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500円玉貯金

お店をしているせいか、小銭が当然出てくる。その中の500円玉を大吾は貯めていた。
30万円貯まる500円玉貯金用の貯金箱が時々一杯になる。それをいくつか貯めて海外に行っていた。

小銭と言えば、はるか昔、父親が蒸発した直後、ドラマのような借金の取り立てが我が家にやってきた。

強面のおじさん達が、父親の残した借金を取り立てに来ていた。
うちにある金目の物は、持っていかれもう何も金目のものはない。貼り紙もされたし、大声も出されたし、嫌がらせもされた。保証人になった訳でもないので、今であれば何か他の手立てがあったかもしれない。
でも、母親が返すということで、そこは解決した。
給料のほとんどが借金に消え、暫く貧乏生活が続いた。

今、CMで、昔の過払金返還のCMがあっているが、それうちにも当てはまるんしゃないのかなと思うけれど、母親自体がさほど気にしてないので、蒸し返さないように、そっと心の中で思うだけにしている。

借金取りが来なくなったと思ったら、今度は、父親に雇われていたという人が家にやってきた。給料が未払いだったという。お金がないことを言っても中々引き下がらない。本当にお金がないのに、玄関に立ったまま帰らない。

母親は、押し入れの片隅から、ビニール袋に入った小銭を持ってきた。1円玉、5円玉、10円玉がメイン、時々50円、良くて100円が入った袋をその人に渡すと「うちにはこれしかない」と言って、その人に渡した。母親と子供達しかいない家で、ごねてもこれ以上何もないと分かったのか、その人は帰りそのまま現れることはなかった。

数えれば1000円くらいだったと思う。それで許してくれたのは、今思うと感謝しかない。
でも、それを男に渡している母親の姿は、今でも忘れられない。母親の強さと、哀れな姿を、溜まった小銭を見るとつい思い出してしまう。

その頃の私は、500円玉で海外旅行に行けるなんて思ってもみなかった。でも、贅沢な生活に慣れても、小銭の思い出も、私の一部だった。

その贅沢な生活も、暫くすると思い出になった。

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