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今話題の「推し燃ゆ」は面白くないのか

私が最近読んだ作品の一つに、直木賞を受賞した「推し燃ゆ」という作品がある。あまり社会に馴染めていない主人公が「推し」という存在に出会って、自分の世界が変わっていく……しかしその推しが炎上してしまう。そんな物語だ。最近の情勢も相まって、既視感があるという人も少なくはないのではないか。

私がこの本を借りようとしたとき、友人に「面白くないよ、その本」と言われた。人は第一印象でその後の関係が大きく変わるというのに、この本は最悪だ。私は周りの人に影響されやすいタイプなので、なるべく本を読んだり映画を見たりするときにはネットでもなんでも評判を見ないようにする。それなのに、私が最初に聞いた評判は友人の「面白くない」だった。どうしたものか、読む時間が勿体無いとまで言うなんて。でも芥川賞を取ってる作品じゃないかーーーそう思って結局、重い気持ちのまま読むことにした。いやむしろ、あの本の虫である友人が「面白くない」とまで言うなんて、という期待すらあったかもしれない。


本題


読了後、暫くぼーっとしていた。友人の「面白くない」という感想も、わかる。めちゃくちゃわかる。まず主人公がどうしても好きになれない。精神障害を患ってるから仕方ないのかもしれない、けれど、周りに迷惑かけながらそれに申し訳無さを全く感じてないことに苛々してしまう。

感情の描写はとても丁寧だ。私にだって好きな俳優だとか、漫画のキャラだとか、好きなYouTuberがいる。その人に健康に生きてほしいと願ってやまない。そんないわゆる「推し」が一人でもいる人には感動するほど丁寧に感情が描かれている。たしかにこれは文学作品としての評価に繋がるかもしれない。

でもそれ以上に最後のシーンの人間臭さに、最後の最後でなんとか人生を立て直していく兆しがあったときに、物凄い鳥肌がたった。色々と迷った挙げ句に綿棒のケースを選んだところ、散々推し活だけが生きる意味って言ってた癖に惰性のように生きてて死なない感じ。物凄く人間臭い。

きっと彼女はこの先生きていけないかもしれない。そんじょそこらで野垂れ死ぬかもしれないし、何とかやっていけるのかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。

きっと、きっとこの本は最後の綿棒をかき集め、部屋の掃除を始める……あのシーンを書くために創られたのだと、少なくとも私はそう思った。

結局推しが居なくなろうが人間としての営みはやめられない。時間は彼女を癒やすだろうし、きっと思い出も美化される。そんな当たり前の事を、ダイレクトに読者に伝えてくる。なるほどこれは学ぶことが多い作品だ、と私は思った。

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