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青春18きっぷ公会議

この頃ウェブに流行る物整備新幹線リニアローカル線存廃…に並んで話題になるのが青春18きっぷの使い方についてだ。そのゴングは大抵終日幹線筋の普通列車に乗り続けてひたすら遠くに向かうような使用法を想定したところから始まっている。肯定派も否定派も揃いも揃ってここから始まっているのがなんとも不思議な話で、列車内の座席配置や快速列車などの優等列車の是非などが概ねここをきっかけに論じられる(罵声の浴びせ合いと書かなかった自分の理性に乾杯)

最初にスタンスを言っておくと

ぶっちゃけどーでもいい、行きたいところに行くのに使っているしそれで発生する制約は値段と自由度のトレードオフで納得しうる範囲だなと。だいたい考えてもみてほしい、JR全線エリアの制約なく普通列車の普通車自由席は乗り放題および普通車指定席とグリーン車自由席はそれぞれ対応する料金を支払えば利用可能なのだ。1日あたり2,410円(実際は5回分12,050円)でこの自由度は破格としか言いようがない、東京圏の中距離電車の多くが終点とする駅*すらエリア外であることが多い休日おでかけパスよりも安いのである。
基本的に割引は自由度とのトレードオフだ。あくまでも一般論としてではあるが早くから、限られた区間や時間に絞れば絞るほど安くなるのが交通機関を安上がりに使うコツになっているではないか。ところが青春18きっぷは設定されているのが盆暮れついでに春休み、盆暮れなんてザ・ハイシーズンに安く移動するためのきっぷに制約があるのは理想的ではないにしても已む無しだろう…くらいに思っている。
*:休日おでかけパスの有効圏はおおむね自治医大・土浦・小田原・大月・神保原から東京寄り。宇都宮・水戸・熱海・甲府・高崎といった直通列車が多くニーズが高そうな駅が有効範囲から外されているのだがこの辺りだと東京へ往復するだけで元が取れてしまう、そりゃあ範囲から外すわけである。

割引すっご…

先程2,410円/回という数字を挙げたわけだが、じゃあ実際これは元を取ろうとするとどれほど列車に乗らなければならないのか概算…するまでもないような気がするが考えてみる。
まず前項の末尾に書いたように東京から/へ往復する場合宇都宮や水戸などでもう元が取れてしまう。「ステレオタイプな18きっぷ利用者」の場合前菜かポタージュくらいのボリュームしかない程度乗れば良いのである。300円以上高い休日おでかけパスですら利用できない移動を何の苦もなく達成できてしまうわけでこのようなエリアに住んでいる場合5回以上その期間に東京に出る用事があるなら早速効力を発揮してくれる。
バリアフリー料金などをいったん置いておき一般的なJR本州3社幹線運賃だと片道では141~160kmが2,640円で元が取れるわけで幹線普通列車の表定速度として50km/hと考えるとおおよそ3時間程度という辺りか。往復でなら片道71~80kmで1,340円だから1時間半程度のレンジになる。地方交通線や三島会社の場合運賃が全体的にもう少し高めだから元が取れる距離はある程度短くなるが列車本数が少なかったり速度が遅いので概して不利になると考えてよいだろう。例えばJR北海道の場合札幌から106km離れた深川まで行けば元が取れるが、滝川以北は普通列車が特に少ないから旅程はかなり組みにくくなる(ただし乗り継ぎがスムーズに行けば2時間少々なので本数が少ない制約さえ呑めれば割合良い方か)。
ちょっとしたお出かけ程度の利用で元が取れてしまうことは分かったが、それでは「典型的」な長距離移動の場合本来の運賃の何%程度に抑えているのだろうか。東京から日着できる最遠の駅が新山口(2023年3月ダイヤ改正で少し縮むが)と言われるがもう少し余裕を見て岩国あたりと考えてみるのが妥当だろう、ソースは始発に乗っても6時前に東京駅に着けない自分()。
東京から岩国だと935.6kmで12,210円なのでなんとこの時点できっぷ自体の元が取れてしまう、すなわち8割引という凄まじい数字。東海道・山陽本線は総じて本数が多く表定速度も高いので極めて効率的に距離を稼げることでこれほどの数字が出ている。なお東京から北に向かうと上越線経由日本海縦貫線回りで青森まで着けるのだがこちらは792.7kmで11,000円、流石に1日で元を取るまでは行かないにしてもそもそも5回分のうち1回分だけでここまでの数字を叩き出しているという時点でその異様なまでの割引が分かるというものだ。ちなみにローカル線のシミュレーションとして小倉から山陰本線を目指すと日着可能は鳥取となり、458.8kmで7,520円となるので移動距離やお得度合いは明らかに下がる。もっとも7割引をお得ではないというのは相対的にと但し書きを付けたにしてもなかなか断言するに度胸が要るような気もするが…

総括

おそらく私も含む多くの乗り鉄が1回はやるような長距離移動は定価から考えてもある意味「保証対象外」なのだろう。もちろんそのような使用方法に何ら問題もないし、魅力的な選択肢の一つであることは間違いない。ただ、長距離都市間移動を前提とした乗り放題きっぷを創るなら並行在来線第三セクター路線や特急券の追加だけで新幹線含む特急を利用できる方が良い。
現状の青春18きっぷは「そんなもんだ」と割り切って使い、それが難しいなら別の選択肢を考える、ネットでの侃々諤々は自分の思考実験のためにのみ見る…距離感としてはそんなくらいが良いのだろう。どうせ片道2時間のところに行って帰ってくれば元が取れちゃう、そんな緩いきっぷなんだし。

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