黙秘をすると起訴されるのか?黙秘と不起訴の関係について
取材記事に対するヤフコメ
先日、弁護士JP様から取材を受ける機会がありました。
その記事がこちらです。
なお、取材を受けるきっかけとなったnoteはこちらです。
この取材記事がYahooにもあがり多くの方に読んでいただけたようです。その際に頂いたコメントの中に気になるものがありました。引用させていただきます。
今回はこのコメントをヒントに、黙秘と不起訴処分の関係についてお話したいと思います。
取調べで「自分はやっていない」と供述することのリスク
その前提として、やっていないことで逮捕され取調べを受けることになってしまった場合、「やっていない」と言い続けたほうが良いのか、という点についてお話します。この点は取材の中でも簡単にお話をさせていただきました。
まず知っておいて欲しいのが、「やっていない」と言ったところで、それで取調べが終わるわけではないことです。警察官や検察官は必ず「なぜやっていないと言えるのか。その理由を教えて。」と聞いてきます。これ自体は当然のことかと思います。本当にやっていない人ほど、コメントを頂いた方も仰るように「やっていないことを信じて欲しい」と考えています。ですので、警察官らにわかってもらおうと、やっていないことをなんとか説明しようとします。ここが問題なのです。
取調べの際には、スマートフォンも手帳も見ることは出来ません。自分が事件のあった日にどこにいたのか、どのような行動をしたのか、それを思い出すきっかけとなるものは、何一つ見ることが出来ません。そのような状況で「やっていないことを信じて欲しい」と思っている人が供述をすれば、どのような事態が起きるかは想像できるのではないでしょうか。真実身に覚えがないからこそ、どうしても信じてほしいからこそ、無意識に自分に有利すぎる話をしてしまう、すなわち事実ではない話しをしてしまう危険が生じるのです。このようなリスクは私を含めどのような人にも生じることです。これが「やっていない」と供述することのリスクなのです。
不起訴処分の種類
さてここから黙秘と不起訴処分の関係についてお話を進めます。
頂いたコメントを読むと、私には捜査機関(より具体的には検察官)に「やっていない」ことを理解してもらってはじめて不起訴になる、と考えているように見えました。
不起訴処分には、3つの種類があります。
起訴猶予
こちらは、被疑者が罪を犯したことは証拠上間違いないと言えるが、いろいろな事情から今回は起訴する必要はないと判断した、というものになります。被害者と和解し許してもらえた場合がその典型的なケースです。
嫌疑なし
こちらは、被疑者が、当該事件の犯人ではないことが明らかとなったときに出されるものです。別の真犯人が明らかになった場合などに限られ、その数は多くありません。なお、「やっていない」と主張していたとしても真犯人が明らかになる、アリバイが立証されるなどがない限り、嫌疑なしによる不起訴処分には通常なりません。
嫌疑不十分
罪を争っている場合に不起訴になるとすれば、この嫌疑不十分によることがほとんどです。こちらは、被疑者が犯人であることや犯罪の成立を証明するための十分な証拠が集まらなかったため、検察官が起訴しなかったという不起訴処分です。
このように、不起訴処分となるには検察官に「やっていない」ことをわかってもらう必要なないのです。そもそも検察官がこの人は「やっていない」とわかってくれるのは、つまり嫌疑なしとして不起訴処分にしてくれるのは、別の真犯人が見つかるなどの極めて珍しいケースに限られます。極めて高いハードルなのです。加えて、上記のとおり「やっていない」と供述することには高いリスクがついて回ります。
そうであれば、相対的に低いハードルである「嫌疑不十分による不起訴」を目指すことは、方針として合理的と言えないでしょうか。
黙秘することで嫌疑不十分による不起訴処分となることはまったく珍しくない
この「嫌疑不十分による不起訴」を目指す極めて有効な手段が黙秘です。つまり、黙秘することと不起訴を目指すことは相反するものではないのです。
その理由を簡単にお話しましょう。
かつてドラマのタイトルにもなったように、日本の刑事裁判の有罪率は99.9%と異常な数値となっています。しかしこれには理由があるのです。上記のとおり、検察官は「被疑者が犯人であることや犯罪の成立を証明するための十分な証拠が集まらなかった」と考えた時、つまりは裁判になったときに確実に有罪判決を獲得できると考えられなかった時には、嫌疑不十分による不起訴にするからです。裁判になっていればもしかしたら無罪判決となったものも、この時点でふるいにかけられるため、極めて高い有罪率が維持されているのです。
黙秘をしていれば、検察官は被疑者が裁判になったときにどのような供述をするのかわからないことになります。もちろん他の証拠から限界は決まるとしても、想定される複数の供述について、どれをされても有罪にできる証拠が集まっているのかを考えなければならなくなります。「やっていない理由」を説明し、どのような供述を裁判でしてくるかが明らかとなっている場合と比較した時、どちらのほうが検察官が起訴に踏み切りやすいかは、想像できるはずです。
まとめ
黙秘を助言し依頼者の方がそれを貫いた結果、不起訴となったという経験は、数え切れないほどあります。私は、不起訴を目指すときこそ黙秘すべきだと思います。もちろん、どのような事件でも常に黙秘が最善というわけではありません。しかし、黙秘を選択肢に持たず、捜査機関にすべて話したうえで処分を任せるということが、弁護士の仕事として適切とは私は思いません。
お上に対しすべて正直に話し、それによって常に正しい処分がなされるのだとすれば、弁護人制度などすでに存在しなくなっているのではないでしょうか。
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