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サスペンド

登場人物

西宮 柊子  女子高生。文芸部。

湯川 誠   男子高校生。生徒会長



○ とある一室

  カーテンで窓の外は見えない。薄暗い室内。
  椅子に座る西宮柊子(17)。少し微笑んでいる?


柊子「サスペンスってどういう意味か知ってる?」


  湯川誠(17)、目を少し泳がせた後柊子を見て、小さくため息を吐く。


誠「・・・ある状況に対して不安や緊張などを抱いた不安定な心理、またそのような心理状態が続く様を描いた作品のこと。『観客の心を宙吊りにされたときのような不安状態にさせる』という意味で、suspendが語源だとも言われている」

  椅子の縁に置いた自分の手に体重をかけ、ニッコリと笑う。


柊子「流石♪生徒会長様は博識だね。無知な私とは大違いだ」

  顔をしかめる誠。


誠「それで?そんなことを聞く為だけに俺を物理的に宙吊りにしているわけじゃないだろうな」

  天井から伸びた縄が誠の腕と胴体をまとめて縛っている。


柊子「・・・心配には及ばないよ。すぐ済むからさ」
誠「・・・」

  椅子から立ち上がり、椅子の後ろに立つA。背もたれに手を置く。


柊子「・・・小説のネタを探しているんだ。青春群像劇は書き飽きたし、恋愛ものには反吐が出る。だけどそろそろ新作を書かないと流石にまずくてね」
誠「次はリアリティ満載のサスペンスってわけか」

  嬉しそうに笑う柊子。身を乗り出す。


柊子「ご明察!あぁ、やっぱり貴方を呼んで良かった!何せサスペンスなんてものは、『経験が無いと書けない』からね」

  誠、ムッとした顔をする。


誠「・・・馬鹿げてる」

  柊子、首を傾げる。


柊子「この台詞を最初に言ったの、貴方じゃない。まぁ?貴方にとっては同級生とのたわいも無い会話の中の戯言に過ぎないのかもしれないけれど」

× × ×

○ 廊下

  柊子、廊下を歩いている。校内新聞が貼られているのを見つけて立ち止まる。「快挙!文芸部西宮柊子さんが、○○文学賞を受賞!」

  柊子、思わず微笑んでしまう。記事を読むと、下の方に生徒会長からのコメントが掲載されている。「高校生男女の、今にも音を立てて崩れてしまいそうな友情が、西宮さんの独特の言葉選びによってとても美しく描かれていました。同級生が賞を受賞することはとても喜ばしいことだと思っています。」

  柊子、ニヤケを我慢出来ない。ふと、すぐ前の教室から声が聞こえることに気づく。その声、誠である。それに気づく柊子。教室へ近づく。


誠「・・・あぁ、あの新聞のコメントね・・・」

  柊子、驚き聞き耳を立てる。


誠「綺麗事ばっか書いてんじゃねーよって書いたら流石にまずいと思って辞めた」

  笑いながら言う誠。柊子、固まる。


誠「大体、男女間に友情はないっつーの。男なんてどうやったらヤレるかしか考えてねーんだから。(笑う)多分あれだろ?あの子男と関わったことあんま無いんだろ?やっぱ経験ねーとリアリティあるもんは書けないよな、かわいそ」

  悪びれる様子もなく笑い飛ばす誠と数人の笑う声。柊子、固まっている。

× × ×

○ とある一室

  背もたれに頬杖をつくA。


柊子「ビックリした〜。そんな風に思われてたなんて。しかも、言ったのが成績優秀で教師からの人望も熱い生徒会長様。・・・貴方に想像できる?賞を取って誇らしく思えていた自分の作品が、一瞬にして『リアリティーのない駄作』に  しか見えなくなっちゃった私の気持ちが」
誠「・・・それは・・・・」


  考えるも押し黙る誠。それを見て少しため息をつき椅子に座る柊子。


柊子「『それは』、何?まだネタが足りないからさ、言い訳も少しぐらいなら聞いてあげられるよ。あ、安心して、『汚れた私の作品を返して』、なんて今更言う気無いから。あの時みたいに尖った物言いだと面白いな〜」

  ニコニコと笑い誠を見る柊子。


誠「・・・すまなかった。あの時は少し」


  柊子、手を叩く。肩をすくめ、しかめっ面になる。


柊子「ダメだよ、やり直し。それじゃ私が鬱憤を晴らしたようにしか書けない。はい、take2」

  誠、考えを巡らす。大きく息を吐く。


誠「・・・もうやめよう。俺もストレスが溜まってたんだ。ごめん、許してくれ」

  大袈裟に眉を八の字に下げる柊子。


柊子「生徒会長様の語彙力はそれぐらいなの?残念・・・期待して損した。私、他のネタも集めに行かないといけないから、じゃあね生徒会長様」

  眉が下がったまま微笑む柊子。椅子から立ち上がり、誠に背を向けて部屋を出ようとする。誠、急に怖くなって表情が変わる。


誠「っおい待て!!解け!!!解いてくれ!!!!」

  柊子、振り返らずに靴を履き、カバンを手にしながら、


柊子「心配しなくても、学校が終わったらまた来てあげるって」

  ドアを開けると、振り返る柊子。


柊子「ネタは多くてなんぼだもんね」

  にっこりと笑顔。
  誠、歪んだ表情。
  ドアが閉まる。


  


                                   終

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