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耽楽的楽曲紹介第3回 榎本夕食「沼に潜む月」(『魚眼街』(2020))

第9回_ただ暮らす事の重さと軽さ_2024.01.13|耽楽的音声記録 (note.com)で紹介した楽曲について。いつもなら訳詞を載せるのですが今回は邦楽であるため話し忘れた軽い感想でも。

本作は架空の街、「魚眼街」を舞台にした作品となっており題名通り作品全体から水の底のように静かで湿った場所のようだというのは確かです。アルバムはその夜が更けていく様を描いており、その水の底のような場所のとある住人は雨の降る風景を眺めながらさらに記憶の中、心の中にも潜っていきます。この叙事性と世界観を表現する湿気と暖かみのある諦観のようなものがたまりませんでした。

魚眼街 | 榎本夕食 (bandcamp.com)

1「冬眠」―街の概観が語られる。
「この街は月の影を 直に浴びせて 優しさを偽ること それしかできない」

2「沼に潜む月」―外を眺めてまどろみながら自分の深海へ潜ってゆく住人
「一個、二個、三個 ひとつひとつ失っていく 何も持っていないのに」

3「しとしと」―雨が降ってくる街を見てさらにまどろむ
「ゆらゆら漂う しとしと、雨が降る 街に滲むように」

4「おばけの行進」―夜中におばけは動き出す
「おばけの行進 息を止め そのまま 沈む」

5「行方不明」―住人はほとんど眠りに落ちてしまう
「心像に 花は揺れる 眠るように 沈み込む部屋で」

6「深海」―暗闇と孤独の中でも何かは見える
「でも今夜はさ 新しい歌ができるよ 楽しみにしてて」

7「魚眼街」―底に沈んだ先は
「ああ ためた息を吐き出せ この街をぜんぶ 覆い尽くせ」

「深海」的なところに潜る感じの曲と言えばミスチ…なんて事を言わないのが片倉洸一ですが、過去、記憶へと潜り込んで出られない様を描いた作品としては小林大吾「真珠貝亭の潜水夫たち/pearl divers」がまたいい一品です。
この曲の場合、深く潜った潜水夫は潜水服を持って出ていくわけですが、別に魚眼街の住人は街を出ていくわけでもなさそうです。これからも街に住みながら何度も苦労や不安を感じて深海へと潜ってはまどろんで暮らしていく気がします。その哀愁がまたなんともたまらない。
小林大吾 - 真珠貝亭の潜水夫たち/pearl divers (youtube.com)


参照
魚眼街 | 榎本夕食 (bandcamp.com)
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