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ヒナドレミのコーヒーブレイク      洗濯物

 それは、梅の花がちらほらと咲き始めた2月の朝のことだった。私はこの日、何故か早く目が覚めてしまった。時計の針は5時を指している。(掃除や洗濯は、音が近所に聞こえるからまだダメだし・・・)窓の外はまだ暗かったが、天気は悪くなさそうだったので、散歩に行くことにした。

 今日は、いつも通勤や買い物の際に通る道ではない道にしようと思った。我が家を出て、3回ほど右左折を繰り返して坂を上ると、そこには別荘風の家が建っていた。早朝だというのに、もう洗濯物が干してある。(あれは昨日 洗濯物を取り込むのを忘れたのだろうか?)と、どうでもいいことを考えた。見るとはなしに 洗濯物を見ると、左側に大きい洗濯物、右側に向かって徐々に小さい洗濯物が干してあった。(ここの住人、几帳面な人なのね)と またどうでもいいことを思った。

 散歩を終えて、私は帰宅した。例の洗濯物のことは、すっかり忘れていた。

 翌朝、起きた瞬間 私の脳裏に浮かんだのは、例の洗濯物のことだった。今日もまだ5時半前だ。夫は隣で熟睡している。(ちょっと行ってみよう)私は、例の洗濯物を見に行くことにした。

 少し急ぎ足で、あの別荘風の建物に向かった。すると、洗濯物は昨日と同様、大きい洗濯物から順番に干してあった。(あれ?一昨日から取り込んでいないの?)

 私は、それ以来 そこの住人がどんな人なのか 気になって仕方がなかった。そうかと言って、警察の真似をして 玄関で張り込みをするわけにはいかない。

 我が家に戻った私は、夫にこの話をしてみた。すると「あの別荘風の家だろ?」と、夫はどうやら あの家を知っているようだった。「あの家にはな、一人暮らしのお婆さんが住んでいるらしいよ」

 その翌日、夫と私は その家を見に行った。洗濯物は、昨日のままだ。私たちはその女性が心配で、玄関に回ってピンポンした。だが女性は出てこない。「ごめんください」と言いながら玄関ドアを開けてみる。ドアは開いた。悪いとは思ったが、玄関を上がり部屋へ入った。すると・・・

 冷え切った部屋に、そこの主が倒れていた。見ると、どうやらブレーカーが落ちており、その近くに椅子が倒れていた。

 おそらく、この女性は、ブレーカーを上げようと 椅子に乗ろうとして落ちたようだ。夫がブレーカーを上げ、私は手近にあった電気ストーブを点けた。「大丈夫ですか?」とその女性を揺すると、女性は小さく頷いた。      
                                完


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