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【PODCAST書き起こし】劇団チョコレートケーキの劇作家:古川健さんに聞いてみた(全2回)その2

【PODCAST書き起こし】劇団チョコレートケーキの劇作家:古川健さんに聞いてみた(全2回)その2

【山下】『一九一一年』とかですね、『あの記憶の記録』とかですね、ありますけれど。

【古川】はい。

【山下】このへんのテーマは毎回どういうふうにしてお決めになるんですか?

【古川】最初はみんなで話して決めたりもしたし、あとは自分で何を書いていいのか全然わかんなかったんですよね。やりたくて始めたわけではないから、書くのもしんどいというか、今でもしんどいんですけれど。書くのが好きじゃないっていう。

【山下】でも、むちゃくちゃ書かれているじゃないですか。

【古川】それはまあ、もうこれは仕事と思ってやっていますけれど。

【山下】ちなみにちょっと脱線しますけれど、古川さん去年コロナの前に、もの凄くたくさん書かれた年がありましたよね。

【古川】そうですね。

【山下】外部に書き下ろしもされていて。

【古川】はいはい。

【山下】あれは何本ぐらい書いたんですか?

【古川】多分1番多い年で7本とか書いていますね。

【山下】7本だと2カ月に1回書いてもまだ足らないじゃないですか。

【古川】ちょっと足りないくらいの感じですね。

【山下】はあー。でもウンウン唸りながら書いているとおっしゃっていて、それが書けるのは凄いなって、逆に。

【古川】まあ……うん、そうですね。自分でもそう思いますけれど。

【山下】あはははは。

【古川】あははは。でも1回引き受けた仕事を書かなかったら……。

【山下】引き受けちゃうとね。締め切りがありますもんね。

【古川】めちゃくちゃ怒られますからね、多分。はは。

【山下】そうですよね。

【古川】書かないわけにはいかないですよ。

【山下】それはもう自分に課して書いていると。

【古川】そうですね、はい。

【山下】ただですね、古川さんの本ってやっぱり史実をもとにしているのが多いから、資料をもの凄く読み込まれるんじゃないですか? いつもチラシに参考資料が書かれてあって、あれは全部古川さんの机のところに積んであって読んでやっている?

【古川】はい。全部自分で買ったやつですね。

【山下】あれは買って読むんですか? やっぱり。 

【古川】だいたい読みますけれど、なかには「全然違うや」っていう。2~3ページぐらいでわかっちゃうやつもあって。

【山下】わかるわかる。それはあります。

【古川】そういうのもあります。

【山下】なるほど。とはいえ、書き出す前には読んでからじゃないと書けないですよね。

【古川】そうですね、はい。

【山下】そうすると、書きだす前の準備時間って結構凄い……。そんな1週間で全部読めないじゃないですか。

【古川】まあ1週間は無理ですね。可能なら1カ月ぐらいは本を読む時間が欲しいですよね。

【山下】うん、ですよね。1カ月ぐらい本を読んで、そこから熟成させる期間はあるんですか?

【古川】本当は欲しいですね。だから本当は1カ月読んで2週間くらいは寝かしとて、そこから書き出したいくらいなんですけれど。

【山下】そうですよね。海外だとね、それができるのかもしれないけれど。

【古川】今は全然そんな状況にはないので、はい。

【山下】なるほど。そうすると、もう読み終わると「どうしようかな?」って考えながら読んでいて書き出す、と。

【古川】そうですね。最近はもうプロットもあらかじめ作っておかなきゃいけなかったりするので、プロットの段階で、もう1・2冊は読んで、粗いプロットは組んであって、その状態で本をいっぱい読んでっていう。

【山下】じゃあ新作はちょっと参考資料を読んでからプロットはもう書いちゃう?

【古川】そうですね、はい。せめて登場人物だけは決めておかないとみたいなことはあるので。

【山下】なるほど、キャスティングのこともありますからね。

【古川】はい。

【山下】あ、そっかそっか。で、これを決めて、仮説だけれどそこからちょっとよくしたり広げたりとかっていうのをさらに資料を読み込んでされると。

【古川】はい、そうですね。

【山下】どういうようなあれで広げたり、縮めたり、登場人物をクローズアップしたりとかしているんですか?

【古川】資料を読んでいて息遣いが聞こえてくるときがたまにあるんですよ。

【山下】どういう感じですか? もっと具体的には。

【古川】この人はこのときこう考えたんだろうなっていう客観的な事実と共にその気持ちっていうんですかね? その人の思いっていうのが腑に落ちたりとかするんですけれど。まぁめったにないですけれどね。そういうときはやっぱりそこを掘り下げていこうと思って作りますね。

【山下】なるほど。それはじゃあ連合赤軍であったり、例えばヒットラーのあれであったりとかもそんな感じですか?

【古川】そうですね。あれはでも膨大な歴史的な事実の中からどこをピックアップするかみたいなところがあるので。

【山下】なるほど。そこをどういうふうにして編集していくのか、キュレーションしていくのかみたいな話なのかな?

【古川】そうですね、ああいうのはそうです、はい。

【山下】だからやっぱりテーマによって少し違うんですかね?

【古川】うーん、そうですね。完全に感情移入しているわけでもないし、客観的な目もないといけないですからね。

【山下】それは大事ですよね。客観的な目は本当に僕もそう思います。それでチョコレートケーキさんの大きな評価をされて、転機になる 『治天ノ君』。

【古川】はい、『治天ノ君』。

【山下】大正天皇を扱われたお話しなんですけれど、あれをお書きになろうと思ったのはどういうきっかけですか?

【古川】今はもうさすがにある程度大人になったのでそういうのは無いんですけれど、この当時は「やっちゃいけないことのギリギリまでやってやろう」っていう気持ちがあったので、書いちゃいけないことを書いて……。

【山下】あー、天皇制に対してっていうことですか?

【古川】はい。なので、1つ前に『熱狂』と『あの記憶の記録』で「ヒトラーを主人公にするサクセスストーリーを書いてみたらどうだろう」っていうふうに言ってやったら……。

【山下】みんなが評価したと。

【古川】で「まだまだいけそうだ。誰も怒らないぞ。じゃあもう1個やっちゃいけないことに近づいてみようか」っていって主人公を天皇にっていうのを思いついたので。

【山下】なるほど。燐光群の坂手さんが『天皇と接吻』とかっていう本を書かれていて、そのときに街宣車が来たりっていうことがあって、その少しあとだったんですけれど、あまりみんながメディアでも語られない大正天皇のエピソードを、僕はおばあちゃんとかに聞いていたのでなんとなく知っていたんですけれど。
(※1999年『天皇と接吻』第7回読売演劇大賞優秀作品賞)

【古川】そうなんですね。

【山下】大正天皇の体の様子がっていうのは聞いていたんですけれど、これはどういうきっかけでこれを知ったというか、古川さんは。こんなに詳しくご存知だっていうのは知らなくって。

【古川】定本というか……。

【山下】あるんですか?

【古川】そこにあるこの研究が、原武史さんという政治学者さんの書かれた『大正天皇』っていうその研究が大元になっているんですけれど。

【山下】あ、それが、なるほど。

【古川】はい。でもそれを読んでいたわけではなくて、いつのことだったか忘れたんですけれど、その本が出たときに書評が朝日新聞に載っていたんですよね。大正天皇の新しい姿・新しい研究によるとこんな本が出たよっていう書評があったっていうことは覚えていて「あ、大正天皇って俺らが考えていたような人じゃなかったっていう研究があるんだ」っていうのは頭の中にあったんですよね。

【山下】逆に僕はこれを見せていただいて、おばあちゃんとかが言っていたことといい意味でちょっと違うなと思ったんですね。病気で体が弱かったっていうだけじゃなくて「国民に寄り添って現場に行って、できるだけ近くでみんなと価値観を共有していきたい」っていうのがみえてきた。もう1個は強大な父である明治天皇のくびきというかですね、なんかそれに押しつぶされそうになって頑張っているみたいなのがあって、これはよくある創業者と2代目社長みたいに僕らは置き換えて見るんですけれど。

【古川】はいはい、そうですね。

【山下】それを凄く感じて「これ僕たちに全然置き換えられるな」っていうので凄く共感したんですね。

【古川】うん、そうなんですよね。だから、誰もが名前は知っているけれど、実像はほとんど知られていないってめちゃくちゃおいしい題材なんですよね。

【山下】あー、そうか。

【古川】誰もが名前を知っているから大正天皇っていうのはわかるけれど、その人の本当の姿っていうのを知られていないっていうのは非常に僕も……、だからこそ「やったらこれはウケるだろう」っていうのはありましたし、非常にそこは踏み込んでやるべきだなと思って書きましたね。

【山下】なるほどね。あとは松本紀保さんが演じられた大正天皇夫人の気高さとか。

【古川】はい、素敵でしたね。

【山下】スッと凛として立つような潔さっていうのが皇族のみなさんはおもちなんじゃないかなって本当に凄く思ったし、それをちゃんと松本さんが体現されましたけれど。それはやっぱり戯曲の中にも盛り込んでいるからあれができていたのかしら?

【古川】どうでしょう? でも、言葉だけだったらやっぱり……、言葉だけでできることとできないことがあると思っていて、あの『治天ノ君』の皇后に関してはやっぱり演者の力というか、現場の力っていうみんなの総合力であそこにあの役がたったんだなと思います。それは僕の本プラスアルファのなにかが無いとやっぱりあそこまでは絶対にいかないなと思っています。

【山下】じゃあそこはプラスアルファがあっていい相乗効果が生まれたっていうことですね。

【古川】うん。そもそもやっぱり戯曲というのはあくまで設計図に過ぎないので。

【山下】なるほど。

【古川】やっぱり出来上がりは板の上にあるものなので、設計図が無ければ家はできないですけれど、設計図だけでも家はできないっていう関係性なのかなっていうふうに思っていますね。

【山下】そうですよね。工事現場で寸法が違うと合わせていかなきゃってなったりしますからね。

【古川】うん。絶対にそうなんですよ。

【山下】なるほど。劇作家の立場として、演出は日澤さんがされていますけれど、古川さんは舞台の稽古には参加されるんですか?

【古川】いや、節目節目みたいな感じですね。最初の何日かはずっといて、で初通しになったら見に行ってとかそういう感じになっています。

【山下】それくらいの感じで。あとはじゃあみんなにお任せしてっていう。

【古川】はい。そうですね。

【山下】時々俳優さんとかで「このセリフじゃなくて……」とかセリフを変えたりとかはあるんですか?

【古川】そんなに大きくはないですけれど、やっぱり細かいところで気になるところを変えたりっていうのはありますね。

【山下】それは古川さんが……、日澤さんがなんか一緒に?

【古川】そこは現場ですね。

【山下】なるほど。あとで「こんなふうになったよ」みたいな感じか。

【古川】はい。

【山下】稽古とか見ていて今演出はされていないですけれど、どんな感じでいつも見ていらっしゃるんですか?

【古川】僕は自分で書いておきながらどんな芝居になるのかわかっていないところがあるので。

【山下】あはははは。

【古川】それがどんどん立ち上がっている姿っていうのがめちゃくちゃ楽しい。

【山下】楽しいですよね。わかります。自分で書いたものが形になっていくの楽しいですよね。

【古川】はい。本当に楽しい。それをただただ楽しいでいます、僕。

【山下】じゃあ毎回楽しいじゃないですか。

【古川】はい。毎回楽しいです。

【山下】それ1番劇作家のいいところですよね。楽しいところですよね。

【古川】はい、そうですね。

【山下】なるほど、じゃあそうか。自分で「ああ、こうなるんだ」って感動があるのはおもしろいですね。

【古川】はい。

【山下】次にですね、石井731部隊のことをお書きになったその後のミドリ十字のことも含めての『ドキュメンタリー』というものと『遺産』ですかね。

【古川】はい。

【山下】これはどういうきっかけで古川さんはこの題材を書こうと思ったんですか?

【古川】僕は731を知ったのは中学生ぐらいのときだったんですけれど。

【山下】凄く早熟な……。森村誠一さんの本ですか?

【古川】いえ、松谷みよ子さんの児童小説で。

【山下】あ、松谷みよ子さん。そんなのあるんですか?

【古川】あるんですよ。『屋根裏部屋の秘密』という作品で。

【山下】へえー。

【古川】それで731部隊を知って、森村誠一さんの本の『悪魔の飽食』も読んで、ずっと心に引っかかっているというか、いろんな意識の中心に731があったので。だからいつか書きたいとは思っていたんです。

【山下】ずっと思っていたんですね。あれをああいうふうに『ドキュメンタリー』と『遺産』に分けようって思ったのは古川さん?

【古川】それはさっき日澤がちょっとよく言っていましたけれど、単純に『遺産』がまずありまして。

【山下】『遺産』が最初にあったんですね。

【古川】はい。『遺産』があって『遺産』が、すみだパークという。

【山下】はい。でかいところですね。

【古川】どこの駅からも遠い、初めて使う劇場であるということで「どう集客を減らさないようにしようか」っていうことでプレ公演みたいな形で『ドキュメンタリー』を作ろうってなって。

【山下】なるほど、お題が来た。

【古川】なんかそれで1本書けっていう流れにギジダンカイギになったので、そしたら731に繋げるんだったら、こっち側の現代に寄せて。

【山下】731のその後の。

【古川】ミドリ十字からいったほうがいいかなっていうことで『ドキュメンタリー』っていうことなんですよね。

【山下】なるほどね。さっき日澤さんにも話したんですけれど、古川さんも野木萌葱(のぎもえぎ)さんが書かれた……あれはご覧になった?

【古川】もちろん、拝見しました。

【山下】あれを見てからこれを書いた?

【古川】書いたのはそうですね。そうだったと思います。

【山下】見てから?

【古川】見てから書きましたね。

【山下】なんかあれにインスパイアされたところとかありましたか?
【古川】いや、そんなにインスパイアはないですね。

【山下】インスパイアはない?

【古川】インスパイアはないです。はい。

【山下】自分で自分のあれを見てっていう。

【古川】はい。あちらはあちらで非常に面白いですけれど。

【山下】おもしろかったですよね。

【古川】アプローチのしかたに特徴があるというか。

【山下】全然違いますよね。

【古川】あれはあれで僕は凄く好きな作品ですけれど。だから逆に似せないようにしようっていう意識はちょっとあったかもしれないなぐらい。

【山下】ああ、逆にね。

【古川】はい。

【山下】なるほど。また全然所々が違うものになっていますけれど。『ドキュメンタリー』に戻りますけれど、『ドキュメンタリー』って2人の芝居じゃないですか、基本は。

【古川】そうですね。まあ密な会話の流れですね。

【山下】だからあれはミドリ十字の人と編集者でしたっけ?

【古川】ミドリ十字の人とジャーナリストっていうか、はい。

【山下】ジャーナリスト。そうだジャーナリストの……記者かな? 

【古川】記者ですね、はい。

【山下】あの会話をああいうふうに紡いでいくのって2人芝居の会話を紡ぐのって凄く難しいと思うんですけれど、どうなんですか?

【古川】でも、あれは内部告発という非常にわかりやすいシチュエーションがあったので、しかも取材という「私は医療の素人だと思って話してくださいね」っていうくだりがあるので。

【山下】ああ、そうか。そこがあるから。

【古川】やっぱりそこは、そのシチュエーションさえ用意してしまえばある程度書きやすくはあるんですよね。

【山下】なるほどね。そうするとそのシチュエーションを考えつくまでっていうのが結構大変なんじゃないですか?

【古川】でもこれは結構ひらめきだったりするんですよね。

【山下】でもそこは才能ですよね。だから。

【古川】でもある程度情報とかを扱う……こういう硬質な堅いものを扱うとなると、実はそんなにパターンってなかったりとかするので。

【山下】そうなんですね。

【古川】まあ内部告発というか取材というか調べている人と知っている人っていうのは多分鉄板の構図なので、そういう意味では。

【山下】そうか、なるほどね。

【古川】まあ言ってしまえば、よくある手法だとは思います。

【山下】そうなんですね、なるほど。もう1個ちょっと戻しまして、さっき日澤さんにも聞いたんですけれど『60’sエレジー』。

【古川】はい。

【山下】これは1960年の東京の蚊帳? 蚊を寄せ付けないように蚊帳がたくさん出てきますけれど、蚊帳屋さんを舞台にしたんですけれど、これだけ他に古川さんがお書きになっているものと違って少しホームコメディ的なですね……。

【古川】そうですね。

【山下】それはわざとそういうふうに書かれたんですか?

【古川】中劇場がずっと続いていて、久しぶりに小劇場でやるっていう……、新しい試みだったんですよね。その小劇場に帰ってくるっていうのが。

【山下】やっぱりそれは自分の中で意識されていたんですか?

【古川】なので、僕としても「新しいことをやってみたいな」っていうことでまったく架空の人物たちをっていう。逆に架空の人たちだけで紡ぐ物語ってほとんど書いていないんで。

【山下】ですよね。だからあれは作風がいつものあれと違うなって凄く思ったんですけれど。

【古川】実験というか僕も長年いろいろやっていくうえで、どんどん新しいチャレンジをしていかなければどんどん手詰まりになるので「新しいことを試せる機会は絶対に逃さないようにしよう」ってだいたいこの時期くらいから思い始めていたのかなと思います。

【山下】そこからちょっと少し広げていこうかっていうふうに思ったっていう。

【古川】で、あの年はね本当にアホみたいに書いていた年で。

【山下】やっぱりそうなんですね、

【古川】6本・7本……。しかも2年連続くらいでやっていた時期だったので。

【山下】そうか、そうするとやっぱりそこは少しバリエーションを増やしていくと。

【古川】はい。しかも自分のホームの自分の劇団なんですよ。

【山下】そうですよね。割と自由にできますよね。

【古川】そうですね。だからこそ、自分のホームだからこそ課せられている、ハードルが1番高いと思っていて。

【山下】逆にね。

【古川】はい。自分が1番試される場所は劇団だと思うので。そういう意味ではやっぱりチャレンジっていうのは劇団公演では持ち続けなければいけないなって思ってチャレンジしましたね。

【山下】なるほど。逆に僕と谷が一緒に見に行ってそのあとに飲みながら話したんだけれど、チョコレートケーキの今までのと違ったんだけれど、凄くよかったから、結構むちゃくちゃ飲んで盛り上がったわけですよ。

【古川】あはは、ありがとうございます。

【山下】やっぱりそれはお客さんの評価はありました? この公演『60’エレジー』に関して。

【古川】おおむね好評というか、「とても良かった」って言ってくれて「泣きました」いう方々が非常に多いのでありがたいなって思いますけれど。

【山下】いや、泣きますよね。なんかシーンと考えこむんじゃなくて、泣けてきた。で、それがですね。もう1個ちょっと外に外部に書き下ろしをされたやつで、僕と谷がこれまた一緒に見に行ったんだけれど、文学座アトリエ公演『かのような私-或いは斎藤平の一生』これもですね、凄くいい舞台だったの、実は。

【古川】あ、そうですか、ありがとうございます。

【山下】これはさっきの『60’エレジー』と仕立てが凄く似ているなと思ったんですけれど。

【古川】なるほどねぇ。

【山下】それは特に意識はされていない?

【古川】そうですね。あれは別に『60’エレジー』を意識したってことはないですね。

【山下】なんか淡々と続く人の一生。なんかもの凄く華やかなことがあるわけでもないんだけれどそれがずっと続いていくよ。それは蚊帳工場もだんだん衰退していくんだけれど、でも生活は淡々としていてその中に人の繋がりが描かれている。それをね、同じようなことを感じたんですよこれにも。

【古川】そうですね、突き詰めていくような作品じゃなくって、もうちょっとスタンスを引いて物事を見るような書きかたっていうのも1つあっていいだろうなって思うし。それは自分なりのいろんなかたちっていうんですかね? 戯曲の形というか僕のバリエーション? のなかで確かに『かのような私』とか『60’エレジー』を書いた時期っていうのはそういう1つ引いて物事を書くっていう。で「最高を追っかけていかない」っていう。そういうのを意識して書いたっていうのはあります。

【山下】そうですよね。しかもそんなに史実とかをベースにしているわけじゃなくて、オリジナリティがあるじゃないですか。

【古川】そうですね。

【山下】だからそれは逆に凄く新鮮なところがあって、自分の中に。僕が演劇をやるプロデューサーだったら、「なんかこういうのをちょっともう1回やりませんか?」って凄く思っているわけですね。

【古川】あはははは。そうなんですね。

【山下】いや、本当に。だからもちろん社会的なものはベースにあっていいんだけれど、『KERA MAP』的なスピンアウトしたものとかですね、そういうみたいなもの。

【古川】なるほど。

【山下】そういうのが増えていくとおもしろいかなって凄く思ったんですね。それは凄く感じました。

【古川】なるほど。ありがとうございます。

【山下】えーと、もう少しだけ……、もう1作だけお話をお聞きしたいんですけれど。

【古川】はい。

【山下】最近作の『帰還不能点』

【古川】はい。『帰還不能点』。

【山下】これは「失敗の本質」と僕は呼んでいるんですけれども、失敗の本質がどこで起きたのかという、戦前の日本軍の意思決定が延び延びに延びてしまったっていう。あれはどういう意図でお書きになった感じのあれですか?

【古川】1番始めにあるのは軍部悪玉論で単純にくくれるほど太平洋戦争はあまくない。 

【山下】そうですよね。

【古川】軍部を悪玉にしてそこで終わったら、それは思考停止だろうっていうのがあるので、もう1回そこは掘り返す必要があるだろうなって思うし、特に近衛文麿と松岡洋右のやったことっていうのは、「やっぱり僕ら日本人が歴史を繰り返さないために学ばなければいけないことだろう」と思ったので、スタート地点はそこですね。

【山下】でも書き始めたら結構大変だったんじゃないですか? これは。

【古川】でもね、これも『帰還不能点』の1個前の作品が『無畏』という南京事件を扱っている……。

【山下】はい、『無畏』ですね、南京事件の。

【古川】南京事件と対米戦の開戦ってほぼ似たような時期で2本書くので、『帰還不能点』はやり方を今までとは違うことを、これも新しいことにチャレンジしようと思って、劇中劇で歴史を語るという新しい方法に挑戦したんですよね。 

【山下】なるほど。居酒屋で飲みながらね。

【古川】はい、そうです。だから……。

【山下】これはさっきの『60’エレジー』の雰囲気もちょっと出ていますよね、そこはね。

【古川】それはそうですね、はい。そうなんですよ。だから新しい挑戦だったので苦しかったですけれども、今までやっていたこととはやや目先が違ったので。

【山下】ああ、それはそうですね。

【古川】新鮮な気持ちで書き続けることができたっていうのはあります。

【山下】なんか劇団チョコレートケーキさんのいつもの公演とはまたちょっと違うなっていう感じはありましたね。

【古川】はい、そうですね。

【山下】だからそれは逆にいい意味で新鮮だったかな。『無畏』と失敗の本質である『帰還不能点』はやっぱりちょっと繋がっているんですね。南京大虐殺がなぜ起きたのか、資料とかはまったく持たないまま突き進んでいくとそこで収奪をしないといけなくなるっていうことがよくわかりましたけれど。そこは本当にいろいろと勉強になりました。ということでですね、最後にですね、古川さんともうすぐ1時間経ちますのでこれからどういったものをお書きになっていくのか。『一九一一年』の話はこのあとに日澤さんとお2人でお伺いしますけれど、古川健さんが今から考えること。これからこういうふうにっていうのはありますか?

【古川】そうですね……、何年か前に同じことを聞かれたら、とりあえず「いつか日本の戦争をしっかり書ききってみたい」みたいなことを答えていたんですけれど、ちょっと2本続いたので……。なんでしょうね……。僕は到底遠く及ばないですけれど、井上ひさしさんが凄く尊敬する作家さんなんですけれど、井上さんにははるか及ばないんだけれど、日本人の本質っていうんですかね「我々とは何なのか?」っていうのを真摯に考えていけるきっかけになるような作品を作り続けていたいなっていうふうに思います。

【山下】日本人の本質。

【古川】はい。

【山下】コロナでいろいろ大変な状況になってまだ続いていますけれど、そのときに何か書こうとしているものとか、感じかたが変わったりとかはありますか?

【古川】うーん。そうですね、今までだったら日本人が書いて日本人が見る話だから、日本人を批判するのはほどほどというか、ある程度オブラートにくるんでやろうって思っていたところがあるんですけれど、「そんなことをしている場合じゃないな」っていうふうに思ったのはこのコロナがきっかけになったのはありますね。

【山下】なるほど。それは来月の『一九一一年』にもちょっとだけ入っていたりはするんですか?

【古川】あれは10年前に書いた本で。

【山下】あ、そうか。それはそのままなんですね。

【古川】はい。書き直したわけではないんですけれど、でもやっぱり日本人の……日本の社会の持っている病巣って言うんですかね? 病巣って言っていいのか、人間か抱えていることなのかもしれないですけれど、悪というか、権力が暴力をふるうっていうことに関して、そこを突き詰めた作品だと僕は思っているので、はい。

【山下】なるほどね。

【古川】そこは今に通じるところはありますね。

【山下】日本の特徴として責任を取る人が曖昧になっているっていうのがあって、さっきの戦後処理の話もありますけれど、アメリカ軍が占領されて責任取り係の人が何人かは裁判にかけられたけれど「本当にどうやって失敗したのか」とか、そういうことが全然追及されないままやっているのが僕は凄い日本の特徴かなと思っていて。

【古川】そうですね。

【山下】ドイツは徹底的に反省していたりするじゃないですか。でも、ハンナ・アーレントみたいな人がまた違う事を言って、そこが、ひっくり返ったりだとか、いろんなことが起きているっていう。日本は戦後の責任をちゃんと取らなかったことが、そこの本質が日本人がもっている、なんか……、会社もそうなんですけれど似ているんですよ、それ。

【古川】うん、そうですね。

【山下】「誰? 責任者」みたいな。むちゃくちゃ曖昧なまま、そのままみんな死んでしまうみたいな。

【古川】うん。総無責任社会というか、そういうところはありますよね。だから僕は80年経とうが100年経とうが今からでもいいからあの戦争の総括は日本人の手でもっとやっていかなきゃいけないと思っているし、それをしてやっと戦後が始まるんじゃないかと思っているくらいなので。 

【山下】ああ、だからまだ戦後が……、70年経ったけれど(戦争は)終わっていないんじゃないかと。

【古川】はい。

【山下】なるほどね。そうすると古川さんが日本の戦後の総括を、何か作品に書いてもらえるのがちょっと楽しみですね。

【古川】僕は歴史が好きだから歴史ものを書いていますけれど、歴史的にテーマとかそういうのって実は動機付けで。

【山下】でしかない?

【古川】僕、本当に1番何がしたいかって芝居がしたいんですよね。芝居がしたいから台本を書いていて、台本を書いていくうえで歴史ものが僕は得意だから歴史ものを書いているっていうことなんです。

【山下】なるほど。

【古川】僕は何か問題意識が先にあって、演劇を作っているというのではなくって、演劇が好きだから演劇を作っていて。

【山下】なるほど、それの手法としてそういったものを使わせてもらっていると。

【古川】はい。そういうことなんですよね。

【山下】そうするとやっぱり演劇が生きるっていうことに繋がっているってことですか?

【古川】ああ、やっぱりこの年までずっとやって来たし、それはもう好きだから初めて好きだからずっと続けていることなので。まあこれから先もずっとやっていくんだろうなって思います。

【山下】いやいや、もう末永くあと何十年も書けると思いますので。

【古川】はい。

【山下】頑張って下さい。

【古川】ありがとうございます。

【山下】ということで、ほぼ1時間になりましたので、これで古川健さんありがとうございました。

【古川】ありがとうございました。

【山下】っていうことで、古川建さんとのお話を終わります。じゃあさようなら。

【古川】ありがとうございました。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

---- 担当: 榎本亜矢 ----
いつもご依頼ありがとうございます。日本の歴史の、あまり表に出て来ないようなことを題材とした演劇のお話が多く出てきましたが、恥ずかしながら私もさわりしか知らないことだらけで、お話を聞いていてとても興味が出てきました。日本人として、日本の歴史を振り返り見つめなおすのはとても大事だと思いました。演劇は子どもの頃に見に行ったきりなのですが、今後の楽しみの1つに加えさせていただこうと思います。素敵なご縁をありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。


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