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【PODCAST書き起こし】和田尚久さんに、立川談志と「馬生」などについて聞いてみた その4

【PODCAST書き起こし】和田尚久さんに、立川談志と「馬生」などについて聞いてみた その4

【三浦】(古今亭)志ん朝さんの話になりましたけど。立川談志さんから離れますけど……離れなくもないのかな。(金原亭)馬生さんっていうのはどういう……よく「陽の志ん朝、陰の馬生」って言われてたというようなことも聞くんですけれど、そういう解釈はあるんですか? こう、芸風的にいうと。
【和田】まあ、ありますね。陰、陽って簡単に分けちゃっていいのかってところもあるんですけど。
【三浦】それ、二元論的に簡単すぎますね。失礼しました。
【和田】でも、馬生さんのほうが志ん朝さんよりちょっと写実なんですよ。
【三浦】写実……。
【和田】だから、人間のリアルを書こうとしているのか、ご本人の人間観でそれが出ちゃうのかもしれない。今度、そこにもありますけど、小学館で50席入った馬生さんのCDボックスが出るんですけども。それで廓噺(くるわばなし)が、廓噺って志ん生さんも志ん朝さんも馬生さんも、要するに古今亭のお家芸みたいなものでいろいろやっているんですけれども。廓噺のパターンってたいてい遊女が客を騙すわけ。
【三浦】そうですね、ええ。
【和田】『三枚起請』にしても、『辰巳の辻占』とかにしても、だいたいそういうの多いじゃないですか。
【三浦】そうですね。
【和田】そのときに、志ん朝さんはある種、漫画的に……これは褒め言葉としての漫画的に、朗らかにやっていくんだけど、馬生さんは「女って所詮しょせんこういうもんだよね」とか。
【三浦】うーん、なるほど。
【和田】翻って言えば「じゃあ男だってそうじゃん」っていうような部分がつかまえてる。だからちょっと苦いんです、馬生さんの落語って。
【三浦】なるほど。あと廓という部分もどっかでこう、影を引きずってる部分もありますからね。
【和田】そうです。だからそこの影とか、漫画的なだけじゃ済まない部分みたいな。男が客で来てるんだけど、遊女側から見たらただのお金持ってくる客でしかないから。男の側は相思相愛だと思い込んでるわけで。
【三浦】思い込んでますね。
【和田】こっちは思ってるんだけど遊女から見たらぜんぜんそうじゃなくて、っていうような。だから「こいつちょっと騙しとけ」みたいな、口先三寸で、っていう部分をわりと写実で書けちゃう人なのね。
【三浦】なるほど、そのへんのこう、機微を細かく……。
【和田】そうなんです。
【三浦】表現してるってことなんですね。
【和田】だからその細やかさがすごくいい。いいのもあるし。だけど志ん朝さんほどの朗らかさを求める人にとっては、「馬生さんってちょっとオフだよね」って見えちゃうかもしれない。
【三浦】暗く感じる。
【和田】かもしれない。だからちょっと写実でありリアルでありっていう部分があるかなとは思いますね。
【三浦】でもそれは非常に興味ありますね、やっぱり。私は馬生さんの高座はもちろん見たことがなくて、音源でしか聞いてないんですけど、そこはかとなく感じるそういう部分って自分としては非常に好みですね。
【和田】馬生さんはこれまで……ちょっとこれはマニアックな話なんだけど、存命中にレコード会社と結んでた契約とかがいろいろあって、これまで年代をバーっと網羅した全集っていうのが実は出てないんですよ。
【三浦】そうなんですか?
【和田】そうなんですよ。それで部分的にパラパラとCDとか出てたんですけど、
【三浦】16枚……10枚組とか出てましたよねCDは。どっかのレコード会社から。
【和田】出てます。コロンビアから出てるんですけれども、その全貌を見るっていうのはなかなかなくて。
【三浦】ああ、なるほど。
【和田】それもあって、志ん朝さんほど没後に検証されてこなかった演者だったんです、実は。
【三浦】ああ、そうなんですね。
【和田】あと亡くなったのが、さっきの(古今亭)右朝、(桂)吉朝の話にちょっと近いんだけど、54なんです。
【三浦】若いですね。
【和田】若いんです。だからあまりにもまだ未知数の部分が多かったし、54で亡くなっているから自伝とかも何もないんですよ。自伝出す年齢じゃない。
【三浦】そうですね。
【和田】というのもあって。
【三浦】なんか1冊の本出てましたっけ?
【和田】馬生さんを書いた本はありますよ。
【三浦】そうですよね。馬生さんって本人が書いた本はないか。
【和田】ないですね。速記本はあるんだけど、自伝とかがっちりした芸談とかってないんです。だって今の(立川)談春さんや喬太郎さんより年下なわけだから。
【三浦】そうですよね。出すような年齢じゃないですもんね。
【和田】おかしいでしょ、そんなことしたら。
【三浦】普通に落語やってるっていう。
【和田】そうそう。で、40代ぐらいって落語業界でいったら若手ですからね。
【三浦】そうですね。
【和田】そこを越えてちょっと数年しか生きてなかった人なので。なんですけども、これからやっぱり再発見される人だと思っていて。今だったら(五街道)雲助さんが馬生さんの弟子なんで。
【三浦】そうですね。
【和田】つまり、(春風亭)一之輔さんを見て「一朝師匠ってすごいな」と発見するみたいなのあるじゃないですか。
【三浦】あります、あります。
【和田】その図式でいうと、やっぱり雲助さんとその一門がいることによって、「これを生み出した馬生師匠はすごいな」って。
【三浦】そうですよね。
【和田】僕は見えると思っていて。
【三浦】そうなんです。やっぱりあの、志らくさんがよくいろんなところで語る、自分が談志に入門するきっかけになったということで。志らくさんって本当は馬生に弟子入りしたかったんですよね。そしたら馬生師匠が亡くなっちゃって。ある日談志師匠の高座行ったら、馬生師匠が亡くなった日でしたっけ、そしたら「俺はもう今日は落語やらねえ」って言ったっていう。あの一連の話はなんかすごくいい話だと思って。もちろんそのへんのことをこう聞くにつけ、馬生師匠には興味を持ってその音源も聞いたり。あと、雲助さんはそんなに聞いてないんですけど、その弟子、(桃月庵)白酒とかけっこう好きでよく行くんですよ。あと、(隅田川)馬石と(蜃気楼)龍玉でしたっけ。なんかあの一門いいですよね、とっても。
【和田】いいです、いいです。僕、なんだろうね、ちょっと人生に対するあきらめが……よく雲助師匠なんかもまくらに引くんだけど、「あっさりと恋も命もあきらめる江戸育ちこそ悲しきはなし」。これ俳句じゃなくてね。
【三浦】歌ですね。
【和田】歌。「あっさりと恋も命もあきらめる江戸育ちこそ悲しきはなし」っていうのあるんだけど、そんな感じの部分があるの、馬生さんの芸って。だから、ある種志ん生さんという人の巨大な落語家の子供に生まれたっていうのがあって、そこの葛藤みたいなのが当然あったと思うから、そのおもしろさですよね。でね、お弟子さんが……たぶんさっき言われた本って馬生さんが記した本じゃなくて、のちにお弟子さんが座談をしたりとか。
【三浦】あ、そうだったかもしれないですね。
【和田】馬生さんの親睦を書いた本とかあるんですけども、その本のことだと思うんだけど。それを読むと、よく馬生さんが雲助さんとほかのお弟子さんにふっと、部屋に一緒にいるときに、「世の中すいすいお茶漬けさらさらですよ」って言いまして。
【三浦】世の中すいすいお茶漬けさらさら?
【和田】「世の中すいすいお茶漬けさらさらですよ」っていうふうに言うんですよ。それはそういう……その考え方って、本当に世の中すいすいだったら、そうは言わないんですよ。
【三浦】言わないですね。
【和田】言わないじゃないですか。だからすごい人工的ですよね。そういう夢ですよ。
【三浦】なるほど。
【和田】世の中すいすいお茶漬けさらさらですよこんなもんは、っていうふうに、そこのシリアスなところに留まるなっていう、そういうふうに思ってりゃいいんだよ、っていう考え方じゃないですか。そう考えたら楽だよっていうことじゃないですか。でもそれを言っちゃう馬生さんの暗さが……。
【三浦】ありますね。しょってるものが見えてしまいますね、それ。
【和田】そうでしょ。
【三浦】実はそうじゃないというところが。
【和田】で、それを、弟子がなんかつまんなそうに鬱屈してるような雰囲気を感じた時に、馬生がそういうふうに言うんです。それもそれ以上の説明とか特にないから、ぽんと言うだけなんだけど。
【三浦】そうすると、弟子ははっとこう受け止めて、そうなのかと思うか、その背後にあるものをまたのちに考えるのか、ってことですね。
【和田】そうですよね。
【三浦】結局、のちにきっとまた考えるんでしょうね。気付くんでしょうね。
【和田】本当にさらさら生きていたらね、そうは言わなかった。
【三浦】そうですよ、うん。
【和田】それはおもしろい。
【三浦】おもしろいですね。
【和田】その部分があるかな。馬生さんはやっぱりおもしろいですよ。
【三浦】いやちょっと、これから出る全集楽しみなんですけど。ある意味志ん朝さんとぜんぜんもちろん違う芸風で。人情っていうのか、人間社会の機微なのか、そういうものが見え隠れするような芸風っていうことなんですかね。まとめても良くないですけど、聞きこんでいくと味わいがすごく出てきそうな感じですよね。
【和田】あと、これも志ん生さん流ではあるんだけど、あんまり台詞を決め込まないほうがいいっていうお考えがあったりするんです。その人が例えばお金持ってなくてどっか行っちゃったら、そのハラで言い訳をすればいいわけだから、ここでこういう台詞ですよ、というふうに考えないでいいという教えだったらしいんですね。で、今回その全集が出るんだけど、それを聞くとそのとおりで、同じ演目でもAのテイクとBのテイクで違うことが起きてる。
【三浦】違うんですか?
【和田】そこでハラに従って。だからそれがパンってはまった時と、つまり決めてないからはまんない時もあるんですよ。
【三浦】なるほど。
【和田】そのムラがあるのね。そのおもしろさはやっぱりありますね。で、志ん朝さんはやっぱりそのあとに出た人だし、ある種なんか親父の志ん生さんの方法、志ん生さんの方法論がそういう方法論なんだけど、それだけだとまずいな、と思った部分もあると思うんですよ。だから志ん朝さんの落語は台詞なんです。
【三浦】決めてあると。
【和田】決めてあります。だから(桂)文楽とかにある種近い。
【三浦】なるほど。
【和田】ちゃんと決めて、ここでこういうこと言うってぱんぱんぱんって決まってく落語なんですよ。
【三浦】ああ、なるほど。文楽師匠もほとんど寸分たがわずやってたって聞きますもんね。
【和田】文楽さんはもう完全な台本ですね。例えば『鰻の幇間(うなぎのたいこ)』なんていうのは、ある時期までの録音と晩年の録音で無くなってる場面があるんだけど、そこも本当に演劇の台本みたいで、ここは削ります、やめますみたいな感じで。ここ飛ばしてここ、みたいなのがあるから、アドリブじゃなくてもうちゃんと台詞です。
【三浦】なるほど、完全に覚えていて。ああ、それで、やっぱり完全に覚えているのが出てこなくなったんで引退したってことなんですかね。
【和田】そうです。
【三浦】そうですね。
【和田】馬生さんはだからその、ある種そんな決め込まないでいくっていうのは現代風でもあるんですけど、そのところはやっぱり談志なので。だからテイクによって違うよっていうのをやった人なので、そこのブリッジにもなるし。
【三浦】ということは、談志さんは馬生師匠のことは好きだったんですよね?
【和田】ああ、そりゃそうでしょう。『談志百選』という本で非常に褒めて書いています。
【三浦】なるほど。
【和田】昭和の2年だっけな、昭和の頭の人なんですよ。だから今生きていれば90歳。
【三浦】それくらいか。
【和田】90ちょい。だからその世代っていないんです。
【三浦】そうなんですね。
【和田】つまり終戦の時に18とかって、いちばん落語家になってないゾーンですよ、そこの世代の人たちって。
【三浦】それはなんでなんですか?
【和田】やっぱり戦争があったから。戦争があったから、戦争のそこのゾーンでわざわざ入門してくる人って(いない)。落語やってる場合じゃない。
【三浦】確かにそうですね。
【和田】そこで入ってきたのって、馬生さんとか、今の金馬さんとかぐらいですよ。
【三浦】今の金馬さん93とかですもんね。
【和田】そう。今の金馬さんはまたちょっと特殊なケースで、小卒で昭和16年に落語家になった。
【三浦】すごいですね、それは。
【和田】当時としても小卒は珍しい。
【三浦】中学は出ますもんね。
【和田】中学は出ます。中学行かないで小卒で東宝名人会行っちゃって。「落語家になります」っていって。こりゃものすごい珍しい。
【三浦】すごいですね。
【和田】この二人くらいなんですよ。あとは、もうちょっと上の人は戦争に取られる。
【三浦】取られますね。
【和田】で、入門者もいない。だからそこのゾーンがいないんです。あとは談志さんとか柳昇さん、あのへんは戦後組なので、だから談志師匠がおっしゃってるのは、馬生さんがもっと長生きしてたら、自分らの上の世代との間にちょうどいい感じで上手い人でいてくれるし、あと、自分らっていうか談志さんの場合自分ですよね。自分が言うロジカルな質問とか、「ここっておかしいんじゃないんですか」みたいなのをちゃんと答えてくれるのが馬生さん。
【三浦】そうなんですね。
【和田】もっと上の人になっちゃうとアンサーがない。
【三浦】いいんだよそんなの、って。
【和田】「そういう決まりだった」「昔からそうだよ」みたいな。
【三浦】俺が始めた頃はもうそうだったんだよ、っていう。
【和田】そうだったんだよっていう話だから。馬生さんはやっぱり考えで、こうだからこうだと思うよって話はできた人だと言ってますよね。
【三浦】ロジカルな。
【和田】ぜひ。
【三浦】そうですね。聞いてみたいと思います。
【山下】そろそろお時間が来てしまった感じなんですけれど。引き続き、この続きのお話もさせていただいて。
【三浦】前回、今回は立川談志師匠中心に。今日はいろんなところにお話伺えて。落語は本当にたくさんの噺家さんがいるし、今若手でもとてもおもしろい人たちもいると思いますので、次回はまたそういうことにも話を……。今お話が出た馬生師匠のことももっとお話聞きたいですし、次回もまたぜひよろしくお願いいたします。
【和田】ありがとうございます。
【山下】ありがとうございました。最後にお知らせです。BRAIN DRAINではnoteを開設しております。本日のトーク内容や詳細や補足を載せていますので、ぜひチェックしてください。それでは、三浦さん、和田さん、ありがとうございました。また次回よろしくお願いします。


担当:木村 晴美
この度はご依頼いただきありがとうございました。
落語は、私が住んでいる宮城に「東方落語」という、東北弁で落語をする講演があり、近所のおじさん、おばさんが訛って楽しいことを話している、という感じで数度聞きにいったことがあります。
今回のお話に出てきた方々の落語は聞いたことがなく、書き起こしをさせていただいて出会えたご縁かも、と思い、「落語 廓噺」で検索し、聞かせていただきました。
志ん朝さんの「お見立て」、談志さんの「遊女買い」こちらのお二人はテンポよくておかしくて、聞きながら笑っていました。談志さんのちょこちょこはいる楽しい毒舌もおもしろかったです。志ん生さん、馬生さん、ゆったりと話されて、落ち着きがあり、噺家さんにより感じが違うこと、素人の感覚ですが、少しわかったような気がします。
お名前や用語など調べながら起こさせていただきましたが、知らなかった世界がちょっと見られたことが楽しかったです。「お笑い」が大好きで漫才やコントをたくさん見ています。人を笑わせるということって、すごいことだと思っています。昔から人々を楽しませてきた落語の素晴らしさと偉大さも改めて感じさせていただきました。ありがとうございました。

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