【PODCAST書き起こし】上方の木積秀公さんと和田尚久さんが「上方落語」と「東西落語」について語ってみた。(全5回)その5
【PODCAST書き起こし】上方の木積秀公さんと和田尚久さんが「上方落語」と「東西落語」について語ってみた。(全5回)その5
【和田】大阪で、お相撲と餅屋のやつ、なんだったっけ?
【木積】お相撲と餅屋? 『幸助餅』ですか?
【和田】『幸助餅』は、私、好きな話なんだけど、あれって、お相撲さんが「さっきのお金、返してくれないか?」、「一度貰った金は返せません」っていうでしょう。で、その後餅屋をつくるのに、関西でやるときは、実はその餅屋を改めて開店して流行りましたっていう3年か5年の間、お相撲さんが隠れて支援してたって筋になってる?
【木積】なってますね。
【和田】やっぱりそうですか。
【木積】元々、雑穀屋で、雑穀に詳しかったからお餅屋になって、お餅屋をやってるんだけど、実は陰で「幸助餅を買っておくんなはれ」って、頭下げて回って。だから、注文が増えてたって。
【和田】そうすると、幸助餅が流行るまでに数年あるわけだよね。そのお相撲さんが、ずっと隠れて支援してくれてたっていう。あれは東京でやると、開店する日にお相撲さんがお米をばーんと届けてくれるやり方もあるの。だから、短いの。わかる?
つまり、「お金、返せません」って、いうじゃん。でもあいつが、「もう1回だけ、餅屋出してみよう」っていって、出すじゃない。そうすると、初日にお相撲さんがすごい来て、米俵とかを、結局貰った金、全部使って買ってきて届けてくれたり、すごい支援をしてくれるっていうのがあるんですよ。
だけど、どっちのほうがいいのかね。やっぱり、何年も隠れて支援してたっていうほうがいいんですかね?
【木積】でも、ありっちゃありで、それは好みなんじゃないですか?
【和田】ですよね。
【木積】僕、今の話も、それはそれで筋として面白いなって。
【和田】って感じもしますよね。
【木積】なるほどって。貰った祝儀で何か買うみたいな。
【和田】現金は返さないけど、その分、あなたにプレゼントしますよってかたちにして。だから、結局、それって2カ月くらいしかないわけよ。その事件から、決裂するのから、あなたのこと忘れるわけないじゃないですかっていうのが。だから、どうなのかなっていう。そっちのやり方、聞いたことないでしょ?
【木積】聞いたことないです。
【和田】多分、東京の脚色なんだよな。
【木積】『幸助餅』って、松竹新喜劇のイメージですね。
【和田】そうなんですよね。
【木積】あれって、講談でもあるんでしたっけ?
【和田】講談でもありそうですよね。あれも出どころよくわからないんですけれども。
【木積】でも、そっちの『幸助餅』も聞いてみたいな。
【和田】今、林家正雀さんって方がされますけどね。
【木積】東京の正雀師匠。
【和田】これは東でも再演されるといいかなと。
【木積】そうですね。東京の方がどう反応するのか。
それこそ、『男の花道』だって、正雀師匠やってますよね?
【和田】やってます。
【木積】それを、新治師匠が聞いて、どう感じるか、どんな反応になるか、本当、こっちでもやってもらえたらいいなって思っています。
【和田】そんなことで、どうですかね? 落語って、例えば文枝さん、米朝さん。上方落語の話ね。それから、春団治さんとかがいらして、すごいメンツが揃っていたと思うんだけど、面白いのは、あの方たちが皆亡くなったじゃないですか、順番に。松之助師匠なんかも亡くなって。
【木積】そうですね。
【和田】なんですけど、じゃあ、穴が空いて没落したかっていうとそんなことはなくて、上方落語は、それ以上にっていったらあれなのかな。全体としては隆盛のように、僕はみえるんですけどね。どうですかね、今。
【木積】やっぱり、亡くなったから落ち込むってことはないんじゃないかなって思いますね。僕もすっといえないですけど。
【和田】どういうことですか?
【木積】それは、過去の人の話のことか、いや、ちょっと上手くいえないですけど。
【和田】だから、よくいわれる、クラシック音楽の世界ですごい指揮者っていなくなったっていわれてるんですよ。大指揮者っていないと。フルトヴェングラーとかカラヤンとか、そういうレベルの人ってもういないし、多分出ない。だけど、その代わり、そこそこのいい感じの人は出てるっていう。それとすごく似てる状況のような感じがする。
【木積】確かに、要するに上方落語でも大名人っていういい方も変やけど。
【和田】東京もそうなんだよね。不思議なことだけど、小さん師匠のレベルはもう出ないと思う。
【木積】出ませんか。
【和田】自分のみてるうちは出ない気がするな。
だけど、じゃあ、だめかっていうと、今の柳家の人もそうだし、他も含めて、小さん師匠っていうのは1つの象徴としていったんだけど、それぞれにいい感じの人が出てきてるから、全体としては面白いかなって感じはするんですよね。
【木積】上方落語もそんな感じだと思いますね。誰かがいなくなったから終わりだってことはないといい切りたいですね。いい切ります。
【和田】自分が見たうちで、名人芸ってありましたか?
【木積】名人芸。
【和田】これは名人芸だったなっていう。
【木積】名人芸。可朝師匠かな。
【和田】それはまた後でうかがいましょう。可朝師匠の話。それ、めちゃくちゃいい話ですね。
それは、木積さんのちゃんとしてるところだよね。名人芸って「いや」って迷えるところが素晴らしい。
【木積】そうですか?
【和田】そう思います。
僕だって、同じ質問されたらそうだもん。楽しんだ高座ってたくさんあるけど、俺、談志師匠めちゃくちゃリスペクトしてるけど、談志師匠を名人っていうのは、やっぱりちょっと。あれを名人っていっちゃうのは、ちょっと問題があるような気がして。だから、しいて挙げろっていわれたら、小さん師匠かなって感じはするんですよね。
また、いろいろうかがいたいなと思いますので。
【木積】こちらこそ、またいろいろと、江戸落語の話、結構欠如してるところがあるので、聞かせてください。
【山下】ありがとうございました。1個だけ質問していいですか?
【木積】はい。なんでしょうか?
【山下】大阪で落語をみるときって、東京だといろんな寄席があるじゃないですか。大阪だと、僕のイメージでは、天満天神繁昌亭とか、花月とか、そういうところでみるんですか? だいたいどんなところでみてはるんですか?
【木積】繁昌亭とか、道楽亭が、今のところは常席というのか、今落語をみるとこっていったら、そこですね。
【山下】道楽亭は、どこにあるんですか?
【木積】西成の動物園前です。
【山下】天王寺の動物園の近くの。
【木積】ただ、僕は寄席で落語をみるというよりも、好きな人が出てる落語会。だから、お寺とか、なんていったらいいんでしょうか。
【和田】いろんな会だよね。
【木積】そうですね。会を見に行く。
【山下】ホール落語的なもの?
【和田】いや、ホール落語は、例えばサンケイホールでやる大きな会とかがあるんですけれども、あるいはNHKホールでやる上方落語を聞く会とかがあるんですけど、大阪はそれと別に、お寺とかで100人くらいの規模でやるとか、ある和室とかで50人くらいで神社の社務所みたいなところでやるとか、米朝師匠が京都の金比羅宮とかでやるとか、金比羅宮の中の和室ですね。っていうのが、すごく発達していて、繁昌亭ができる前に、逆にそういう小さい会がね。
【木積】いわゆる地域寄席ですね。
【山下】地域の人が、それをやるんですか? 噺家さんと一緒になってやるってこと?
【木積】そうですね。世話人さんがやるって感じですね。
【山下】じゃあ、うちの寺のどこ使ってやったらって感じ?
【木積】それもありますし、落語ファンの人が席亭になって企画するみたいな。
【山下】なるほど。
【木積】この会も元々は、『露新軽口話』っていう、70席を目指してっていうネタの会があったんですけど、やっぱりネタによっては1回ぽっきりで終わっちゃうのはもったいないと。だから、ここでおさらいをしましょうっていうことで、この会ができたんですよ。
【山下】これは、何回か繰り返されてると。
【木積】そうですね。今回、13回記念ということで。
【山下】なるほどね。
【木積】ここでは珍しいのが、全部新作なんですよ。お弟子さんの新幸さんも自作のネタですし、新治師匠がやる、この『福蓑』っていうのは、本当は台本コンクールで賞を取ったネタなんですよ。僕と同じで優秀賞で。ところが、このコロナで、台本発表会やるはずだったのが、結局中止になったんですよ。延期じゃなくて。で、賞を取ったネタは、各自どこかでやってもらってもけっこうですよと。それで、ここで『福蓑』というコンクールのネタを。
【山下】これ、さっき和田さんと木積さんが、この人いいよねっていってた露の新治さんがおやりになるんですよね。
【木積】そうですね。
【山下】なるほど。ということは、繁昌亭と、あと、動物園前の道楽亭があるけど、あとは、サンケイホールなんかのホール落語もあるけど、こぢんまりとしたところで、いろんな会が催されていると。
【木積】そうですね。大阪というか関西では、わりとそういう会のほうが多かったりしますね、常席よりも。
【山下】勉強になりました。
じゃあ、最後にお2人に聞きますけど、「上方落語」というジャンルがあるとしたら、どういうものなんですかね? この前話をしていたときに、商家がいっぱいあって、お武士さんがいなかったから、昔から。だから、そういうようなところとか、反体制みたいなものがあるのかなって思ったんですけど。これは、和田さんと木積さんと両方におうかがいしたいんですけど。難しい質問やけど。
【和田】先に喋っていいですか?
僕は、桂米朝師匠が亡くなったときに、「ユリイカ」って雑誌の追悼文を頼まれて、特集号のときにそこに書いたんだけど、上方落語の本質は、僕は旅だと思ってます。
【山下】旅行ですね。
【和田】旅行の旅です。実際に旅行する話、伊勢参り行く話とか伊勢参りから帰ってくる話とか、いっぱいあるんですけど、それだけじゃなくても、大阪の中でやっている話も僕は旅だと思ってる。
【山下】さっき、A地点からB地点へっておっしゃっていたのが、まさにそれってことですか。
【和田】そう思ってます。そういう構造を持ってるのが上方落語だと思ってます。
【山下】面白いな。逆に木積さんはいかがですか?
【木積】以下同文ということで、そういうわけにはいきませんね。
僕は、情景描写なのかな。スケッチ的な要素が多いんじゃないかなって思うんですよ。『天王寺詣り』とかは、お寺の境内を案内するみたいな。で、『猿後家』ってお噺なんかでも、東京でも『猿後家』ってありますよね?
【和田】一応ありますね。志の輔さんがやったり。
【木積】あれは東京だとおべんちゃらオンパレードみたいなお話なんですけど、こっちはおべんちゃらもあるけど、奈良の観光案内みたいな。
だから、そういう意味では、旅って意見に。
【山下】似てますよね。
【和田】神山彰さんという、歌舞伎の研究家の方がいるんですけど、その人が、道行(みちゆき)とは何かっていうのを論文書かれてるんです。道行っていうのは、歌舞伎とか人形浄瑠璃にしょっちゅう出てくるんですけど。
【山下】そうですね。『近松』。
【和田】そう、『近松』で、心中するときに、2人であるところからあるところまで、心中する場所まで、2人で寄り添って歩いていったり、そんなのを道行っていったりするんだけど。そうじゃなくても、「お軽勘平」が、道行したりするんだけど、それは、神山彰さんが書いてらっしゃるけど、道行の浄瑠璃っていうのは全部風景描写なんですよ。
【山下】なるほど。
【和田】ここに山がみえてきました。ここに川がみえてきました。橋があります。さっきの八百八橋の橋の名前がいっぱい出てくる。で、描写をして、ここにお寺の提灯があります、なんとかでって。逆にいうと、道行っていうのはそれをしないと描写ができないわけだから、全部風景描写なんですよ。
【山下】ということは、文楽劇場も大阪にありますけど、文楽の発祥の地でもあるじゃないですか。やっぱりそこはあるんですかね。そこで「道行」みたいなのがうまれていて、旅が上方落語で、情景描写も含めて。
【和田】今の僕の意見と木積さんの意見を合体させると、めちゃくちゃそれが鮮明になります。
【山下】ですよね。そういった目で、今度、上方落語を聞いてみようと思います。
【木積】で、もう1ついえるとしたら、上方落語って、そこまで考えんでもええんちゃうみたいな。
【山下】逆にね。
【木積】逆に。なんかそこらへんって矛盾してるなって思うところあるんですよ。理屈っぽいんだけど、そこまで考えんでもええやん。普通に聞いておもろかったらええやんみたいなんが、東京はないことはないんでしょうけど、大阪のほうが。
【和田】それはその通り。そのことは、また回を改めて話しましょう。
【木積】はい。
【和田】それは、江戸でなんで、人情噺が発達したかってことなの。大阪の人は人情噺いらんっていってるんですよ、要するに。
【山下】あんまりないですもんね。大阪はね。
【和田】その領域はいらんっていってるんですよ。
【山下】そこの話は深くなりそうですね。
っていうことで、ちょっとお時間になって、今日はこれで終わりにしたいと思いますけど、上方から木積さんがわざわざ来ていただきまして、ありがとうございました。
【木積】本日はどうも、ありがとうございました。
【山下】和田さんも、どうも、ありがとうございました。
【和田】ありがとうございました。
【山下】じゃあ、カメラに向かって。
【和田】上方でいいんですか? 東大阪だね。
【木積】東大阪。
【山下】はい。上方に向かって手を振ってください。お疲れ様でした。
テキスト起こし@ブラインドライターズ
(http://blindwriters.co.jp/)
担当:江頭実里
ご依頼、ありがとうございました。上方落語の寄席以外の落語会の形式など、起こしながら、とても勉強になりました。
次回もぜひ、よろしくお願いいたします。
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