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「ビアヘックス」制作メモ

人の記憶は儚くしばらくすると驚くほど忘れてしまうので自分の記憶用として製作過程を残しておきます。

「ビアヘックス/BeerHex」はゲームマーケット2020秋にて発売した同人ゲームです。

ビアヘックスはアブストラクト味のある非常にシンプルなゲームで「書くこと何もないんじゃ?」と思われるかもしれませんが、どっこいあのカタチになるまでにはけっこう長い紆余曲折があったのです。。

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最初のプロトタイプは、「3色オセロ(リバーシ)」でした。普通オセロは白を返せば黒、黒を返せば白と決まっていますが、赤青緑の3色にすることで駒を裏返した時に何色が出るか相手はわからない(覚えてなければ自分もわからない)というのはどうだろう?と思ったのが出発点です。加えて各自の担当色も非公開で「相手の色は何だろう?」と推理する要素も入れました。さらに盤面をヘックスボード(六角形)にしたり、返されやすい中央ほど点が高く周辺にいくほど低くなるよう配点に傾斜をつけたり、とオセロのセオリーが徹底的に通じなくなるような変更を盛り込みました。

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結果、どうなったか?
序盤は互いになんとなく自分の色を隠すように駒を置いていきます。すると盤面は一時的にノンプレイヤーの色で覆い尽くされ「つまりこれではないのが相手の色かな…?」とうっすら見えてきます。やがて終盤になると互いに本性をむき出して相手の色を消し自分の色を増やすべくとやり合うのですが、心のどこかで「いや待てよ。すっかり相手の色はこれだと思い込んでるけどまさかの展開もあるよな…もしそうだったら相手すごいな」という不安もよぎります。盤面が埋め尽くされたらゲーム終了で、互いに自分の担当色を公開し「ああ、やっぱりね~」などと言いながら得点計算します。

これは心理学を専攻していた人狼好きのK君にはなかなか好評でしたが、ボドゲカフェSUNNY BIRDのマスター・タイラさんは「どうしたらいいかわからない」といった顔で、さっぱり刺さってない様子でした。私としてはゲームの展開のしかたなどなかなか面白い部分があると思いましたが、これは一般人が感じる面白さではないな、、とも思いました。

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次に作ったプロトタイプ2号では、目的(勝利条件)を変更しました。オセロ方式から対辺を接続したら勝ちとしました。同じ色の駒で挟んだら中間にある駒がすべて裏返るところは同じです。正体隠匿要素はやめました。

コネクションゲームにしたことで、何を目指せばいいか?勝ちが近づいているのか負けが近づいているのか?がわかりやすくなりました。どうしたら勝てるかはサッパリわからなかったですが、ふんわりと運に任せる感じやメモリー要素があることで子供とも遊べるかもしれないと感じたので、「対岸にいる動物の親子が足跡を辿って出会えるよう繋げる」というテーマをのせたら良いのでは!と思いました。

しかし幾つか気に入らない点もありました。
1) 最初の準備が面倒。開始前に3種類のコマを均等に配るのだが、表裏が違う駒を種類ごとに分別するのがけっこう大変だった。
2) 引き分けの場合がある。2色なら必ずどちらかが繋がるが、3色目があるとどちらも繋がらないケースが起こりうる。

これらの問題点がもモヤモヤと引っかかり、結果的に放置していました。

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プロトタイプ3号は「五目並べ」です。
これはビアヘックスにかなり近いルールで、
・オモテは1色、裏は2色の駒。伏せて置く
・裏側が自分の色の駒を5つ並べたら勝ち
・任意アクションで、伏せてある直線上の3つを指定し、裏返して全部同じ色ならゲームから取り除く。違っていたら自分の色だけ取り除いて相手の色は残す(=ビアヘックスのアタックとほぼ同じ)
・ボードのマスは四角形(六角形ではなく)

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ビアヘックスとの違いは、
・5つ並べたら勝ちという勝利条件
駒のオモテ面が共通
・都度ヒントトークンを置く
です。駒のオモテ面は同じなので忘れるとどちらのプレイヤーが置いたものか区別がつかなくなるので、記憶の補助としてヒントトークンを駒の上に置いていきます。これをどう扱うかは自由で、その置き方から意味を類推する、相手に思わせぶったりします。例えばある地点に5つトークンを積み上げたら、それはどういう意味だろうか?と思ったり思わせたりします。

これは「ニワトリかラマか」を作っている時に、秘密の目印をつけるところで「お札を折る」ではなく「トークンを置く」でも成立するよね?と思ったところから発案しました。なので、どちらかというとヒントトークンが主で、アタック等はヒントトークンを機能させるために必要だから入れた要素でした。

テストプレイしてみると、これは思った以上に複雑な五目並べでした。騙し合いが壮絶で、ちょっとやっただけでもアタックを警戒して相手のコマを置く、アタックを成功させるために相手のコマを置くなどいろいろな作戦が考えられました。手応えを感じた一方で、ある程度盤面のサイズを大きくする必要がありそうだ、しかし盤面を大きくするとそれだけ駒やトークンも多く要りコストが高くなってしまう、といった懸念点がありました。

このプロトタイプには「シークレット・プロジェクト」という名前をつけました。コマをスパイに見立てて、5人のスパイを直線状に並べるとプロジェクト成功、と。ヒントトークンはキューブだけでなく拳銃とかキスマークなどを描いたタイルにするのも面白いかと…。

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 それからしばらく月日が流れたある日(嵐の夜)、ふと思い出してこれら一連のプロトタイプを見直しました。そして(雷が鳴り響いた直後)プロタイプ3号の勝利条件である五目並べの部分をプロタイプ2号のようなコネクション系に変えてはどうか?と思いつき、これが「ビアヘックス」となりました。

 盤面のサイズは、クライマックスがすぐに訪れるよう5x5としました。コネクション系の祖「ヘックス」では盤面がある程度大きくないと複雑さが得られず、5x5という小さい盤面では初手真ん中で先手が必勝ですが、ビアヘックスでは「アタック」があるためそうなりません。また盤を小さくすることでコマの総数も少なくて済みます(自主製作ではけっこう大事)。

これをいろいろな人に試してもらいました。

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反応は上々、シンプルなルールながらも長々と繰り返し遊んでもらえました。特に「アタック」が好評で、3つ当たれば気持ちよく、ハズレた時は相手が気持ちよさを得ることができます。

この手のアブストラクト(テイストの)ゲームは、考えているうちに「面白さとは何か?」といった根本的な部分からわからなくなったりするのですが、今回は4つのプロトタイプの中からテストプレイの反応を見ることで着地点をみつけることができました。言い方を変えると4つ作った中で一番反応が良かったものなので、ある程度の面白さは保証できるのではないか(と自分に言い聞かせる)…と思います。

その後、
・互いに勝利宣言をしないまま盤面が埋まった場合
・一方の持ち駒が空になった場合
・一方の繋げられる可能性が皆無となった場合
といったレアケースの裁定を盛り込みました。
これでルールはほぼ完成しました。

コンポーネントとアートワーク

さて、次はモノとしてどんなカタチにするかです。
この手のテーマがないアブストラクト風のゲームは、見た目の美しさや手に持った時の感触といった五感に訴える部分が重要というのが持論です。ペラペラの紙にマルとバツが書いてあるだけでも遊ぶことはできますが、遊ぶ以前に興味をそそられなければ手にとってさえもらえません。
ということで、普通に厚紙ボードに厚紙チップもしくは木駒を使えば無難に作れるところをあえてそうではない方法を模索しました。

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また伏せておいた駒が自分のシンボルか相手のシンボルかが鍵となるゲームで、そこが傷(マークド)によって判別できてしまうと致命的なので中身の入れ替えができるようにしたいと思っていました。そこで六角ナットとネジ、カップと石、木駒にシールなどいろいろ検討した結果「王冠と磁石」となり、そこからさらに磁石にシールを貼る、マグネットシートに印刷などいろいろ検討した結果、厚紙チップに磁石を接着がよいとなりました。

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ボードは最初、木製のボードにスプレーで線を引くことを考えていました。5x5のマス目が描かれたステンシルシートを作成し、スプレーがけすれば簡単に木製のボードが作れるんじゃないかと…。が、結果から言うとこれは失敗に終わりました。線が滲んでしまって、思ったような仕上がりにならなかったのです(私の技術の問題かもしれませんが…)。また木板に関して私の知識が圧倒時に足りてないということも分かりました。

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はい、というわけでアートワークを担当して頂いたハッピーゲームズのRYOさんの登場です。実際にはもう少し前から相談に乗ってもらっていて、「ステンシルシートではうまくいかないんじゃ…」とも言われていました(汗

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RYOさんから上がってきたデザインは、私が当初イメージしていた木製のボードに…というのとはまったく違ったのですが、カッコよかったので「これで!」となりましたw

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王冠にはプリントを入れたいと思って、デザインしていただいたのですが王冠に直接プリントも検討しましたが、高くなってしまうんですよね…。悩んでいたところ「素材感を出した方がよい」と言われ、そうしました。ですがせっかくデザインしてもらったので、そちらはシール(別売)にしてお好みで貼れるようにしました。

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このシールが金属感のあるメタリック調で非常にカッコいいです。

当初はプロトタイプ「シークレット・プロジェクト」の流れを受けてスパイものというテーマを乗せる構想もありました。が、これはコンポーネントの王冠とマッチしていないということでやめました。

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アートワークについては、ハッピーゲームズのRYOさんと膨大な量のやりとりをしてここに至っていますのでまだまだ無限に書くことがあるのですが、全部書くと本当にキリがないのでこんなところで。。(詳しくはRYOさんがそのうち書いてくださるのではないかと…w)

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3/28(日)ゲームマーケット2021大阪(ブース番号:P17)にて、「ビアヘックス額装版」を販売します。手作業の部分が多く、あまり大量に作れませんのでこの機会にぜひ。


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