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【前編】三陸ぐるぐる乗りつぶし

6月下旬の木曜日、朝ラッシュの喧騒とは少し異なる空気の流れる大宮駅新幹線ホームで筆者は仙台行きのやまびこ号を待っていた。さあ、旅を始めよう。


1日目 鉄路の先にある道のり

今回利用の新幹線は途中宇都宮、郡山、盛岡停車のやまびこ号なので車内はいくらか余裕がある。身も蓋も無い話をするとトクだ値を取れたから乗ったというだけだが…

今回の目的はJR東日本の中で未乗だった三陸エリア各線及び三陸鉄道の完乗にある。そのため列車の本数が比較的ネックになりやすくまた乗りつぶしとはいえどのような路線かは見ておきたいので日程に余裕をもたせた結果乗りつぶし行程は始発から終電まで詰めれば2日で完了するルートを3日で回るようにして行程にゆとりを持たせた。

最近旅行先が西日本に偏りがちだったので案外ご無沙汰の東北新幹線だが、乗ってみるとやはりいつも通りの新幹線だった。E5系の走りに身を委ねて途中の福島駅で滑り込んできた上りやまびこがリバイバルカラーだなんて見ているうちに終点の仙台に到着。

全席コンセント付きはやっぱり使いやすい

その後は戯れに仙石線に乗るなどしてから棚上げにしていた朝食を、駅ナカのカフェでサンドイッチを頂いてから小牛田行きの普通列車に。

30周年の「いつもの電車」

幹線筋を走る701系は何度乗っても小気味良いもので松島の景色を愛でてしばらくウトウトしているうちに終点の小牛田に着く。ここからは石巻線のキハ110で前谷地駅まで行き気仙沼線の鉄道として残った区間を乗りつぶす。いよいよ始まる三陸乗りつぶしのはじめの一歩である。

陸羽西線仕様のキハ110
独特な車内

石巻線や気仙沼線のキハ110には興味深いバリエーションがある。一見縁もゆかりもなさそうな「奥の細道」がヒントで、これは新庄から最上川と並行して余目、そして酒田まで向かう陸羽西線仕様である。独特のカラーリングに加えて車内の1人がけクロスシートは窓を向けて固定することができて、これは沿線の川を車内から眺められる観光仕様となっているが筆者としては石巻線でばかり見ている気が…(陸羽西線が運休の現状はともかく、前回2015年にもこの車両で石巻線を乗り通したので)

列車と奥のバス
絶たれた鉄路と先を担う道路
使用していないバス停
バスは駅前広場で憩う

到着したは柳津駅、現状鉄道としての気仙沼線の終点で、ここからはBRTで気仙沼に向かっていく。正規のバス停もあるのだが自動運転の試験のためとして別箇所に発着している。この日の最終目的地はバスの目的地と同じ気仙沼なのだがルートは少し違う、バスに乗るのは明日のお楽しみとしてひとまず来た列車でそのまま折り返す。

ここからは来た道を小牛田まで戻る、さっきと異なるのは前谷地での乗換がなく直通ということか。しかしその後東北本線上下とも小牛田でほぼ1時間待ちというのには閉口した。といっても石巻から仙台に行くニーズであれば仙石東北ラインおよび仙石線で吸収できるためどうしてもニーズが低いものとなってしまっているのだろうか。たっぷり待ってやってきたのは701系一ノ関行き、快調なワンマン電車の走りを楽しんでいるうちにあっという間に終点の一ノ関に着く。

「国境の駅」

一ノ関は東北新幹線の下り列車で最初の岩手県内の駅である。大船渡線の分岐駅であると同時に東北本線の普通列車の運行系統もこの駅を境に上りの小牛田・仙台方面と下りの北上・盛岡方面に分かれる。更に面白い点として仙台方面から来る電車は赤と緑の仙台車両センター配備なのだが盛岡方面から来る電車は紫の濃淡の盛岡車両センター配備になっている。何度見ても面白い違いだと思いつつつまむせんべいと山ぶどうジュースを持って今日最後の列車である大船渡線に向かう。

せんべいと山ぶどうジュース
16mとコンパクトなキハ100

大船渡線には「ドラゴンレール大船渡線」という愛称がある。歴史的な経緯で大きく曲がりくねった線形が特徴であり、ともすれば「我田引鉄」の象徴ともされがちだが曲がった先に主要な観光資源である猊鼻渓や1996年までセメント工場への貨物列車も運行されていたあたり全く不義の迂回と捉えるのはいささか酷だろう。2両編成の列車は平日夕方で高校生の下校需要に応えるためか相応の利用があるのだが、この路線は輸送密度545(JR東日本2021年度資料より)で厳しい状態にある。地域鉄道がどうあるべきか、かつての路盤がバスの走行路と化した近隣の路線を思う。

鉄道で残った区画とバスになった区画
駅舎側に向かい
大船渡線盛方面
気仙沼線柳津方面

気仙沼駅は元々大船渡線一ノ関方面・盛方面と気仙沼線柳津方面の3方向に分かれるジャンクションだったが東日本大震災以降その内の2方向がBRTに転換されている。そのため便数だけで言うならバスターミナルに列車が入ってきているというような状況になっている。これまでのホームを活用してどこに向かうのかがはっきりと分かり昔はそれぞれが列車で来ていたのかと感慨にふけっていたがそろそろホテルに行こう。今日選んだホテルは上の画像で出ていた「ホテルパールシティ気仙沼」、気仙沼駅は市街地からいささか離れているが翌日の移動を考えると極力駅に近いところで宿泊したい。

シンプルだが不足のない客室

時間はそろそろ18時、夕食にしたいタイミングだ。先に述べたように市街地は少し離れていて目の前に飲食店があるというわけではない。人によっては大変だが、筆者としては食前体操・腹ごなしといった感覚で気軽に行き来を楽しめるレンジだった。

気仙沼ときたら(今回の旅行全体そうといえばそうだが…)旨い魚を頂きたいところだ。ということで漁港近くの市場併設の「レストラン・鮮」に入り、メニューから名物を探す。季節のカツオを含む刺身定食と郷土料理のメカジキのハーモニカ煮(背ヒレ付近の骨付き身の煮付け)を頂く。

メカジキのハーモニカ煮(左)と刺身定食

ハーモニカ煮は初めて頂くものだったが、なるほど独特の食感、ものがものだけになかなか離れた場所では食べにくいと思われる。行く機会があれば是非試してみてほしい。大満足の食事を終えホテルに帰る、明日はいよいよBRTだ。

2日目 ローカル線あんな姿こんな姿

2日目の朝はいよいよBRT乗車から始まる、9時発快速の盛行きで盛に向かうのだが鉄道跡地の専用道の他に柔軟な一般道経由はたまた高速道路まで多様なシーンの中を走り抜ける。とはいえ普通の路線バス車両で高速道路に入っても許容される最高速度は一般道と同じ60km/h、その旨の掲示が出ているのも面白いポイントと言えるだろう。高速道路経由によって定時性が高く乗り心地も良い、こういったやり方があるのかと感心した。

盛駅構内
バスと貨物列車と

バスは終点の盛に着く、今日はまだ何も食べていないしどのみち釜石行きの列車までは2時間以上ある。ブランチとして駅近くのバーガーショップに入り地元大槌町の鹿肉を使ったバーガーを頂いたのだがこれがボリューム満点で大満足、ジビエというと独特の匂いなどがあるのではないかというイメージの人もいるかもしれないが非常に食べやすく気が付いたら全て平らげてしまっていた。他にも地元の食材を使った様々なメニューがあり読んでいるだけで面白い、このメニューにしようかあるいはと何度行っても飽きが来ないだろう。

鹿肉バーガー

ここからはいよいよ三陸鉄道、2日間掛けて近隣のJRローカル線も含めて乗りつぶしていく。まずは途中下車可能な宮古行きの乗車券を購入、釜石駅でやりたいことがあるのと通常の乗車券と同額のためあらかじめ購入して売店でせんべいなども買い込む。この途中下車可能乗車券は盛から久慈までの間に釜石、宮古という主要な都市にして交通結節点を抱える三陸鉄道の地勢から生み出された興味深い産物だ。これの他に2日間有効のフリー乗車券もあるので選択肢は充分。

三陸鉄道発祥の碑

乗り込んだ列車は盛発釜石行きで、かつて南リアス線と呼ばれていた区間を走る列車となる。この区間は鉄建公団により1970年代に建設された盛-吉浜の旧国鉄盛線と建設凍結後三陸鉄道への引受けにより建設が再開され、最初から三陸鉄道南リアス線として開通した区間に分かれるのだが基本的には戦後の鉄建公団建設なので特に車窓が大きく変わるようなことはない。駅付近を除くとトンネルが割合多く、その代わり走りは安定している。恋し浜駅などは観光地としてかなり人気があるそうだが鉄道好きとしては気動車のバリエーションの多さが見ものだ。交換でやってくる対向列車にイベント車両が連結されていたりして思わず目を見開いたりもする。

頻度に驚く岩手開発鉄道の貨物列車

列車は終点の釜石駅に到着、ここでのミッションは明日使う乗車券の購入だ。ホームから降りて釜石から久慈までの乗車券を購入して宮古行きに乗り換える。明日の釜石駅での乗換えは6分しかないので乗車券を買おうと思うと心もとない時間なのだが、この区間の乗車券は2日間有効なのでこんな荒業を実行できるわけだ。ここからは元々JR山田線だった区間で開通は戦前、東日本大震災以降に復旧の上三陸鉄道に移管された区間になる。

釜石からの宮古行き
乗ってきた釜石行き
先日運行終了のSLをかたどった釜石駅装飾

この区間は前後の区間と比べてトンネルがかなり少なく路線建設時期を感じさせる。ここに限らずリアス線沿線には比較的新しいように見える防波堤が多く見えるが、ここを走るのが三陸鉄道だということも併せ大きく景色が変わったのだと思わせる。有名な小説の舞台となった吉里吉里などを通過して列車は終点の宮古駅に到着する、ここできっぷを買い直して山田線に乗り込む。

宮古駅の駅舎
山田線列車(盛岡駅にて撮影)

ここまで
・気仙沼→盛:BRT転換
・盛→釜石:(国鉄から)第三セクター路線
・釜石→宮古:JRより転換
と運営会社や形態が大きく変わってきた路線ばかりを見てきたが、山田線の盛岡-宮古はJR東日本が一貫して運行し続けている。
・宮古→盛岡:JR線継続
というとより良いように思えるのだが、この区間を通しで走る列車は1日4往復しかなく上記のどの区間より少ない。ある程度交通に詳しければご存知かと思うがこの区間の主役は106急行(特急)バスで、時刻表は以下の画像のようになる。

山田線盛岡方面
106バス盛岡方面

本数の少なさもさることながらスピードも差が凄まじい、列車より後に出て先に着くバスなんていうのも珍しくないし抜きはしないにしても所要時間の差をまざまざと見せつけられる。もちろん直ちに山田線の存廃に繋がるという見方は流石にナイーブに過ぎるようにも思えるし事実乗った列車もほぼ満席で宮古駅を出たのだが、この後川沿いをゆっくりと走っていく列車に揺られて途中駅での出入りがほぼ無い様子を見ていると少しこの思いにも自信が無くなってしまった。1両に満席の50人乗っていたとして単行で1日4本なら200人でしかない、極端に本数の少ないローカル線の場合列車は混んでいても経営的には到底成り立たないということになってしまう。

北上行きの701系

一駅10分が続き、ともすれば30分なんて区間を経て盛岡市内の上米内からは流石に通学客と思しき利用が増える。一部ではこの区間のLRT化を求める声が出るというのも(実現性はともかく)納得できる話ではある。2時間以上座り通しで気だるい気分になりつつあったところ新幹線への接続放送が流れてついに終点の盛岡駅、しばらく周りの列車を撮ってから出場して夕食としよう。

釜石線キハ100
前側から
回送のクモハ701
後ろのクハ700から

この日は盛岡冷麺とした、駅ビルの地下の店に入りカルビ冷麺とビビンバを注文する。辛口をオーダーしたつもりがそんなに辛くないと思いつつも全体としては大変満足できる量と味だった。駅でこのようにサクッと食べられるのはやはりとても嬉しいものだ。

冷麺とビビンバ

今日はもうここまでである。ホテルに入り早く入浴して寝ることとしよう。明日は往年の急行の面影を辿りつつ三陸制覇を狙う。

後編はこちら


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