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思い出のカレーはどんな味?

読書をするのは面白い、その世界に入ることができるから。
色んな作品を読んできて、自分にとって何かが響くものに出会う。
この本はそばに置いておきたい、と心に響く作品が時々ある。
この作品が、それであった。

竹内真『カレーライフ』集英社

なかなかに厚みのある本(460頁あった)で、1頁2段での構成である。

ただし、文体が非常に読みやすく、話の展開も多く、すぐにその世界に飲み込まれていった。

洋食屋を営む祖父。
お盆には親戚が集まり、僕たちは5人で祖父のカレーを食べたものだった。
僕たちが食べている姿を見ながら、厨房で晩酌をする祖父。
その光景が大好きだったのである。

時は流れ、僕は19歳になった。
調理師学校を卒業した僕は最後の春休みをゆっくり過ごすつもりだった。
こんなことが起きるまでは。


カレーにちなんだ構成は圧巻である。
多様なカレー、日本、アメリカ、インド…それ以外の国の様子も垣間見え、さながら旅行記のような楽しみ方もできる作品となっている。
カレーと祖父を追って旅をしながら、主人公ケンスケは最後に大切な何かを見つける。

学生時代までは校則にガチガチに縛られるのに、社会人になると「好きにしろ」と言わんばかりに放り出される。
社会に対応できるように、それまでに自分なりの学びを持っている人って、どのくらいいるのだろう。
ケンスケは「宙ぶらりん」の自分、「地に足がついていない」自分に非常に不安感を持っている。
その「宙ぶらりん」というのは、自分にとっての「軸」のようなものなのではないかと思う。
ケンスケは最後にその「軸」を見つけることができた。
それは彼にとって一番の収穫であり、今後の人生を支えてくれる大切なものになったであろう。

あと、「変化すること」が「生き延びること」という視点は私にとって新鮮だった。
忘れないでいたい。


「店が潰れて、みんなで借金抱え込むなんてことになっちまうんじゃないか?」
「そんなの、やってみなきゃ分からないよ」
 僕は笑って言い返した。この先どうなるかなんて開店してみなけりゃ分からないし、うまくいかないようならやり方を変えていけばいいだけのことだ。先々のことを思う度に感じていた不安感は、もう僕の中から消え去っていた。

竹内真『カレーライフ』集英社


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