まじょのなみだ(26)

だけど、手を握りながらみんなの到着を待つ間に母は息を引き取った。

間もなく、看護師さんが来て、優しく何度かうなづいた。

それからも何度も言った。
「ありがとう」

まだその辺にいるんでしょ?
「ほんっとありがとね!!」

それから酸素マスクが外された。

私は母からの唯一の遺言を守り、開いたままの母の口を閉じて、あごをずっと押さえていた。
「ちゃんとやってるで。」
泣きながら笑った。

親族が再度病室に集まっても、私は母の頼みをやめなかった。
みんな納得して
「お母さんらしいな」
「いかにも言いそうやな」
と泣いた。

駆けつけた弟も母の手を握り、しばらく無言で涙していた。

「間に合わなくてごめんな」
弟もいろいろ伝えたかったことがあったはずなのに、私が独り占めしてごめん、と思った。

それから看護師さんたちにお化粧をしてもらい、再会した母は
すごく安らかで、ニコニコしていた。
あんなに痩せこけていたのに、不思議なぐらいキレイで。

その爪には、もう赤いネイルは残っていなかった。


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