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10セントの命を追って

或る夜。月は寄せては返す波めいて、不穏な光を放っていた。
それは自然の警告にも思えたが、罰当たりな彼らは黒澤明由来の農村の真ん中に73式中型トラックを停めた。
メガネの男が呟く。
「前は蛮人、次にUMAと来た。死人は増えるばかりです。穏便に済みますか?」
人類学者、河添教授は頷いた。
「赤井君、解決方法は一つじゃないだろ」
赤井は頭を掻いた。
「その為の我々ですけども」
教授は黙って外に出た。
昼間と違って村は日常と非日常の瀬戸際にある。
既に規制線が張られ、警官がテントの内外でせせこましく動いていた。
一人、仕事熱心そうな男が彼らに気付いた。
「ええと、霧加ト大学の……」
「もういい。捜査本部は何と言ってる?」
「検視結果次第と……」
「……村上さん」
警官はびくりとした。名前を当てられたからだ。赤井はタバコを向けた。
「被害者は『死んだ』のか」
「それを確認しに行ってるので……」
「残念だがもう無理だ。教授、やっぱり彼女を」
「儂より推理は出来ないねえ。昨日放ったよ」

◆◆◆


ガアン!ガコン!
コンテナの蓋が開いた。
「……痛」
彼女が目覚めたのは畑の真ん中である。ただし彼女の周囲で不自然な円により草が刈られていた為見通しが良かった。つまり直ぐに死体は見つかった。
警官が四人。銃殺済み。そして謎のウエスタン男。穴だらけである。

◆◆◆

「彼女とは?」
「小説の主人公を殺す方法を知ってるか?」
「『死んだ』と書くことですか?」
「違う。読者がページを破る事だ。彼女はそれをやる」

◆◆◆

ボロボロの少女はバールを構える。
「心臓を。狙え」
「ああ。一思いにやってやる」
四方八方から拳銃が現れ、彼女を狙う!

だが女を殺せなかった。弾が出ないのだ。
「なぜだ……?」
「私が『理解』したから」
懐に飛び込みバールの一撃。鮮血がゆっくりと噴き出した。

それから推理を始めた。

◆◆◆

予告状
貴様らは殺される。英雄は不要。自ら死ね。もう止まらない。

【続く】


コインいっこいれる