見出し画像

【エッセイ】いじめられていた私を支えてくれたもの。

忘れられない物語。

ぼくはちょっとおかしい


今日はとっても楽しかったね。明日はもっと楽しくなるよ。

テレビアニメではそう言っている。

周りの友達はみんな笑って生きている。

自由自在に体を動かして、自由自在に言葉を操って、自由自在にみんなとコミュニケーションを取っている。

今日はとても楽しい1日だったから、明日もきっと楽しい1日が待っている。

そう信じるのは当たり前。


でも、私はそうとは信じていない。

作り物の笑顔だけ


体を動かそうとすれば失敗して怪我をする。

言葉を操ろうと思えば支離滅裂。

コミュニケーションを取ろうと思っても、自分の思いを上手く伝えられない。

運動音痴で頭でっかち、内向的で自意識過剰な当時の私は、

「僕は周りとはどこか違う」

そう思いながら毎日生きていた。

というか、そう思わないことには自分を保っていられなかった。

子どもの世界というのはいつも残酷だ。「こいつは周りとは違う」。そう思われた途端、「いじめ」と言う名の迫害と排除が始まる。

直接的な言葉を浴びせられる毎日。
意味もなく殴られる毎日。
話しかけても無視をされる毎日。

上靴や運動靴を隠される時もあった。
貸したゲームやおもちゃが帰ってこない時もあった。
友達と思っていたのに「友達じゃない」と言われる時もあった。

ただ何より辛かったのは、私がいじめられていることを知った母が泣いたことだった。

「悲しませちゃいけない」
そう思ったその日から、ハリボテの笑顔だけはやたら上手くなった。

「学校は楽しい?」
大人たちからそう聞かれる度、私はハリボテの笑顔で
「楽しい」
とだけ答えた。

本当は、楽しくなかった。
大人に話す架空の友人関係の数はどれくらいだったか、今では忘れてしまった。


癒しとしての架空の世界


そんな暗い毎日を送っていた私だが、家に帰ってゲームをしている時だけは心が救われた。

世はゲームボーイアドバンス全盛時代。テレビドラマを観る母、受験勉強に打ち込む姉、パソコンに向かって何やら難しそうな表を作る父をよそ目に、私はひたすらゲームに勤しんでいた。まだ自室を与えられなかった当時の私にとって、ゲームの世界は私が持つ唯一のシェルターだった。

パズルゲーム、格闘ゲーム、謎解きゲーム、レースゲーム、いろんなゲームにハマったが、中でもRPG(ロールプレイングゲーム)の世界に私はハマりにハマった。現実の世界のように競い合う相手もおらず、自分のペースで物語を進められることが私の性にあっていたのかもしれない。

当時やっていたRPGを上げてみる。

伝説のスタフィー、星のカービィ、コロッケ!(漫画ももちろん好きだったが)、ファイナルファンタジー。ゲームオリジナルから過去作のリメイク、人気漫画のメディアミックスなど、いろいろ。

中でも特にハマったのはポケモンシリーズとMOTHERシリーズ。ちょうどルビー・サファイア、MOTHER1+2、少し後にエメラルド、MOTHER3が出た頃だった。

ポケモンシリーズはMOTHERシリーズの影響を受けて誕生したと知ったのは大人になってからだったが、両者に共通しているのはその独自の世界観だったように思う。

どこにでもある平凡な街に住む、どこにでもいる平凡な少年が、冒険の旅に出る。その設定に強く心を惹かれた。

勇敢な主人公に臆病な自分を投影しては「僕もいつか、主人公みたいに旅をしたい」と漠然と思っていた。

ゲームの世界でちょっとした旅行を楽しんでいたりもした。本当はゲームの中で解決しなければいけない問題が山積していたものの。

そういうちょっとした遊びができるのも、RPGの魅力だった。

架空の世界に浸ることは自分の心を癒すセラピーのようなものだった。本能的にそのことに気づいた私は、次第に漫画や本の世界にもどっぷりとハマっていくこととなる。


明日はきっと


あれからいくばくかの時がすぎた。今ではすっかりゲームをやらなくなってしまった私である。ドット絵が生み出すバーチャルな世界に比べると、3Dが生み出すリアルな世界はどこか没入感を感じられないのだ。大人になってしまったのだなと、時折思う。

そんな私の毎日の楽しみといえば、寝る前の1時間、小説の世界に浸ることである。ブルーライトは眠りの質を妨げる。なんて大人の知恵さえ殊勝に掲げている。慢性的な不眠症に悩まされているものだから仕方がない。

静かな部屋でページをめくり、小説の世界が次第におもしろさを増したところで、私はそっと本を閉じる。物語の続きは、明日の楽しみに取っておく。

さっきまで浸っていた物語の豊かな世界に思いを馳せながら、私は布団に入る。心地よい眠気が次第に私の瞼を重くする。

明日こそはあのボスを倒さないと。でも、あの街にも行きたいな。

ふと、子ども時代の私の思いが重なる。

あんな強い敵、倒せるかな。
不安を抱える子ども時代の私。

大人の私はこう語りかける。
倒せるよ、きっと。

明日はもっといい日になるさ。
そうなることを信じながら、私は眠りにつく。

今日はとっても楽しかったね。明日はもっと楽しくなるよ。そう思える日がいつかくるよ。きっと。

子どもの私にそう語りかける。

みなさまによりより作品をお届けできるよう、支援をお願いしております。 よろしくお願いします。