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【PODCAST書き起こし】桂米朝師匠を中心に上方落語について江戸に住んでいる和田尚久、三浦知之が語ってみた(全6回)その6

【PODCAST書き起こし】桂米朝師匠を中心に上方落語について江戸に住んでいる和田尚久、三浦知之が語ってみた(全6回)その6

TFC LAB presents 集まれ! 伝統芸能部!!

【三浦】与太郎の話から実質、違いと話が広がってきましたけど、これ、また続けていけますよね、このへんの話は。

【山下】そうですね。これ、なんか次回ね、どういう感じで進めていきましょうとかっていう話なんですけど。

【和田】僕ね、正岡容という作家がいて、演芸の研究をしてた人でもあるんですけど。この人が書いている『寄席随筆集』という岩波から出ている本があるんだけど、すごく良いこと言ってるなと思うのは、江戸落語というものと上方落語というものがあると。それは、落語っていう一つの観念があって、それの江戸バージョンと上方バージョンではないと彼はいう。

【三浦】あっ、違うんだ。

【山下】じゃ、ないんだ。

【和田】落語っていうものがあってね、東に行くとこうですよ、西に行くとこうですよ、なら分かるんだけど、江戸落語と上方落語は、もう別に成立した別の価値でできたものである。これ、別に、たぶん正岡さん論拠ないんだけど、でもこれ、僕はとてもよく分かるんだ。っていうぐらいに別々にでき上がったものなんだ、カルチャーなんだ。

【三浦】そうですね。違うものですもんね、明らかにね。

【和田】そう。それは、言わんとしてるところは分かる。で、やっぱりおもしろいのは、これは落語の歴史で露の五郎兵衛って人と米沢彦八っていう人が大阪で出たわけなんですね。で、それと江戸の方で出た人がですね、なんていうのかな、だいたい同じ時期なんですよ。

【三浦】ああ、そうなんですか。

【和田】同じ時期に出てる。

【三浦】偶然。

【和田】だから、すごくおもしろいのは、なんか、進化の過程というか、偶然出てくるんですね。

【三浦】発祥は一緒なんだけれども、そこからの後は別々の、こう、それぞれ。

【和田】になったと思うんですよ。ただ、さっきの『らくだ』の話のように、近代になって明治の20年代とかになってですね、上方落語をすごく東京に輸入したんです。

【三浦】なるほど。

【山下】ああ、なるほどね。

【和田】『らくだ』その他ね。だから、ほんとに100とかあるんじゃないかな、入ってきたネタって。
で、これ、おもしろいのは、西から東に入ってきたネタが100あるとするじゃないですか。東から西に行ったネタっていうのは比喩的に言ったら3ぐらいしかないんですよ。

【三浦】ああ、そうですか。

【和田】はい。だから、ものすごい一方通行なんです。

【山下】なんでなんですかね。

【和田】それは、ええとですね、西の演目の方が商品として使いやすいからです。

【三浦】ああ、なるほど。

【山下】ああ、商品として。

【和田】だから、三代目小さんっていう人がいっぱい持ってきたんですけれども、地名とかを置き換えれば成立するものが多いわけ。

【山下】なるほど、なるほど。

【和田】だから『らくだ』とかも、あれは大阪だとなんつった、なんか、どばくのなんとかとか、そういうこと覚えてない。

【山下】ああ、そうですね。場所が変わるんですね。

【和田】場所があるんだけど、それを落合にしたりとかすれば一応できるわけです。
それとか、『長屋の花見』も、たぶん確かそうだった。あれも『貧乏花見』っていうのがあるんだけど、あれもこっちにもう置き換えて上野の山とか、あのへんにすれば

【三浦】『愛宕山』とかもそうですね。

【和田】『愛宕山』は完全にそうです。っていうふうにすれば。愛宕山はね、あれは地名を京都から移せないんで江戸落語でもあっちに行く。

【三浦】『愛宕山』だけどっていう。

【和田】あと、『景清』とかね。西から来たものがあるんだけど。
つまり、よくできているというか、まとまってるものが多いんですよ、おそらく。

【山下】それはあれですか。近松門左衛門とかから累々とつながってく、そういった文化があるのかな。

【三浦】それはあるんじゃないですかね。習熟しているんじゃないですか。そういう話芸ものに、作るテキストとして。

【山下】それを見たり聞いたりした人がいて、それがまた新しい創作者になっていったとかっていう感じなんですかね。

【和田】だから上方落語の方が早く、これはお金をいただいて人さまに聞かせるものなんだと。だから、ちゃんとした楽しませるクオリティーが必要なんだっていうのを。

【山下】なるほど。

【三浦】いち早く。

【和田】そう。その成立が早かったんだと思う。

【山下】それはわかりますわ。それはお笑いとか見てても、「おもろないやんけっていうのを東京のお客さん、むっちゃ笑うんですよ」言うてね、だいたい言うんですよ。それは僕等もすごいわかってて、なんかそれはすごい感じるかなあ。

【和田】だから、ちゃんとしたお金をいただいた分だけ楽しませる。15分間ちゃんと持つものとかが品ぞろいになったと思うんですよ。
だから上方落語は100演目とか東京に入ってきて、まあ、100っていうのはちょっとアバウトですけど。
で、東京落語っていうのは、さっき言うったみたいに、なんて言ったらいいのかな、なんか、AとBが喧嘩して終わりみたいな話が多いから、それはたぶん西に持っていきにくいんですよ。おそらく、西の地名に直したところで……。

【山下】なるほど

【三浦】江戸弁でやってるし。意味がないこと言ってますもんね。

【山下】そうですね。

【和田】そう。意味がない。

【山下】そうですね。意味のない話、割と江戸落語でありますもんね。まあ、不条理劇的な? 別役実かみたいな感じですよね。

【和田】それとか、与太郎がなんか物を売りに行って、何か失敗して終わりみたいな。たぶんそれを西に持って行ったときに「これなんかもう使えないよ」っていう感じですよね。

【山下】「これ、おもろないやんけ」っていうことかもしれないですね。

【三浦】そう。なんでしたっけ、なんとか長屋。『粗忽長屋』か。あんなの、やっぱり持って行きようがないですよね、関西に。

【和田】そうでしょうね。

【山下】それをやる人がいたらよかったのに。

【和田】東京落語の方が、そこのね、途中の理屈がないんですよ、あんまり。

【三浦】それはそれで面白いっていうのはありますよね。なんだ、この荒唐無稽さって。

【山下】そうですね。本当にぶっ飛んでますよね。

【和田】いや、だから、今の話でいうと、不条理劇っておっしゃったけど東京落語の方が、ある意味でアートなんですよ。

【山下】ああ、そうか。アートでありイリュージョン。

【三浦】ああ、そうか。

【和田】そうです。アートです。だから、こういうふうに表現しましたって成立するかどうかは知りませんけど、あと、お金になるかどうか知りませんけど、まあ、ポップアートみたいなもんで、これでもう「はい、おきますから」っつって、そっちで解釈はしてくださいみたいな、そういうツンデレなんですよ。

【三浦】新しいっちゃあ新しい。

【山下】そうですね。
アンディ・ウォーホルみたいなのが出てきたっていう感じですね。

【和田】そうです。だから、で、人によっては「は?」みたいな感じなんだけど、でも、まあ、「別に、これで取りあえず、やっときましたから」みたいな感じで。

【山下】それはそれで、おもしろいですよね。懐の深さがね。

【和田】そう。だから、そこがすごく不均衡で、あと、やっぱり、さっきの比喩でいうと例えばヨーロッパのお酒、洋服、素晴らしい家具とかってアメリカに輸入されるでしょう。アメリカのものって別にヨーロッパに輸入しない。しないでしょう。その逆ってないじゃないですか。

【山下】ああ、そうか。しないですよね、たしかに。ないです、ないです。

【和田】だから両方にあるものはたいてい西から来たものなんです。まれに逆のこともあります。

【山下】まあ、だからヨーロッパとアメリカ説はわかりやすいですね。ヨーロッパが上方でとアメリカは江戸と。

【和田】そう。

【山下】でも、なんか今の話、いろいろ聞いてくと、やっぱり米朝師匠のすごいところって、やっぱりエンタメだった上方の寄席の落語の話が東京に行って東京で少しカスタマイズされて、ちょっとだけ上品になったものをもう1回上方落語として米朝さんが新しくアレンジし直したっていう感じがね、お二人の話聞いててすごく思ったのは、ま、そういう意味で名アレンジャーでもあり、だからアーティストでもあるんだけど名アレンジャーなのかもしれないっていう気がしました、すごく。
いやあ、すごく刺激的なお話で。

【三浦】ちょっと、まだまだいろいろ聞きそうなんで。

【山下】そうですね。でも、もうぼちぼちお時間があと5分くらいですけど。

【三浦】ちょっと今回はこんな感じでどうでしょうかね。

【山下】で、今回こういった形で。来月もまた何をやるかっていうのをちょっと話しながら、これからね、こういう何しようかっていう話もポッドキャストでね、ワーク・イン・プログレスとかって演劇とかではいうんですけど、どういうふうにして編成してどういう企画にしていくのかっていう企画会議みたいなものもですね、別に収録してもいいかなって、ちょっと思いだしても来てるんですね。まあ、そういったこともちょっとトライ&エラーとしてやってみたいと思います。

【三浦】今日のこの話の中だと、本当に上方落語と江戸落語の成立の過程もおそらく違うであろうということとか、それから上方から江戸に入ってきたものの方がはるかに多いとか、あと、登場人物の設定がまず違う。
だから、もう今後話していけそうなことがたくさん出てきたと思うので、1回これでまた整理をして、次のテーマを設定するっていうのはどうですかね。

【山下】そうですね。
で、また来月か再来月、和田さんと三浦さんと、またゲストも来ていただいてもいいと思いますし、何かこうワーク・イン・プログレス方式でやっていきませんかっていう、ちょっとプロデューサーからの提案です。

【三浦】わかりました。

【和田】はい。

【山下】っていうことで、和田さん、三浦さん、今日はありがとうございました。

【三浦】こちらこそ、ありがとうございました。

【和田】ありがとうございました。

【山下】最後に一言、ちょっと僕、お知らせを言いますので、その後に一言だけこの後にお話をいただきたいと思いますけど、最後にお知らせです。
BRAIN DRAINではnoteを開設してまして、今日皆さんでしゃべったことをブラインドライターズさんというところに文字起こしをお願いしてまして、そのテキストが何万字も読めるというですね、しかも無料です今のところ。というサービスをやってますので、ぜひそちらもチェックしてみてください。
っていうことで最後にですね、じゃあ三浦さんの方から。

【三浦】今日また本当に和田さんからいろんなお話うかがえてとても楽しかったです。おもしろかったです。知らないこともたくさんありましたし。
まあ、正岡容さんてね、けっこう、そういう意味では有名な方ですよね。だからその人の言ってることも改めて読んでみたいと思いましたし、また今日話した話がまた次に展開できることがすごく展望が持てるなって思いましたんで、引き続き和田さんにぜひよろしくお願いします。

【和田】よろしくお願いします。

【山下】ありがとうございました。和田さん、いかがでしょうか。

【和田】はい。まあ、今度は浪曲師の玉川奈々福さんっていう人が、いろんなことを企画されてやっている人なんですけれども、2年ぐらい前に彼女が『語り芸パースペクティブ』っていう年間10回ぐらいの連続講座をやって、そこで今日は説教節、今日は講談とかなんか、その日によってテーマを作ってやったんですよ、10回だか12回だかね。
僕は最後の方の『江戸落語』ってとこに呼んでいただいて話をしたんですよね。で、奈々福さんと僕と、私がリクエストして、さっき言った萬橘に来てもらったんですね。
そんときに江戸落語って何だろうって、今日したような話をしたんですけれども、それが今度、それの文字起こしが本になる。『語り芸パースペクティブ』っていうタイトルで晶文社から3月の末に出ますんで、それをもし興味のある方は見ていただけましたら、その萬橘の発言も載っていますし、たぶん全体も章ごとにいろんな話題が出ていて、おもしろいんじゃないかなあ、ぜひ。
https://www.shobunsha.co.jp/?p=6188


【三浦】おもしろそうです。

【山下】サイのマークの晶文社から出ますので。ありがとうございます。
っていうことで、今日の『Web BRAIN DRAIN』は終わりです。
皆さんさようなら~。ありがとうございました。

【三浦】ありがとうございました。

【和田】ありがとうございました。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

起こし担当:高橋倫花
このたびはご依頼いただきまして誠にありがとうございます。
お話を文字に起こしながら、上方落語と江戸落語の特色や違いについて知ることができ大変興味深い内容でした。続きを聞きたくなりました。
最後の方で紹介されていた玉川奈々福さんの『語り芸パースペクティブ』という本を私も読んでみたいと思います。
それでは、引き続きのご依頼をお待ちしております。


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