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【PODCAST書き起こし】名人:三遊亭圓朝について語ってみた(全6回)その2(怪談 牡丹灯籠 など)

【PODCAST書き起こし】名人:三遊亭圓朝について語ってみた(全6回)その2(怪談 牡丹灯籠 など)

(「いらすとや」さんの画像使用:https://www.irasutoya.com/)

【和田】『牡丹灯籠』もそういう話なんですよ。

【三浦】要はカランコロンと下駄の音が聞こえて……。今回『牡丹灯籠』は読み返す時間がなかったんですけども。『牡丹灯籠』ってお露とお米の幽霊って本当に出て、見てるんですかね?

【和田】出てます。あそこに関しては。

【三浦】伴蔵が墓場から骨拾ってきて新三郎の周りに、みたいな記述があったんですけど、あれ? これどうだったっけ? って。

【和田】あれはね、原作の問題で……。

【三浦】やっぱりそうですよね。

【和田】そうなんです。あそこはですね、まず幽霊は本当に出てます。

【三浦】出てますよね。隣の占いの人も見てますもんね?

【和田】勇斎も見てて。だからあれは出てるんですよ。それで出てるから……男のほうなんていいましたっけ?

【三浦】萩原新三郎?

【和田】新三郎がやつれてるって話になるわけ。やつれてるから「お前心配だぞ」って言って色々聞いてみたら「毎日お露さんが来るんですよ」っていう話じゃないですか。
幽霊は来る。それをお坊さんが、白翁堂勇斎が「じゃあお札を貼ってこれを防ぎなさい。幽霊が入ってこないようにしてあげるよ。あと海音如来の仏像を持ってたら安全だから」って言うわけですよ。でも幽霊が……ここちょっと滑稽っぽい展開だと思うんだけど、100両の金を用意して……。

【三浦】100両持ってるっていうのがちょっと面白いですよね。

【和田】100両どこから持ってきたかという話もあるんだけど。伴蔵というそこの下男に「このお金をあげるからお札を剥がしてくれないか」と「それから海音如来の仏像も私たちはとても苦手なのでどかしてくれないか」と。で、あげるわけですよ。伴蔵がその100両の金に目がくらんで。

【三浦】お札を剥がすんですね。

【和田】女房のお峰と一緒にね。

【三浦】昼間に新三郎を……。

【和田】行水させるんだよね。

【三浦】行水させて取るんですよね。

【和田】取っちゃって、仏像も偽物とすり替えちゃって。

【三浦】隠すっていう。

【和田】そうしたらその悪い計画が上手くいって。

【三浦】まんまと図に当たり。

【和田】図に当たり幽霊が家に入って新三郎は取り殺されてしまいました。一途な幽霊の恋愛でございます。という話なんだけど。

【三浦】翌朝見るとしゃれこうべが横に転がっており細い腕の骨が新三郎の首に付いてるっていう、身の毛もよだつようなシーンが。

【和田】お札剥がしをしたお峰と伴蔵という2人が、結局100両の金が入ってしまった余波なんだけれども、特に伴蔵のほうが堕落してしまうわけなんです。

【三浦】そうですね。なんか結構栗橋宿でお店をやって成功するんですよね。

【和田】成功するんだけど女房であるお峰のことをないがしろにしたり……。

【三浦】そうですね。成功すると、だいたい男というのは堕落に走る、放蕩に走るという1つの傾向があるんで。でもお峰をないがしろにしてしまう……。

【和田】そうです。そのときにものすごいシリアスな夫婦喧嘩になってお峰が「この100両はお前どこから出てきたんだよ」「幽霊からもらった100両じゃないか」「この100両をもらってお前何をしたんだ? 新三郎のこと殺したんじゃないか」って言うんですよ。

【三浦】そうですね。

【和田】「新三郎さんのことを殺して骸骨を横に置いて取り殺されたふうにトリックしたけど、お前は本当は殺してその対価として100両もらって悪人だよね? 私全部バラすぞ」って言い出すわけですよ。だからこのトリックが前半とちょっと違うの。

【三浦】ちょっと違いますね。確かに自分で殺したんだったら幽霊っていないわけですよね。そうするとどこから100両もらったのかが益々分からなくなりますね。

【和田】いやいや。幽霊はいるんだけど……。

【三浦】幽霊はいるんだ。幽霊は殺せとは言ってないと。

【和田】そう。お札剥がしただけじゃなくて本当に殺しちゃって。

【三浦】殺したのは伴蔵だと。

【和田】もうそのエピソード終わりにして「幽霊に取り殺されたんですね」みたいな演出をして江戸に逃げたって言ってるわけ。だけどこれって今のミステリー的なことで言うと、前半のほうで全然その状況が出てないんでちょっとアンフェアなんですよ。突然お峰がそれ言い出すんで。

【三浦】身内だから全部知っていてそう言うってことですね。

【和田】そうそう。真相はこうだったじゃないかって。伴蔵もこれはまずいっていうんで「分かった分かった、俺が悪かった」とか言いながらお峰のこと殺してしまう。

【三浦】反物を買ってあげたり一緒に飲んだりして、でも土手で殺すんですよね。

【和田】栗橋宿のですね。栗橋って今の半蔵門線かなんかですよね。

【三浦】そうですね。南栗橋っていうところがありますね。半蔵門線乗るたびに『牡丹灯籠』だって思い出すんですよ。

【和田】僕もそうです。

【三浦】「南栗橋行きがまいります」って言うたびに『牡丹灯籠』だって思い出すというね。

【和田】これは多くの人が指摘してるんだと思いますけど、歌舞伎の中村福助さんが言ってたんだけれども。福助さんって自分で出たりもするから役者の生理で言ってるんだと思うんですけど『牡丹灯籠』が面白いのは、歌舞伎役者として他の怪談話っていうのを当然演じるわけなんだけど、幽霊が出てくるのが最初の新三郎とお露の部分だけ。そこだけが幽霊話でそこから後ろは生きてる人間の、100両の金が入って欲が出るとか……。

【三浦】愛憎劇。

【和田】そう。浮気をして女を捨てるとか、女は女でそうはさせじ、と戦うとか、そういうふうになると。そこがやっぱりすごくユニークな点で……。

【三浦】それ当時としてはやっぱりユニークだったんですよね。

【和田】と思いますね。これはその福助さんが……これはだから学術的な言い方じゃなくて役者の生理だと思うんだけど。怪談なんだけれどもその怪談を発端にして人間の戦いと言うか葛藤と言うか、そこで展開していくのがとても面白いっていうふうにおっしゃってましたね。

【三浦】それは役者ならではの分析、解釈っていうことですね。確かにそうですね。幽霊そこしか出ないですもんね。
『牡丹灯籠』っていうと、さっきも申し上げましたがお露の幽霊がカランコロンって出てくるっていうのが印象深いですけれども。よくネタで言われるように「なんで幽霊足ないのに下駄の音するんだ?」みたいな話も高座で言われたりするじゃないですか。そういうくすぐりもあって。幽霊がそこしか出ないのに怪談話にはなって……やっぱり『牡丹灯籠』で1番有名なところはそこだからですかね?

【和田】ですね。『牡丹灯籠』に関しては、僕はさっきも言ったように圓朝全集のいわゆる読み物を全部読んだわけじゃなくて今上演されてるものしかほぼ知らないんですけど、その中でもやっぱり完成度が本当に随一の作品だと思います。
それ以外のエピソードも面白いし、下男の孝助がからむ筋があるんだけどそこもやっぱりすごく面白いし。

【三浦】もう1個そこの部分補足しておくと、さっきの幽霊が出るのは萩原新三郎っていう、浪人だけどお金は持ってるんですよね?

【和田】そうです。ぶらぶらしてていいみたいな。

【三浦】貸家を持ってたり畑貸してたりとか、そういう上がりで暮らしていて、そこで働いているのが伴蔵とお峰の夫婦。そこの新三郎のところにお露とお米の幽霊が出てくるっていうことなんですけど。
もう1個家があってこちらも飯島平左衛門さんという旗本がいて、そこの嫁との間に生まれた娘がお露さんですよね。そこで接点が出てくるんです。
飯島平左衛門のところに奉公していたお国が後々妾になるんですけど、今度は伴蔵とお峰が100両取って栗橋宿に逃げて店をやって伴蔵が成功して好きになる女がお国っていうことなんですね。

【和田】そうです。偶然そこの料理屋の酌婦として出てるんですけれども。もうちょっとさかのぼって言うと昔の作者って……昔じゃなくても1人の作者って自分の同じネタ使い回すもんなんで、飯島平左衛門というお旗本がいるんです。その飯島平左衛門は自分が若いときに、ちょっとお酒飲んでたこともあってある本郷の街路である人間を……。

【三浦】殺すんですよね。

【和田】切り捨て御免にしちゃうわけ。それが黒川孝蔵っていうんだけれども、その人間を切り捨て御免にしてしまったと。

【三浦】裁かれないけれども、ただ自分の中では非常に罪の意識があり、いずれはそこの息子に仇討ちに合っても仕方あるまいと思っているんですよね。

【和田】覚悟を決めていた。そしたら偶然その忘れ形見の孝助というのが何も知らずに飯島平左衛門のところに下男として来たんですよ。だからそこがさっき言った因果っぽいでしょ? 親の仇のとこに関係ができちゃうっていうことなんだけど。
孝助は何も知らない。平左衛門のほうは気が付くわけです。俺が昔切り捨て御免にしたやつの息子だって気付いて。だけど何も言わないわけです。
孝助っていうのは飯島平左衛門のことをすごく尊敬して忠義ものなわけですよ。飯島平左衛門の最初の奥さんっていうのはお露の子供を作った奥さんが先に死んでしまって、お国という元々女中だった女性を自分の……。

【三浦】妾として。

【和田】妾さんにして付き合ってるんだけど、このお国っていうのが、すごい悪いやつでお家乗っ取りを企んでるんですよ。

【三浦】その家の。

【和田】平左衛門のこと好きでもなんでもなくて。だから今の、そういう好きじゃないのに結婚して財産取っちゃうぞ、みたいな事件あるじゃないですか?完全にお国はそれなんですよ。

【三浦】あります沢山。どっかの青酸カリ事件とか。今はお家乗っ取りというよりも金ですけどね。どっちかと言うと。

【和田】金ですね。でも同じことですよ。金も得たいし、家乗っ取るというのはそういうことだから。

【三浦】金がなきゃ乗っ取っても意味がないですよね。

【和田】そうそう。それで自分の恋人と結託して平左衛門のことを殺そうと。保険は掛けてないけど保険金殺人みたいな感じで殺しちゃって、自分らが頭首ってことになろうと計画を練っているわけですよ。
すると孝助がそれに気付くわけ。「前の奥さまは素晴らしい人だったけど今のあれはなんだ」って言って孝助は怒っていて。暗殺計画みたいなのもちょっと回避されたり色々あって。最後ある晩にそこにお国と源次郎っていう、お国のさらに愛人ね。

【三浦】隣の家に住む若い旗本かなんかですよね。

【和田】それが潜んでるからって槍を持ってグサッと刺しに行くわけ。そうすると障子を開けてみるとお国と源次郎かと思いきや飯島平左衛門がその中にいた。

【三浦】討たせたってことですよね。

【和田】わざと討たせる。

【三浦】仇討ちをさせたんですよね。

【和田】これはだから忠臣蔵の九段目のわざと槍で突かれるっていう*ホンザン (00:13:11)の話があるんだけど、ああいうのを引用してるんだと思うんですけど。わざと槍に突かれて「実はお前の父親を切り捨て御免にしたのは俺だ」「お前は俺の仇を打った、それで納得してくれ」ということを言って死んでいくわけです。
残された孝助はこのご主人さまのことを敬愛してるから……。

【三浦】主人のかたきとして今度は追うんですよね。

【和田】そうなんです。お国と源次郎を追って旅に出るということなんですよね。

ちなみに言うとお国と源次郎がこの飯島家のお金を色々いじってるわけ。財産をね。その100両を幽霊が盗んで伴蔵にあげてるんです。

【三浦】あ、そうか。

【和田】だから100両の出所は一応理屈が付いてる。みんなどこから持ってきたんだと思うじゃないですか?

【三浦】それってそういう記述どっかにありましたっけ?

【和田】一応あります。それでその100両が飯島家からなくなったみたいな話があって、その100両がなぜか幽霊が盗んで。そこが現金だったというところが面白いんだけど。

【三浦】幽霊どうやって100両持つんだっていう話ではあるが、そこはまあね。

【和田】あげていたということなんですね。

【三浦】100両の謎が解けましたね。

【和田】ちなみに言うと、あるカップルが女性のほうが早死にしてしまって男性はその相手が死んだことを知らない。女性が幽霊になって毎晩毎晩訪ねてきて、はたから見たら「お前毎晩通って来てるの幽霊だぞ、気を付けろ」っていう話は中国の『牡丹灯記』っていう……。
中国の昔の民話であり都市伝説というかそういう話なんですね。

【三浦】『牡丹灯記』、それはどなたかが書いた本に書いてありましたね。

【和田】僕も書物のちゃんとしたオリジナルは当然読んだことはないんです。中国語の本なので。

【三浦】漢文で書かれてますね。

【和田】それが日本の小説に幕末にもう翻案されてあったんです。圓朝がそれを読んで、だからお露さんの話の部分はそれの翻案なんです。そこのくだりは。それと自分が作ったものと合体させて。
だけど毎晩毎晩訪ねてくる女がいて、牡丹の灯籠を持ってるというイメージ自体が中国の元の話にあるらしい。それからお坊さんが幽霊を封じるためにお札を……。

【三浦】護符書いて貼るんですよね。引いてますよね『牡丹灯籠』は。

【和田】中国のキョンシーの映画があるじゃないですか? 『霊幻道士』。あれもお札を貼る話なんですよ。幽霊のおでこにお札を貼ると幽霊がフリーズするっていう、そういうアイデアなわけなんですよ。だから同じネタなんです。そういうのを引用して持ってきた。

【三浦】お札の元ネタ中国にあるんですね。

【和田】日本でも当然お札あるんだけど、お札で幽霊を封じちゃうぞっていうのは『霊幻道士』っていう映画を観るとよく分かります。向うが元なんだなというのが。剥がすとまた幽霊が動いちゃうわけ。
ちなみに『牡丹灯籠』って落語でやっても面白いし、圓生さんとか彦六さんとか今だったら喬太郎さんとか僕すごい良いと思うんだけど、他に持って行っても結構成功作だなと思っていて。

【三浦】他というのは?

【和田】演劇ですね。

【三浦】歌舞伎とかも含めて?

【和田】はい。2つ勧めたいのがあって。まず1番公演頻度が高いのは、今年も文学座が秋にやるんですけど、大西信行さんという人が書いた『牡丹灯籠』というのがあるんです。これは杉村春子さんがお峰をやって……だからお峰と伴蔵の話にしてる。主人公にして。

【三浦】新三郎とお露の話じゃなくて。

【和田】そう。もちろん新三郎出ますけどね。お札剥がしとかもあって、文学座で初演したものなんです。これが逆に歌舞伎でも尾上松緑さんとかがやるようになって、今の玉三郎、仁左衛門とかもやるんだけど、大西信行もので。
ただこれはお露、新三郎をすごく上手く編集しているんだけど全体像じゃないんですよ。大西信行さんの台本って。でも公演頻度は高いです。
僕がよくできてるなと思うのは花組芝居。花組芝居で加納さんが書いた『牡丹灯籠』があるんですよ。

【三浦】加納幸和?

【和田】加納幸和台本の。それは本郷の切り捨て御免から1番最後の孝助がお国と源三郎を追って飯島家を再興するっていうところまでを2時間半くらいに圧縮してやるんですよ。

【三浦】それは翻案の才能がすごいですね。

【和田】あの編集の才能はすごいです。僕は池袋の「あうるすぽっと」で観たんだけど、そのときに観客で今の尾上松緑さんが来てました。だからあれはぜひ他のカンパニーでもやったらいいと思うんですよ。

【三浦】花組芝居は再演はもうしないんですかね?

【和田】どうなんだろう? しない宣言はしてるわけじゃないからしたらいいと思う。

【三浦】花組芝居ってまだ活動してるんですか?

【和田】してますね。
でもそれはすごく良くできてます。
もう1つは人形劇団プークの『牡丹灯籠』というのがあって。それはお露と新三郎と、お峰と伴蔵の話なんだけれども圓朝その人が出てきたり、あと猫が出てきてそれが頭と最後に出てきて、人形ならではのものすごい面白い演出もあるし、これはすごく優れてますね。

【三浦】猫は語り手みたいなことで出てくるんですか?

【和田】それほどの深い意味はないんですけど、猫が全体を「人間ってバカだな」みたいに眺めてるとか、そういう演出があったりとか。

【三浦】大所高所から猫の目線で見ていると。

【和田】そうです。

【山下】私も観ました。

【和田】あれいいですよね。

【山下】プークの小さい劇場なんですけど、すごい分かりやすいので「こういう話なんだ」ってやっと分かったみたいな感じ。

【三浦】確かに『真景累ヶ淵』もそうですけど『牡丹灯籠』も両方とも長いので。

【和田】複雑ですもんね。

【三浦】一瞬分かりにくいかなと思いますけど実はそうでもないんですよね。整理して読んでくと結構すっと入ってくる。

【和田】特に『牡丹灯籠』は各エピソードが本当よくできてるんでダレないというか、通しても面白いんですよね。

【三浦】喬太郎さんは『牡丹灯籠』はやっぱりお札剥がしのシーンをやるんですか?

【和田】やりますし、割とよくやるのはお峰と伴蔵が荒物屋の関口屋を開くんだけど、だんだん浮気するようになるわけですよ、男が金持って。その浮気相手がお国なんだけれどもそれを知らずにお国のところ通うようになって女房が面白くないと。「お前今でこそ荒物屋の主人みたいな顔してるけどその100両どっから出てきたんだい」って言って喧嘩になって「分かった分かった、じゃあ明日着物でも買いに行かないか」って言って誘い出して殺してしまうというところがあるんだけど、そこよくやります。

【三浦】そのくだりはやりますか。

【和田】そこ喬太郎さん結構1番って言っていいくらいにやるんじゃないかな。

【三浦】1番やっぱり多いのがお札剥がしのところで、そこんところも確かにやる人いますよね。

【和田】そうですね。

【三浦】『累ヶ淵』も実はやっぱり豊志賀の死、あそこが1番落語的にはよくやられていて……。

【和田】『累ヶ淵』は正直言って圓朝の初期の作だからっていうのもあるかもしれないんだけど、後ろになってくるとちょっとなんか力学が難しくなってきちゃうんですよ。話のドラマのね。
それで歌丸さんなんかが全段通してやるっておっしゃってやってたんですけどね。あと今の古今亭志ん輔さんとか。豊志賀がすごく現代性があるのに比べると、後ろのほうになるとだんだん難しくなってきちゃう感じで。

【三浦】なんでここにこの人物また偶然出てくるかな? というときもありますよね。

【和田】ありますよね。それと後ろのほうの羽生村の相撲取りが困ってる人を助けに登場したりとか。

【三浦】花車。

【和田】あれも昔の歌舞伎のパターンなんだけど。『先代萩』とかで。

【三浦】『伽羅先代萩』

【和田】そう『伽羅先代萩』とかで相撲取りがお家の取り入りを企んでるほうをけちらしたりとかあるんですけど、そのイメージでやってるんだろうなと思うんだけどなんかちょっと、だんだんなんでこうなるの? という感じが……。

【三浦】取ってつけたような感じっていうんですかね。

【和田】後ろはね。どうしてもね、という部分はある。それに比べると『牡丹灯籠』はすごい密度だなと思います。

【三浦】これはやっぱり、圓朝が実際にこの両作を作った年代には結構開きがあるってことなんですかね?

【和田】そうです。具体的な年齢は年表見てもらえれば分かると思うんだけど『牡丹灯籠』のほうがはるかにあとです。はるかにっていうか……もっと中年になってからの作のはずですね。
明治17年だったかな。『牡丹灯籠』が日本で初の速記本として書物になった。速記本というのは、落語のテキストというのはそれ以前は「あの人は上手いね」とか言われてるんだけど結局文字がなかったからその伝説しかなかったんですよ。だけど圓朝が。
日本に入って来た速記術というのがあって、日本で帝国議会というのを作るために西洋を調べたら議会というのを開くに当たって速記というのが必ず必要であるらしいと。しゃべったことを記録することが必須であるらしいと。イギリスとかそういうところで見ると。だからその速記術を作らねばならんというので酒井昇造とかあの辺の人が腐心して作ったわけですよ。日本語の速記術を。
順番としては、帝国議会が始まるより前にその技術がある程度できたところで誰かが考えたんでしょうね、使ってみようじゃないかということになって。

【三浦】試しに。

【和田】そう。圓朝に話を持って行ったわけですよ。

【三浦】それはその人慧眼ですね。

【和田】ものすごい慧眼だと思います。そのときに圓朝が当然自分で『牡丹灯籠』を選んだんだと思う。

【三浦】自分でよくできてると思ってたんでしょうね。

【和田】だと思います。だから『累』じゃなくてやっぱり『牡丹灯籠』を出したし第1号だし。これはもう歌舞伎にもなり落語高座でもやりというので大ヒット作ですよね。

【三浦】確かに『累ヶ淵』の全編というのは、私の数少ない経験だともう6代目圓生師匠のCDでしか聞いたことないです。
かろうじて新左衛門の長男の新五郎が宗悦の妹の園を、たまたま奉公するところが一緒になるじゃないですか? そこで好きになって園はもう……。

【和田】嫌いになってね。

【三浦】全然因縁を知らずに虫唾がするほど新五郎嫌いなんですよね。新五郎が追いかけて最後納屋で押し倒したときに、あのシーン怖いですよね。いわゆる草を切る刃物に押し倒しちゃうっていう。それで死んでしまう。

【和田】偶然ね。そこでぎゅっと押しちゃうから背中に刃物がぐさって刺さって死んでしまう。

【三浦】あれは怖いですよね。1回誰かの高座で聴いたときに嫌なシーンだなと思いましたね。

【和田】あれは五街道雲助師匠も、あのシーンはやりたくないって言ってましたね。「押し倒してそこの後ろに刃物があって人が死んじゃうって嫌だろう」って言ってましたよ。

【三浦】それで新三郎は逃げる……。

【和田】新五郎ね。

【三浦】新三郎って萩原になっちゃうんで新五郎か。

【和田】逃げるんだけど屋根の、追い詰められて捕り物にかかるっていう話なんですよね。

【三浦】捕り物にかかって飛び降りたら同じような刃物が足にあって逃げきれなくなって、ついにお縄になって打ち首獄門っていうことですよね。

【和田】ついでに言うと今言った、押し倒したときに偶然藁の後ろに刃物があった。それから屋根から落ちてきたときに刃物を踏んじゃうというか、そこに落ちちゃうわけじゃないですか? それはなぜかっていうと『累』の伝説っていうのが必ず「鎌」が絡むんですよ。

【三浦】あ、鎌絡みますね。

【和田】必ず鎌が絡むから、偶然刃物が置いてあるとかそこで怪我をするっていうのが『累もの』のモチーフなんです。

【三浦】鎌がモチーフなんだ。あのギラリと光る鎌。

【和田】鎌と鏡なんですけどね。この2つの小道具が必ず絡むんです。だからそれをふまえて刃物がなぜか突然出てきちゃって怪我をする。豊志賀と一緒にお久も結局……。

【三浦】新吉がお久と一緒に逃げて。

【和田】道になぜか鎌が落ちていて怪我をするわけじゃないですか。だからそれはご都合でもあり『累もの』だからそうなるということでもあるんですね。

【三浦】そのときにお久が鎌に引っかかって怪我をして大丈夫かっていうふうに介抱しようとしたらお久の顔が豊志賀に見えて、その鎌で喉をかき切って殺すと。それをたまたま見てたのが土手の甚蔵っていう悪いやつで、その鎌拾うかなんかするんですよね。

【和田】証拠でね。

【三浦】証拠で拾って質屋の三蔵というところに……確か三蔵はお久の確か……。

【和田】頼っていく親類の家ですね。

【三浦】お久の叔父さんだ。そこに持って行ってゆすり始めるという。『累ヶ淵』は結構悪いやつだらけですね。

【和田】そうですね。『牡丹灯籠』と『累ヶ淵』あと今やられる長編だとなんですかね?

【三浦】『札所の霊験』とか。あと画家、磯貝浪江の……。

【和田】『怪談 乳房榎』あれがそうですね。あれはよくできた話だと思います。そんなに長すぎないしね。

【三浦】磯貝浪江が画家の奥さんを手込めにしちゃうじゃないですか。あの奥さんって実は磯貝浪江のことをまんざらでもなく思ってたんですかね? どうなんですか、嫌々でもないんですか。それが重なっちゃったんですよね数が随分ね。

【和田】設定上は……そういうことです。おっしゃるように磯貝浪江とある意味でできてしまうので、そういう解釈でやってもいいと思います。

【三浦】画家のご主人と年も離れていたんですよね。

【和田】そうです。あそこはだから解釈の余地があるところで。歌舞伎でやってもあっちの浪江のほうと一緒に出てきたりするから、あとでね。そうするとなんかこの2人上手くやってるのか? みたいなふうに見えたりもするんですよ。

【三浦】あれも結局、最後、仇討ちになるんでしたっけ?

【和田】あれは、最後は結局、真与太郎という子供がいるんですよ。

【三浦】真与太郎も殺そうとしますよね?

【和田】殺そうとするんだけど下男が助けるんですよ。死なないように助けて。真与太郎が大きくなって浪江……たまたま再会するんだけど打ち取って、親の仇討ちましたていう話。

【三浦】あんまり落語だとそこまでやらないですね。

【和田】やらないと思いますね。

【三浦】要は、お寺で死んでても一生懸命絵描いて完成した、というところで意外と終わることが多いですね。

【和田】大抵そこだと思います。だから絵が、あと龍の目を入れたら完成っていうぐらいのときに蛍狩りに行って殺されてしまうんです。

【三浦】蛍狩りに行くんだ。

【和田】それが完成しなかったと思ったら、下男の正介というのが戻ってきたら……。

【三浦】正介は手引きしちゃうんですよね。

【和田】脅されてね。

【三浦】浪江にね。

【和田】脅されてお前も加担しろということになっちゃうわけですよ。暗殺に。

【三浦】加担しなきゃ今ここで殺すぞって言われると、そりゃ加担しますわ。

【和田】そうです。それで戻ってきたら先生がいるから「あれ?」って言って「先生さま」とかなんとかって言って。そうすると描き入れた後ろ姿みたいなのが見えるわけですよ。でもふと見ると先生の姿はかき消えていて「あれ、幻だったのかな?」って。

【三浦】絵だけが完成してるという。

【和田】絵だけが完成して、今描いたみたいに墨が黒々としていたという終わり方。

【三浦】かなり余韻たっぷりのいい感じの終わり方ですよね。何1つ解決はしてないですけど。解決させる意味はないんですけど。ああっと思います。

【和田】あの辺はやっぱり、圓朝という人が自分で絵を描いたりもする人だったんですよ。

【三浦】そうですね。その絵の話で言うと……。

・・・・・・・・音源ここまで・・・・・・・・
 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)
---- 担当: ブラインドライターズ 角川より子 ----
この度もご依頼をいただきまして誠にありがとうございました。
夏と言えば怪談話。お2人のお話を聞きながらあらすじを確認させていただいているだけでも背筋が凍るようなシーンが沢山あり、真夏の風物詩を感じさせていただくことができました。
実際の落語や歌舞伎、人形劇ですとどのような感覚を体験できるのかと、怖いもの見たさの興味が湧いてきてしまいました。
次回もまたお話を拝聴できますこと、楽しみにしております。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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