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あなたの弁護士は大丈夫?証拠開示で結果が変わる

弁護士として法律相談を受けていると、時折、依頼者から現在の弁護士の活動に対する不満や不安を耳にすることがあります。個別の事情を詳しく知らないまま、短時間の相談で他の弁護士の活動を安易に非難することは控えるべきですが、明らかに疑問を感じざるを得ない場面も存在します。その典型的な例が、証拠開示に関する問題です。

証拠開示が不十分な弁護士

依頼者やその家族が「このような証拠があるはず」「警察で作成したこのような書類があるはず」と言っているのに、弁護人がその証拠を入手できていないという状況は、依頼者が弁護人に不信感を抱く代表的な場面です。捜査機関が実際にその証拠を保持しているのであれば、現在の弁護人の活動に何らかの不備があるために入手できていないことになります。このような場合、弁護士の活動に疑問を感じるのは当然のことでしょう。

検察官請求証拠しか開示を受けていないパターン

証拠開示に関する問題には、主に二つのパターンがあります。
まず一つ目のパターンは、弁護人が検察官請求証拠しか開示を受けていない場合です。多くの人は知らないことですが、捜査機関がそれまでに集めてきた証拠のすべてが刑事裁判で利用されるわけではありません。検察官は必要最小限の範囲で証拠を選別し、その中のごく一部を裁判所に提出しようとします。これを「検察官請求証拠」と呼びます。

検察官が裁判所に提出しようとする証拠については、法律上、必ず被告人側に開示しなければなりません。弁護人が何もしなくても、検察官が取調べを請求する証拠は自動的に開示されるのです。
しかし、検察官が裁判所に提出しようとする証拠は、被告人にとって最も不利な証拠であることがほとんどです。検察官は被告人を有罪にするために起訴しているのですから、当然です。つまり、検察官請求証拠の開示しか受けていない状態で裁判を闘うのは、両手を縛られてボクシングをするようなもので、勝ち目はほとんどありません。

検察官が「任意に」開示するものしか入手していない

二つ目のパターンは、検察官が「任意に」開示するものしか受け取っていない場合です。これは検察官請求証拠しか受け取っていない場合に比べればまだ擁護の余地はありますが、それでも十分とは言えません。

任意開示の問題点は、まず開示する証拠の範囲を検察官が決めるということです。過去の冤罪事件の中には、検察官が保持している証拠の存在を偽って開示しなかったことで生じたものもあります。すべての検察官がそのようなことをするわけではないと思いますが、被告人の弁護人として、検察官の善意を安易に信じて活動することは、プロフェッショナルの仕事とは言えません。

さらに、仮に検察官が意図的に証拠を隠さなかったとしても問題は残ります。検察官が任意に開示するのは、基本的に検察官が手元に持っているものだけです。実は、捜査段階で収集した証拠の多くは検察庁には送られず、警察署に保管されていることが多いのです。そのような証拠が任意で開示されることはまずありません。検察官ですら直接確認していないそれらの証拠こそ、被告人にとって重要な情報が含まれている可能性が高いのです。

公判前整理手続を始めてもらい権利による証拠開示を行う

本来、否認事件では捜査機関が収集している証拠の徹底的な開示を求めることがスタートラインとなります。ここを十分に行わなければ、勝ち目はほとんどありません。そのためには、検察官の任意の開示ではなく、法律で定められた権利に基づく証拠開示を行うことが必須です。具体的には、公判前整理手続というものを行うよう求め、この中で定められた証拠開示を行っていくことが必要不可欠です。

現状では、公判前整理手続に付すことを求めると、裁判所は消極的に考えることが多いです。他にも多くの事件が滞留していることなどがその理由のようですが、被告人のためには裁判所の事情に従うわけにはいきません。しかし一方で、裁判官が消極的であることは想定し、それでも付してもらえるよう、説得的な理由をもって説明しなければなりません。それができるかどうかは弁護士次第です。

控訴審からやり直そうという考えは大きな間違い

もし、この記事を読んで自分の弁護士に当てはまる点があった場合には、今すぐ別の弁護士に相談することを強くお勧めします。絶対にやってはいけないのが「第一審が終わったら別の弁護士に変えよう」という考え方です。上記の公判前整理手続に基づく証拠開示請求権は、控訴審では使うことができません。控訴審では、基本的には検察官の任意の証拠開示に期待するしかありません。しかも、多くの場合は「第一審で開示を求めることができたのにしなかったのだから」という理由で開示を拒まれることになります。

東京で弁護士をしていると、控訴審からの依頼を相談されることも多いのですが、その際に最も苦労するのが、第一審で十分な証拠開示を受けていなかった場合です。第一審であれば容易に開示を受けられる証拠であっても、控訴審になるとその難易度は跳ね上がります。

まとめ

自身が依頼している弁護士の活動に疑いを持つことは、確かに怖いことかもしれません。不安になるのも当然です。しかし、弁護士との関係をおもんばかってそれを言い出せずにいれば、最終的に不利益を被るのはあなた自身やあなたの家族なのです。

証拠開示の問題は、刑事弁護において極めて重要です。十分な証拠開示がなされていない状態で裁判に臨むことは、ほぼ確実に不利な結果につながります。そのため、もし現在の弁護士の活動に疑問を感じたら、躊躇せずに別の弁護士に相談することをお勧めします。セカンドオピニオンを求めることは、あなたの権利を守るための重要なステップとなり得るのです。弁護士との関係を気にして問題を放置するよりも、勇気を出して別の意見を聞くことが、あなたの将来にとって大きな違いを生む可能性があります。

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