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第2回「The September Issue」


ゼミ以外の時間を使ってドキュメンタリーを観て対話する勉強会、「ドキュメンタリーを観る会」。
このnoteでは、観た「ドキュメンタリー」の概要と「対話」から得た気付き、そして気付きの中で「わたしは」どう考えるのかをまとめたいと思う。


ドキュメンタリーを観る

前回に引き続きファッション業界ということで、第2回は「The September Issue」を観た。

「September Issue」は、世界で最も影響力のあるアメリカのファッション雑誌「VOUGE」の「9月号」制作現場を追ったドキュメンタリーである。

この「9月号」は一年で最も分厚くなる。それは次の年のファッション界の流行(フランス語で「VOGUE」)を決める最も重要な号だからだ。選りすぐりのデザイナーによる渾身のデザインが見る者を魅了する。この9月号の内容が、次の年のファッション業界の製造、広告、小売、その他関係のあるあらゆる業界業種の人々の運命を決める。このドキュメンタリーでは、編集長アナ・ウィンターと、共に雑誌を作っていくデザイナー、ディレクター、カメラマン、モデル達の2007年の「September Issue」を追っている。

コメディタッチで描かれる中でのこのドキュメンタリーの見どころはやはり、アナのカリスマ性と仕事への妥協なき厳しい姿勢だろう。その様子は、マネージャーに「アナは不必要に気さくでない。だから代わりに僕が気さくに振る舞う」のだと言わしめるほど。各界の動向やトレンド、世の中の動きを見極め、的確なコンセプトを組み上げる。GUCCIの事務所へ行ってコメントし、カメラスタジオに行ってモデルと交流する。自身の事務所には次々掲載用の試作品が運び込まれ、スタイル案の採用・不採用を有無を言わせず瞬時に判断する。映画「プラダを着た悪魔」のモデルになったのではないかとも言われるアナのその仕事ぶりは、分刻みのスケジュールの中を駆け抜けていく。


対話する

今回は内容に関する対話の前に、先生にこんなことを言われた。ドキュメンタリーを観る時、本を読む時、話を聞く時、そのコンテンツを楽しんで新たな発見をするには、何か役に立つことはないかなとか感想として言うのに丁度いい論点はないかなと探すのではない。一つ一つのシーン、セリフ、状況を、いつも観始めた時のような新鮮な気持ちで受け取るのだ。始まった途端に一番言いたいことらしいことを予想して探し当て、見つけ出した言いたいことらしいこととラストで矛盾がないかだけ確認し「感想」として発表するのは、ナナメ読みしているのと変わらず、ちゃんと観ていなくてもできることだ。最後まで新鮮に。今まで理解していた内容から最後のワンシーンでガラリと印象が変わるとき、それに気付けるように。具体的な場面、セリフを挙げて、ここのところで自分は心が動いたと言えるように。それが観るということだと。

新鮮な気持ちで観て気付き驚き楽しむこと。これが素のままの自分を観ることにもなるのではないか。他人との違いを観ることにも、自分の見方を観ることにも。

今読んでいるこの文章、何か気づきがあったとしたら嬉しいが、いかがだろうか。


わたしは

「The September Issue」には中心的な人物が二人いる。一人はもちろんアナ・ウィンター、そしてもう一人はアナの右腕、クリエイティブディレクターのグレイス・コディントンだ。ドキュメンタリーの中では、ビジネスとして世界中の流行を作り「売れるもの」を生み出すアナと、自身のセンスに従って自分の世界を追い求めるグレイスが衝突する場面が何度も描かれていた。

わたしはグレイスになりたいと思った。
中盤のシーンで、西洋絵画のような作り込まれた美しい写真にお金も時間も注ぎ込み、出来上がった作品を見て素敵だと満足するグレイス。しかしアナには一蹴されてしまう。納得がいかない。それでも、それならもっと良いものをと次の作品に取り掛かる。新しいアイデアもどんどん取り入れていく。作るということそれ自体を心から楽しんでいるように見えた。一流のクリエイターであるグレイスは、きっとこれからもどこまでも高みに昇っていけるのだろうと憧れた。私がアナやその周りの人間だったとしたら、売れるかどうかの前に、グレイスは次にどんな作品を持ってきてくれるんだろうときっと期待してしまうだろう。

前回はエシカルファッションについてのドキュメンタリーを観た。このことも踏まえてみる。
登場する人物たちはそれぞれ自分が一番良いと思うやり方で仕事をしていた。アナとグレイスは対立するようでいて、より良いものを作りたいという思いは一致していた。夢と希望と信頼に溢れていた。このドキュメンタリーではエシカルの話には触れられていなかったが、だからと言ってわたしはあの厳しくも夢のある世界を否定することはできない。
エシカルファッションにもモードの世界にも信念があった。服を買う時、私はそのどちらも意識していなかったような気がする。前回は最後にエシカルの視点から一つ一つの服を大切にしていきたいと書いたが、誰かが自分の世界と世の中の間で試行錯誤した服というのもまた、敬意という意味で大切にしていきたい。

VOGUE japan6月号「ゲットレディ」¥980は5月1日に発売している。アメリカ版¥1890は5月28日だそうだ。

次回は字幕も解説もないノーナレーション(ノーナレ)のドキュメンタリー、「The 選挙」を観たいと思う。「対話する」で書いたドキュメンタリーの見方を一番楽しめるのではないかと思う。楽しみだ。

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