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読書録

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読んだ本の感想などです。
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読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

続・武士道とは何か

昨日の続き。 昨日の記事を書いている時、武士道と言えば大先輩である新渡戸稲造についても言及しないといけないよな、と感じたので概要を記載することにする。 昨年(2023/9/26)書いた「ノブレス・オリージュ」で教育者としての新渡戸について紹介したものの「武士道」については触れなかった。 新渡戸が"BUSHIDO The Soul of Japan"を英語で著したのが1899年のこと。 日本では翌年1900年に裳華房から翻刻されたという。 ベルギーのある法学者から「日本

武士道とは何か

サルトルの「実存主義とは何か」を意識したタイトル。 余談だが、「実存主義はヒューマニズムである」というのがオリジナルのタイトルだが日本語として長すぎると判断され改題された。 先日、賛助会員になっている人文知応援フォーラムからニュースレターが届いた。そういえば「会員の声」に寄稿文を求められたがどうなったのだろう。 恐る恐る読み進めていくと… あった。 以前noteに投稿したものと同じ内容のものが掲載されていた。 事務局の皆様、拙文を掲載して頂き誠にありがとうございます。

続・やさしい関係

あえて本日のインスタライブの告知をタイトル前の画像に持ってくるという荒業に出た。 ひさびさに歌うのでボロボロかもしれませんが、物好きな方は是非ともご視聴くださいませ。 はい。 宣伝は終了したので今日の本題へ。 昨日(2024/8/16)の一コマ。 札幌の某ホテルにチェックインした後、かつて足しげく通った大学の書籍部へ行った。つい先日、思いがけず賞与を頂いたので(まさかもらえるとは思っていなかった)、早速本に溶かす。 村上雅人「解析力学」(飛翔社) 齊藤誠「教養としての

小説『魔の山』 と、いわゆるスクールカーストの神秘を考える

小説のここまでの大まかな展開トーマス・マン『魔の山』がようやく終盤に差し掛かってきた。1,500ページの極めて分厚い本なので、終盤だけでもほぼ400ページはある。 この作品ではここまで主人公の教育係的存在の小洒落たイタリア紳士を始めとする非常に頭脳明晰な論客が、巧みな弁論を続けてきた。彼らの終わりなき議論、討論やその他の様々な体験を通じて、主人公のハンス・カストルプは感化されてきた。 そして彼はきわめて多様なことを考えさせられながら、人間的に成長してきている。 以下、微妙

スタバの効用

俱知安町に引っ越して今のところ生活で不便なことはない。 物価は高いものの、極力無駄な買い物をしなければいいだけの話なので、かえって節約できているような気がする。 しかし、あえて言えば二つ要望がある。 ひとつは僕の食指が動く専門書や古書を取り扱っている書店がないこと。 恐らく個人経営の書店が1店舗しかないのかな。 僕が引っ越してからすぐに(2024/6/9)TAUTAYA倶知安店が閉店した。 なんてこった( ;∀;) 仕方ないのでAmazon先生でポチ買いしているが、や

朗読してみました②

前回、初めての試みとして朗読してみた。 思ったより評判が良かったので有島武郎とは別の好きな本を手に取った。 岡潔集第3巻より  「こころ」 今日も皆様にとって良い一日になりますように。 こころはどこにあるのだろう。

朗読してみました。

親しくさせて頂いているnoterさん方が朗読していたので、僕も真似して朗読してみた。 カラオケとはまた違って間のとり方やアクセントなど朗読する際に色々なことを意識するから緊張感があった。 でもある人が言っていた 平面的だった文章が立体的に立ち上がる ということを身をもって知り、言葉の豊饒性に触れることができた。 ちなみに朗読したのは有島武郎「生まれ出ずる悩み」。 Instagramに投稿した通り先日訪問したニセコ町の有島記念館で購入した書籍だ。畏れ多くも僕にとっては

Never Let Me Go

毎朝、朝食を食べながら新聞に目を通す。 さーっと眺めて気になる記事があれば食後、歯磨きをしながら精読する。 あるいは夕食時に読み返したりする。 本も新聞も電子版は苦手だ。 紙でないと内容が頭に入らない。 それに紙の新聞はめくっていると思いがけず面白い記事に出会うことがあるから新鮮だ。 さて爽やかな朝ルーティンの書き出しだが、ここから少し重くなる。 2024/6/19の日本経済新聞一面に驚愕した。 それは難病治療のために体外受精で「救世主きょうだい」と呼ばれる弟か妹を誕

貴方に、ありがとう。

こんなことを書くのは少々気後れするけれど、書かなければ届かない。 いつも個人的な感想を書いてばかりいるが、それはモノローグだから過去のあるいは未来の自分自身に向けて書いている。 だけど今日は、ある人に向けて伝えたい。 東京に出発する前、宅急便で一冊の本が届きました。 村井静「花」 ふわふわと浮遊するようなクラゲの写真の表紙を眺めていたら、ひと月ほど前に見たオバケのイラストを思い出しました。 転職活動や北海道への引っ越し準備など慌ただしい日常の中、以前に注文したこと

今が辛い人へ~ある過去の日記から~

引っ越しに向けて部屋の片づけをしていたら10年以上前の日記が出てきた。 大分前に森山直太朗の「生きていることが辛いなら」を毎日聴いてしまうようなメンタル不調に陥った時期があった。 今思うと取るに足らないことで悩んでいたにも関わらず、当時は出家したいと本気で考え、お寺を探していたことが日記からうかがえる。 余談だがnoteに投稿した記事で、タイトル脇に年月表記が付記される内容をリアルタイムで書いていたのは、そんな人生がうまくいかず悶々としていた暗い時期だった。 以前もn

物語の効用

僕たちが分かることはほんの一部で、わからないことの方が圧倒的に多い。 現実世界は複雑怪奇。 数学で答えが出るのは、ほんの一部の簡単な問題だけ。 三体問題の事例を持ち出さなくとも完璧なシュミレーションを作れないことは容易に理解できるだろう。 だからと言って、安易にスピリチュアル的なものに走ってはいけない。 極端な例かもしれないが、僕がカラオケで歌っている楽曲が流行した90年代は、某新興宗教団体がカルト的な事件を起こして世間を震撼とさせた。 驚くべきことに首謀者たちは高学歴

祈りと社会的処方箋

先日、Instagramに投稿した通りアート・ミックス・ジャパン2024を見るべく新潟市民芸術文化会館、りゅーとぴあを訪ねた。 僕は法相宗大本山 薬師寺の「修二会花会式」を見たくて事前にチケットを購入していた。 花会式とは、意識・無意識のうちに犯している過ちを僧侶が国民に代わって懺悔し、国家繁栄・万民豊楽・天下泰平・風雨順次・五穀豊穣・病気平癒を薬師三尊様に祈願する、8世紀から続く日本の重要な法会である。 御本尊に10種類の造花を供えることから花会式と呼ばれる。 開演

新社会人だった僕に贈る言葉

たしか、伊集院静さんが毎年この時期に「新社会人へのメッセージ」という文章を新聞広告で発表されていた。 実は春になると、毎年この伊集院さんの文章を読むのが楽しみだった。 残念ながら昨年11月に旅立たれて今年は新社会人へのメッセージを読むことができない。 ないものねだりをしても仕方がないので、こんな時は何度も伊集院さんの著書の言葉を反芻してきた過去の自分へ語り掛けよう。 これは「13年前の僕へ」の続き。 新社会人になる僕へ 札幌からの引っ越しも済んでほっと、ひと段落つい