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あの日、あの街で、彼女は。~高田馬場駅~

恋焦がれた街に、再訪のとき。

第一志望の高校に落ち、第一志望の大学は不完全燃焼のまま諦めることになり、関西の女子大の指定校推薦を受けた。彼女は、大学進学が決まったあとも諦めがつかなかった。変なところのこだわりが強くて頑固な性格が嫌になる。

浪人は大反対をされ、密かに仮面浪人をする決意を固める。仮面浪人とはその名の通り、大学生活を送りながら受験勉強をすること。仮に不合格だとしても、大学生活は担保されている。

仮面浪人をしてまでどうしても行きたかったのが、早稲田大学の国際教養学部。いま思えば、なにに囚われてそこまで執着していたのか、彼女自身も不思議なくらいだ。高い高い目標を掲げて、もし達成できたら、「第一志望」に舵を切れたら、人生が好転すると信じていたのだろう。悔しい気持ちをバネに踏ん張り、ここまで結果が残せれば、周囲の人たちを見返せるだろうと自身を洗脳していたのかもしれない。

大学1年生の冬、受験のために高田馬場にやってきた。その日以来、4年ぶりの再訪だった。もしあのとき合格していたら、4年間過ごしていたはずの高田馬場〜早稲田エリアは、淡い思い出のまま脳裏に浮かんだ。

とてもざっくり説明するならば、高田馬場駅は山手線の新宿駅と池袋駅の間にある。早稲田大学以外にも複数の大学が点在し、学生街として有名な街だ。

平日のお昼過ぎごろ、学生街のイメージがこびりついているほど大学生は見かけない。むしろ彼女と同じように、足早に行き交うスーツを纏った人々のほうが多かった気がする。

ほんのマンションの一室に飛び込みを続けて、よくわからない味のお茶と一緒におじいさんの話を聞いたり。坂道を上った先の雑居ビルの一角で、煮え切らない言動ばかりの担当者にイライラを抑えるのに必死だったり。気のせいかもしれないが、癖の強いお客さんが多かった。

西武新宿線沿いに訪問するときも、よく利用していた。山手線のホームから階段を上り、そのまま西武線の改札を通り抜けることができる。改札の隣にあるスタバをどれほど重宝していたことか。テーブルがメインの狭い店内で、3席ほどしかないソファ席に座れたらラッキーだった。

SNSの仮面浪人垢を通じて仲良くなった早大志望の元彼、マッチングアプリで2人連続引き寄せた早大生。大好きな作家の朝井リョウさんも早稲田出身だった。

執着を晴らすために始まった東京生活、思い出の上書きに必死な彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


*プロローグ

*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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