会った事もない人に、ここまで惚れ込むのは初めてだったね。ネット経由の出会いは幾らでもあったけど、本当に心底惚れたのはリアルが先の人ばかりだったから。

それは新鮮であり、その分同じだけ怖かった。ノンケの彼に告白するつもりもなければ、彼を独り占めするつもりもない。出来るとも思えない。
だから、僕は彼のインターネット上でのいちばんの友達になりたかったんだ。
そのうち、うすば君からも遊ぼうって言ってくれるようになって、それなりの信頼を僕は勝ち得た。きっと。

けれどうすば君には僕なんかよりずっと長く、仲良しのお友達がいた。異性の、僕たちよりずっと年下の。

*すみれちゃん(めちゃ若い)
うすば君と旧知の仲。
とっても妬いてる。ギリッ…。

僕は身の程知らずにもすみれちゃんに死ぬほど妬いていた。いい年して。(二回目)

僕らと遊ぶ中にも、うすば君はすみれちゃんを何度か呼んだ。
ゲームする上で、人数なんて多いに越した事はない。
勿論僕とるる君が仲良しな上でうすば君には付き合って貰ってるんだから、その権利はうすば君にだって生じてるのだ。
うすば君は僕たちに一年経っても敬語だったけど、すみれちゃん相手には随分と砕けた様子だった。

「すみれお前さあ、そういうとこだよww」

うすば君からすみれちゃんへの、この言葉が無性に刺さった。
僕たちには一生気安いこの声も、この軽い喋りも向けられない気がした。
羨ましいな、って泣きそうになったのは堪えたけど。

すみれちゃんが通話を切った後、僕の気持ちなんて知り得ないるる君がぶっこむ。

「うすば君って、すみれちゃんと付き合ってんの?」

息を呑んだ。確か全員が珍しくお酒を飲んでいて、ああ、ここで失恋も悪くないなって。るる君がいて、うすば君がいて、これからも遊んでくれるんならそれはそれで悪くないなって思ったんだ。
この時点で既に僕の頭の中にA君は殆どいなくなってて、うすば君の事で頭はいっぱいだった。久しぶりの恋に浮かれていたのかもしれない。

答えはどっちなんだろう。YESかな、NOかな、…暈すのかな?
うすば君はただでさえネットリテラシーがしっかりしてて、色恋の話なんてもってのほか。それでも聞くしかない、この場で通話を切る訳にはいかない。

「えっ、つ、付き合ってないっすけど?!」

正直、この言葉だけじゃ真偽は判断出来なかった。うすば君は結構意味のない嘘を吐いたりもするし、彼は心底掴めない。
それでも、失恋を一瞬で覚悟したはずの僕の口から安堵のため息が漏れる。
ああ、くそ、すきだな。うすば君の事、好きだなあ。

「えー本当に?だって僕たちに対する態度より随分友達チックじゃん?」

「いやいや、お二人にはいつも遊んで貰ってるじゃないっすか、敬意ですよ!」

おしゃべりな僕は何だか言葉が出なくて、ただ笑ってその場を誤魔化した。
うすば君はほぼ毎日僕たちと遊んでくれてはいるものの、それは一日のうちの二時間程度。恋人がいたとして、それ以外の時間を恋人につぎ込めば何て事なくお付き合いだって出来る。
すみれちゃんが恋人じゃなくとも、うすば君に恋人がいる事は何ら不思議な事じゃない。
(この時点で僕はもう盲目的に彼が好きなので、彼氏タイプじゃないよねーwと言った事は遥か彼方)

うすば君はわかりづらいけど優しい。
うすば君は解りづらいけど思慮深い。
うすば君を好きなのが僕だけな訳がない。
何度か言い聞かせるように反芻した。叶う筈もないこの恋の延命だけを、僕は繰り返していた。

うすば君との縁が切れる事が、何より怖かった。

るる君にうすば君への気持ちを伝えたのもこのあたり。
一緒に背負ってほしかっただけかもしれない。今でも鮮明に覚えてる。
本当はるる君にだって伝えるべきじゃなかったのかもしんない。けどあの時の僕は嫉妬と、諦めと、…ほんの少しの期待でないまぜになっていた。

「るる君、僕うすば君の事好きなんだ、恋愛感情で。るる君やほかの皆に迷惑かけたりしないようにしたいけど、多分るる君にだけは泣き付いて落ち込んで、ってすると思う。ごめん、僕の片思いに付き合ってほしい。告白する気はないんだ。何よりノンケだし、うすば君を困らせたくないん…」

「は!?恋愛感情!?うすば君に?!えっどこが?!僕マジで意味わかんないし理解できないんだけど?!好きになる要素なくない?!」

「大体想像通りだけど僕うすば君の事滅茶苦茶好きだからもう少し気を遣ってwwwww」

「あっごめん!?えっでもうすば君だよ?!絶対二十歳そこそこのクソ童貞だよ?!」

「うすば君こないだ元カノの話してたから!童貞じゃないから!」

「いや絶対セックス下手だよ?!」

「それ以前の話をしてるんだよ僕は?!」

「ごめん、信じらんなくて…うみ君が今まで好きになったタイプじゃなくない、男女共にさ。うすば君クズじゃないよ?」

「前提条件クズを求めてる訳でもないんだよ僕は!」

「クズ以外好きになれたじゃんおめでとー!!」

「るる君のそのポジティブ滅茶苦茶救われる…ありがとう…」

別に告白するつもりもない。るる君に何をしてほしいわけでもない。うすば君に返してほしいわけでもない。
僕はただ、うすば君を好きでいたかった。久しぶりの恋に浮かれていたかった。
うすば君と、毎日遊んでいたかった。

(そして本当にるる君のアホポジティブには救われた。ありがとうるる君。)

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