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Mさんのこと③

今日の記事は②を読んでから読んだ方が良いと思います。
前回までのおさらい。

突然、Mさんから
「この後、時間ある?」
と尋ねられて僕はドギマギしていた。

時刻は20時を少し過ぎたところ。
まだ宵の口。
札幌は緯度が高いから夏の夜は明るい。

僕の元恋人よりも美人でないけれど、(そこそこ)かわいらしいMさんと、もう少しだけ一緒にいたいと思った。

少し夜風に当たりたいので歩きたいです。

と僕はMさんに伝えた。
先ほどの洋食店で飲んだ赤ワインのせいか身体が火照る。

Mさんと二人並んで川沿いの道を歩く。
先ほどの店では楽しくおしゃべりしていたのに急に無口になる。

これって、あれなのか?
えーでも僕の方から誘うのはあれだし。
それに二人のタイミングが良すぎるとか何とか言ってアレするのもあれだし…。

またも一人脳内のグラウンドを周回している僕に

竹内くん、この先にあるミスド行く?
それともコンビニかツルハで飲み物買って飲む?
私、この近くに住んでいるから。

Mさんの最後の言葉に何が続くのか迂闊にも想像して心拍数は上昇する。

ここで素直にMさんのオファーを受け容れれば青春映画の一本にもなりそうだが、ちょっとアブノーマルな僕はこのタイミングでどうしても訊きたかったことを尋ねる。

何で婚約破棄したんすか?

一瞬、Mさんの表情が曇るのが月夜の中でも分かった。
尋ねた瞬間、しまった、いらんこと訊いたな。
と後悔しても後の祭り(夏祭りだけに笑)

それでもMさんは青いワンピースの裾を治しながら、ぽつりぽつりと話してくれた。

私、普通に見えるけど実は病気で高校に行けなかったの。
うん、中卒。
竹内君は北大だから頭いいよね。
でも私の元カレも北大で地元(釧路)の方ではそこそこの会社で働いていたの。
もちろん、病気のことも話したし、そんなの関係ないから一緒になろうって言ってくれた。

だけどね。
周りの目とか、やっぱり病気のことがあるからこれから迷惑かけるかもしんないから最後の最後で怖くなったの。

ごめんね。重いよね。
こんな話。

言葉をなくした。
少なくとも今よりも本をたくさん読んでいたのに、適切な語彙が見つからなかった。

ただMさんが何の病を患っているのか深堀りするのはさらに傷つけてしまいそうな気がしたのでやめた。

その後、コンビニに立ち寄って飲み物を購入した後、お互い別々の道に別れた。

もしもあの時、変な質問をしないでMさんとミスドに行ってから二人でアパートに行ったらどうなっていたのだろう。今となっては想像もできない。

でもきっと当時の僕は、ためらいがあったし、別れた後にすぐに安易な流れで他の女性に手を出すような姿を元恋人が知ったら、きっと軽蔑するだろうなとか考えて、後ろ髪を引かれる思いはあったものの、その場で別れることにしたのかもしれない。

ただあの夜、関係が近すぎないから言えることもあるということを知った。

僕とMさんはただの知り合いにすぎず、「友だち」ではない。
(友達の定義が難しいのであえて「友だち」と表記しました)

刹那的な関係性だからこそ、カミングアウトしても憚れないだろうとMさんは思ったのかもしれない。


その夏祭りのボランティア以降、僕はMさんに会っていない。
なぜか分からないけど僕らは連絡先を交換しなかった。

今、元気に暮らしているかな。
夏になると毎年Mさんの人懐っこい笑顔を思い出す。

今日も皆様にとって良い一日になりますように。
素敵な三連休最終日をお過ごしください。

洋楽好きだったMさんのために再掲します。

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