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読書録

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読んだ本の感想などです。
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2023年12月の記事一覧

読書録「キネマの神様」

原田マハ「キネマの神様」(文春文庫) 名画座のあった時代が愛おしい。 今は個人がスマホやタブレットによる動画配信サービスで映画を視聴しており、作品を鑑賞するというより消費している。 倍速で消費されたら往年の名作映画は色褪せてしまうだろうな。 この小説を一言で述べるとしたら 「おじさんのブログ奮闘記」である。 しかし好きこそものの上手なれ。 主人公の父親はパソコンに向かい、ぎこちない手つきで映画レビューをブログに投稿する。 その結果、思いがけない人と繋がることができ物

読書録「生きること学ぶこと」

広中平祐「生きること学ぶこと」(集英社文庫) 太宰治「正義と微笑」(錦城出版社) 来春から長岡市で参画させて頂く学習支援ボランティアの代表の方が数学教諭の資格を持っていたので数学教育に関する共通項が見つかり嬉しかった。 ボランティア団体のインスタグラムを拝見すると広中平祐先生の「生きること学ぶこと」が紹介されてあり、「わかっているな~」とにやけてしまった。 広中先生は日本を代表する世界的数学者で1970年に「複素多様体の特異点に関する研究」で数学のノーベル賞といわれるフ

読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

読書録 「もしも、私があなただったら」2011/2023

白石一文「もしも、私があなただったら」(光文社) 目に見えないものの大切さをテーマにした連作小説集「どれくらいの愛情」のあとがきに本作が紹介されていたので読んでみた。 表題の通り自分が相手の立場になったら何を思い、どのように行動するのか、相手の立場に立つとはどのようなことなのかに主眼を置き物語は進んでいく。 「人間の愚かさはいつの時代も止まることを知らない。むしろこの世界では、そうした愚かさを身をもって演ずることこそが人生の目的なのではないか、と近頃の啓吾は考えるように