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暗証番号やパスコードは無駄?-押収されたスマホの中身は見られてしまうのか-

 現代社会において、スマートフォンは人の第二の脳とも呼べるほど、多種多様な情報を保存しています。今回は、警察などの捜査機関が、暗証番号によるロックを突破し、スマートフォンに保存された情報にアクセスする方法を解説します。

スマートフォンに保存された情報は、最も重要な証拠の一つ

 犯罪の成否において、その人が行為時にどのように認識していたのかが重要な意味を持ちます。故意に犯罪を行ったのかという重要な問題です。人の心の中や思考を直接覗くことはできません。その人が何を意図して行動していたのかは、その人の行動や発言、状況等その他外部から観測可能な事実をもとに、推測していくことになります。
 このような場面で最も重要な証拠となるのが、スマートフォンです。例えば、スマートフォンのメモ機能に行為時のことが日記として書かれているかもしれません。その時どう思ったか誰かにLINEをしているかもしれません。スマートフォンに保存された情報とは、人の思考や認識を推測する極めて重要なものなのです。
 警察などの捜査機関は、当然スマートフォンの重要性を理解しています。現代日本の捜査においては、どのような事件、どのような犯罪の種類であっても、ほぼ確実にスマートフォンに保存された情報にアクセスしようとします。しかしスマートフォンに保存された情報は極めてプライバシー性が高いものです。捜査機関と言えども、勝手にアクセスすることは許されません。
 ではどのような捜査手法があるのか。ここでは、スマートフォンにかけられた暗証番号(パスコード)によるロックを解除する方法について、3つの方法を解説します。

捜査機関が暗証番号によるロックを突破し、スマートフォンに保存された情報にアクセスする手段

持ち主本人からパスワードを聞き、アクセスすることの承諾を得る

 もっとも単純で、もっとも用いられている方法が、スマートフォンの持ち主本人から暗証番号を聞き出し、中の情報にアクセスすることの承諾を得るという方法です。
 多くの場合、捜査の対象となるスマートフォンの持ち主は被疑者(犯罪の嫌疑をかけられている人、容疑者)本人です。被疑者には黙秘権が保障されており、捜査機関に暗証番号を教える義務などありません。捜査機関がスマートフォンにアクセスすることを承諾しなければならない義務もありません。しかし、弁護士がいない状態で突然逮捕されたようなケースですと、黙秘権を適切に行使することはほぼできないでしょう。私自身の経験でも、初めて面会した時点ですでに暗証番号を捜査機関に伝えてしまっていたケースのほうが圧倒的に多いです。
 そのため、持ち主から暗証番号を聞き出しアクセスするという方法が最も活用されている方法ということになります。

身体検査令状にもとづく、指紋認証・顔認証によるロックの解除

 現在のスマートフォンやタブレット端末の多くには、指紋認証機能や顔認証機能が備わっており、それによりロックを解除することができるようになっています。指紋認証機能が普及しだした当初、寝ている人の手を動かしてロックを解除している動画を見たことがありました。当然、捜査機関が無制限にこのような手段を取ることは許されません。
 持ち主が暗証番号を教えない場合、捜査機関は裁判所に対して指紋認証機能や顔認証機能を用いることを許可する「身体検査令状」を求めます。具体的には、指紋認証の場合には「左右十指に係る末節部指紋をスマートフォンに搭載された指紋認証センサーに接触させること」を、顔認証の場合には「スマートフォンに搭載されたカメラシステムに、〇〇の顔面部を正対、注視させること」を許可する令状が発布されます。なお、この身体検査令状には、正当な理由なく身体の検査を拒んだときは過料の制裁を受けることがあるとされています。
 この手法は、当然ながら指紋認証機能や顔認証機能によってスマートフォンのロックを解除できる設定になっている場合にしか通用しません。

GrayKeyというフォレンジック機器を用いたデータ抽出

 ここ数年で捜査機関に導入された手法に「フォレンジック機器を用いたデータ抽出」というものがあります。この機器の一つが「GrayKey」という名称のもので、捜査機関作成の報告書上は「米国製フォレンジック機器」などと名称が秘されて記載されている場合もあるようです。警察などの捜査機関は、どのような機能を持つどのような機器を導入しているのか、公には明らかにしていません。私はとある事件のなかでこの機器を用いて作業をした捜査官の尋問を行い、公開の法廷でこの機器について証言をしてもらったことがありました。
 GrayKeyが持つ機能は、スマートフォンにかかったロックを解除するのではなく、ロックが掛かった状態のまま保存されたデータを抽出するというもののようです。ただ、ロックがかかっている状態だと中の情報を100パーセント抽出できるというわけではないようです。スマートフォンのOSは日々アップデートされており、GrayKeyもそれに併せてアップデートされるわけですが、それが追いついていない場合、ロックがかかっているとデータが抽出できないということもあるようです。

まとめ

 スマートフォンの中には、持ち主にとって有利か不利かに関係なく、膨大な情報が保存されています。捜査機関はその情報に強い関心を持っています。中身を確認するための技術的な進歩も生じています。被疑者被告人の権利を守る立場にある我々弁護士は、捜査手法の進歩をきちんと勉強し理解し、それを踏まえた助言をしていかなければなりません。

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