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【コメディ】愛の時間旅行

この記事はオーディオドラマシアター SHINE de SHOWに再掲されています。今後はそちらのアカウントにてご覧ください。

あの時、あれをやっていたら、そっちを選んでいたら、
もっと違った人生を歩めていたはず……。

そんな夢、誰しも見たことはあるけれど、
今回の主人公は、執念でほんとにタイムマシンを開発してしまった男。
彼が取り戻したかったものとは?
そして開発した博士はなぜスイッチを押したがらないのか…!?

生きるとは…?人生とは…?
そんな深遠なテーマとは、実は無縁の、
男女の哀しくおかしい、たわいもないお話です。

*************
▶ジャンル:コメディ

▶出演
・岩城:青木弘和(東北新社)
・律子:大屋光子(東北新社)

▶スタッフ
・作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)
・プロデュース:田中見希子(東北新社)
・収録協力:映像テクノアカデミア


『愛の時間旅行』シナリオ

登場人物
 岩城いわき(50)社長
 律子(50)工学博士

岩城「そうすると、時間旅行はできないと、そういうことかな? 律子君」
律子「その通りです」
岩城「待ってくれ。それを決めるのは君じゃなくて僕だと思うんだ」
律子「たしかにそうですね」
岩城「なら話は簡単だ」
律子「しかし、このタイムマシンを長年かけて設計し、完成させたのは工学博士のこの私です」
岩城「もちろんそうだ。そして、この会社の社長は?」
律子「あなたです、岩城社長」
岩城「うん。つまり君がどんなに素晴らしいアイデアを持っていたとしても、僕の財力なしでこの人類初のタイムマシンは完成できなかった。そうだよね」
律子「はい」
岩城「そして僕は人類史上初、時間旅行をしようとしている男だ」
律子「まったくそのとおりです」
岩城「では、僕の言う通り、そのスイッチを押してくれればいいんじゃないかな?」
律子「はあ……」
岩城「ただスイッチを」
律子「できません!」
岩城「だからなんで? なんでスイッチを押せないんだ?」
律子「あなたが、ほかのどんな時代に行こうと自由です。ただ」
岩城「……ただ?」
律子「ただ……」
岩城「……ただ?」
律子「高校時代に戻って私に告白するのはやめてくださいっ!」
岩城「えーっ」
律子「もう一度言います。高校時代に戻って私に告白なんかしないでください!」
岩城「な~んでえ~?」
律子「ありえないでしょ。五十のおっさんが三十三年前に戻って高二の私に告るんですよね? うら若き高二の女子がうん、て言うと思います?」
岩城「うーん(考え込む)」
律子「あなたがタイムマシンを開発する原動力が何で、どんな執念で今までやってきたかは知っています」
岩城「……」
律子「高校時代に私に告れなかった。それをずーっと後悔して、あの時代に戻りたいと思ってタイムマシンを実現しようとした。ですよね?」
岩城「わかってるじゃない」
律子「何万回も聞きました」
岩城「なら!」
律子「でも、それほんとにやります?」
岩城「えー、だって」
律子「たとえば、万が一、万が一ですよ、あなたが過去に戻り、高二の私に告って、それで私がうんと言って付き合って結婚でもしたらどうします?」
岩城「だからあ、そうなりたいから過去に戻るんじゃ~ん!」
律子「じゃあですよ、望みが叶ったとします。望みが叶ったあなたは、大人になってタイムマシンを開発しようとします?」
岩城「……え?」
律子「しませんよね。つまり今、ここにタイムマシンはないことになりますよ」
岩城「待って。もし君と付き合えたとするじゃない。いや待て、君と付き合うつもりで戻るわけだからもしもは変だな」
律子「どっちでもいいから」
岩城「ともかく、君と付き合えたなら、そもそもタイムマシン開発しなくていいじゃん」
律子「……え? 開発しないの!?」
岩城「しない」
律子「だって大発明ですよ! タイムマシン。人類初ですよ!」
岩城「いいの」
律子「いやいやちょっと待って。落ち着こう」
岩城「君が落ち着こう」
律子「いいですか、そのタイムマシンを開発しなきゃ高校時代には戻れないんですよ!」
岩城「でも、君を僕のものにするという夢は叶ってるわけじゃない」
律子「……出たよ」
岩城「何が」
律子「タイムパラドックス」
岩城「お~出た出た」
律子「お~出た出たじゃないですよ。あと、僕のものにするって言い方!」
岩城「そうかそうか、わかったぞ! 君は恐れているんだな」
律子「何を?」
岩城「僕に告られて、僕を愛してしまうことを」
律子「あのね、高二の十七ですよ。五十のおっさんなんて完全にお父さんですよ」
岩城「そう言われると自信なくなってきた」
律子「わかっていただけました?」
岩城「たしかに五十のおっさんに勝算はないか……」
律子「よかった」
岩城「……なら、高二の僕ならどうだ?」
律子「え?」
岩城「過去に戻ったら高二の僕を説得する。律子に告らないと一生後悔するぞ、告らないとタイムマシンの開発に全財産はたいてしまうんだぞと説得して、君に告らせる」
律子「あの、すいません。私、ごめんなさいすると思います」
岩城「まじで?」
律子「それでも告ります?」
岩城「だってそのためにこの年まで情熱注いで来たんだよ」
律子「そんな潤んだ目でまっすぐ見られても」
岩城「やってみなきゃわからないじゃない!」
律子「そうとうとこ!」
岩城「え?」
律子「そういう自己中で自己愛強くて頑固なところ昔っから苦手なの!」
岩城「……!」
律子「言っちゃった。ごめんなさい!」
岩城「ショック……」
律子「ていうかですね、それなら今告ればいいじゃないですか」
岩城「え?」
律子「私のこと好きなんだったら、今ここで私に告ればいいじゃないですか」
岩城「……なんてことだ! なんでそれに気づかなかったんだ」
律子「いや、普通そうするでしょ」
岩城「そうか。そうだったんだね。君からその言葉が出るとは思わなかった」
律子「はあ」
岩城「君、待ってたんだねっ」
律子「え?」
岩城「わかった。今、言う。言うよ。僕と……僕と付き合ってください!」
律子「(即答)ごめんなさい」
岩城「えーっ! 断わるの?」
律子「お断りします」
岩城「……ったく変わらないな君は。昔っからそういう思わせぶりな態度」
律子「え……」
岩城「もういいわかった。今の言葉で決心ついた。やっぱり行く」
律子「あ、ちょっと! 返してくださいスイッチ」
岩城「行くから! 高校時代。そして十七の君に告る!」
律子「ちょっと待って!」
岩城「告るったら告る!」
律子「やめてください!」
岩城「今行くぞーっ! 律子ーっ!」
   スイッチオン。
   タイムマシン作動。
律子「……あーマジかー。行っちゃった……」
   タイムマシン消える。
律子「あっ! タイムマシン消えた! てことは……え? 私にフラれた? それとも、エッ? エッ……」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
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*番組紹介*
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