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梅雨時しっとり鉄道旅-鉄道風景写真館

2023年6月11日、気象庁は、東北地方と北陸地方が梅雨入りしたとみられると発表しました。これで、梅雨がないといわれる北海道を除き、日本全国が梅雨に入ったことになります。

梅雨の時期というのは、どんよりして、ジメジメして、4月から心機一転、頑張ってきた人にも疲れが見え始めて気分も落ち込みがちだったりします。土日を中心に鉄道写真を撮っている私も、この時期は、蒸し暑くて、コンディションも悪いし、厳しいシーズンなのですが、それでも、長年撮っていると、この時期ならではの美しい情景があふれていることに気づきます。私の中で、梅雨は「どんより」「ジメジメ」から、いつしか「しっとり」「つややか」に言葉の形容が変わってきました。そう表現を変えるだけで、不思議と前向きに梅雨をとらえることができるような気がします。

今回は、私がこれまで撮りためてきた鉄道写真の中で、梅雨時に撮影した、しっとりとした鉄道風景写真を10枚ご紹介します。乗るもよし、見るもよし、皆さんも、疲れた日常を離れて、しっとりとした鉄道旅へ、お出かけしてみませんか?

①石北本線

ルピナスの花咲く呼人駅

北海道には梅雨がないといわれますが、本州が梅雨明けする頃に、一時的に雨が続く時期があり、通称「蝦夷梅雨」と呼ばれたりします。この時期の北海道は短い夏を謳歌する花の宝庫。中でも、私が大好きなのはルピナス(ノボリフジ)です。暑さに弱い花だからか、本州ではあまり見ませんが、北海道には街中から田舎までいたるところで群生しています。この写真は、石北本線の終着・網走のひとつ手前の駅、呼人で撮影したもの。紫や白、ピンクのルピナスがホームの端にたくさん咲いていました。

②陸羽東線

鳴子温泉-中山平温泉間

沿線に名湯・鳴子温泉がある陸羽東線は、鳴子温泉駅をはじめ、5つの駅に温泉という名がついています。松尾芭蕉が「奥の細道」で辿ったルートでもあり、また温泉が多いことから「奥の細道ゆけむりライン」として親しまれています。一方で、鳴子温泉駅-最上駅間は2020年度の輸送密度がわずか41人、営業係数20,000超という数字はJR東日本内でワーストで、今後の動向が気になるところです。

③水郡線

袋田-常陸大子間

全長137㎞、水戸から郡山まで、全線を乗り通すとゆうに3時間はかかる長大ローカル線が水郡線です。沿線の主要駅のひとつ、常陸大宮を過ぎてからしばらくすると清流・久慈川が車窓の友となります。それは県境を越えて磐城棚倉近くまで続きますが、特に常陸大子周辺ではその久慈川を何度も渡り、絶景が広がります。初夏、アユ釣りが解禁されると、多くの釣り人が川に入ってアユ釣りを楽しむ姿を見ることができます。

④小湊鐵道

たわわに紫陽花が咲く月崎駅

東京から気軽に訪れることができるノスタルジックなローカル私鉄・小湊鐵道。春の菜の花や、紅葉期の養老渓谷などが有名ですが、実は沿線には紫陽花も多く、この梅雨の時期も十分に楽しむことができます。この写真は10年以上前に撮影した月崎駅の紫陽花。月崎駅はひなびた無人駅でしたが、今では地元の方たちによって駅が運営され、きれいに整備されました。最近は国鉄型キハ40系も入線し、今後も楽しませてくれることでしょう。

⑤箱根登山鉄道

紫陽花に見送られ宮ノ下を後にする列車

新宿から小田急ロマンスカーに乗ればすぐに行くことができる箱根登山鉄道もまた、紫陽花の美しさで知られる路線です。そのアクセスの良さもあり、いつの時期に行っても大混雑の箱根登山電車ですが、紫陽花の季節も相当に混雑します。私は平日にしか行ったことがありませんが、それでもかなりの混雑ぶりでした。宮ノ下駅には鉢植えの紫陽花が色とりどりに咲き、古い車両を優しげに見送っていました。

⑥城端線

東石黒-福光間

中部地方からは城端線をチョイス。富山県の高岡から、合掌造りで有名な五箇山、そして白川郷への玄関口である城端までを結ぶローカル線。北陸新幹線開業で第三セクターへ移管された富山県内のJR線の中で、飛び地のように残ったのが同じく高岡を起点とする氷見線と、この城端線です。辺りは田園地帯で、散居村で有名な砺波平野をのんびりと走っています。今でも国鉄型のキハ40系が元気に走っています。

⑦山陰本線

上夜久野-簗瀬間

近畿地方からは、いまや日本最長の営業距離を誇る山陰本線。そのほとんどがローカル区間であることから「偉大なるローカル線」と呼ばれます。電化されているのは京都から城崎温泉までと、米子近辺から出雲市の近くまで。今回ご紹介する写真はその貴重な電化区間。京都と兵庫の府県境付近で撮影したもの。高台からは赤い壁の古民家の向こう、田園地帯を駆けていく特急こうのとりが見えました。

⑧芸備線

平子-備後西城間

中国地方にはたくさんのローカル線が走っており、近年はそのあまりにもの過疎具合から、廃線が取り沙汰されている路線もあります。芸備線もそのひとつで、備後落合から東城までの区間は輸送密度わずか11人という超閑散区間です。今回ご紹介するこの備後西城駅付近も「ヒバゴン」という未確認生物の伝承が残るほど山深いエリア。昔ながらの街の上をゴトンゴトンと列車が通過していく様は何とも味わい深いものがあります。

⑨日豊本線

市棚-北川間

北九州市の小倉から大分、宮崎を抜けて鹿児島までを結ぶ日豊本線。九州の東側を南北に縦断する路線で、小倉から大分までは頻繁に特急が運転される区間ですが、そこから先、宮崎県との県境付近は宗太郎越えと呼ばれる険しい山岳区間。普通列車は朝夕に数本しかなく、かつては1時間おきに運転された特急電車もその数をずいぶん減らしています。写真は、その名も小川という川を渡る特急にちりん。この川の透明度、本当に見事でした。

⑩肥薩線

中福良-表木山間

もうひとつ、九州から。かつては鹿児島本線の一部を担った肥薩線。熊本県側の球磨川沿いの区間は、2020年の集中豪雨により壊滅的な打撃を受け、まだ復旧のめどはたっていません。鹿児島県側は明治の駅舎が残る嘉例川駅などが有名で、多くの観光客が訪れます。かつては特急「はやとの風」が走っていました。写真は中福良-表木山間の田園地帯。山深いエリアですが、わずかな平地を利用して田んぼが広がります。

むすびに

以上、梅雨時のしっとりとした鉄道風景写真をご紹介しました。たしかに蒸し暑いし、撮影では雨も大変です。でも、こうして振り返ってみると、不思議と清涼な空気だけを思い出します。
撮り鉄のみならず、ただ、ぼ~っと雨に霞む車窓を見ながらローカル線の旅をするのも悪くないこの時期。ぜひ、お出かけください。

(掲載写真はすべて筆者撮影。なお、一部写真は、現在は引退している車両が写っている場合があります)

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