「100人に1人」の逸材

SNSが無茶なダイエットの元凶になるという指摘が出てきて久しい。「あなたへのおすすめ」欄なんかには本職として大活躍するモデルや芸能人が「普通」の生活を送っている中で自分は何をやっているのかという焦燥感にさいなまれるのは無理のない話で、特にSNSネイティブの若い世代であればそれに抗うことも難しいだろう。

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SNSのメリットである「地球の反対にいる凄い人と繋がれる」という点や「これまではコミュニケーションを取る術の無かった同志を見つけられる」という点がここでは裏目に出ていると言っていいはずだ。従来ならテレビや雑誌を通してでしか見ることができなかったような人が日常生活を送る「人」としてスマートフォンに顕現している(その割に無礼な言葉遣いを躊躇しない人も居るが、これは別個の問題だろう)。優れたインフルエンサーを一人見つけて「いいね」するとそのまま同等のまた優れた人が目の前に何人も出てくる。彼ら彼女らは常人には到底真似し難い能力を持ち、他に真似できるもののいないような方法で自身の魅力を世に問うている。そんなような人達を見続けることに可処分時間の大部分を投じてしまうなら、それは自分の「出来なさ加減」に落胆するのも無理のない話だろう。

しかしインスタグラムでTop10のインフルエンサーというのが居たとすると、日本国内だけで330万人に1人の存在、全世界でなら2億人に1人の存在だ。これくらいの人数なら外れ値として無視出来てしまうようにも思えるが、しかしそれができないのが人間の認知というものなのだろう。

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トップクラスのインフルエンサー以外にも投稿を見ていると「キラキラ」した様子ばかりが流れてきて、それが人々を焦らせる。そういったところで目につく人というの自体がもはや上澄みと言っていいレベルなのだがその上澄みの下にある「それなりにいい感じの層」「その人の近辺では十分な求心力がある」辺りというものが中々見えづらく、そのような層のイメージが付かなくなってしまう。そうなると「100万人に1人」の存在になろうとしてアイデンティティ・クライシスを引き起こす「100人に1人」の人が追い詰められてしまうのだろう。その人だって上位1%で結構凄いはずなのに。

こんなことを書いてみたが、とはいえ解決策を提示する意志も能力も筆者にはない。人間の認知とSNSの作りがこうである以上必然的に発生することであり、「痩せ過ぎモデル」を禁止してみせたところで別の場所で同様の問題が発生することは目に見えている。正直なところこの手の規制に意味があるとは思えないのだが、しかし現にトラブルがある以上もぐら叩きであっても何とか向き合う姿勢を見せなければならないのだろう。次世代に生まれるはずの「SNS時代に最適化された」パーソナリティとは何か、あるいはその前にSNS社会がその重みに耐えきれず崩れ去るのか。

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