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あの日、あの街で、彼女は。〜赤羽駅〜

昼飲みと出会いと別れと。

上京前からなぜか「赤羽=飲み屋街、せんべろ」のイメージがあった。新卒時代の梅雨入り頃に、同期との昼飲みが実現したことで、イメージが確信に変わった。何軒はしごして、ハイボールと日本酒と赤ワインをちゃんぽんしたことか。同期に鍛えられて、いまの酒好き彼女がいる。

赤羽駅は、埼玉から東京への入り口みたいなポジションの駅だと個人的には思っている。埼京線や京浜東北線など主要なJR線が通っている。上京したての4月、さいたまスーパーアリーナのライブ参戦のために、赤羽駅で乗り換えたことも思い出した。

仕事で訪れるよりも先に、プライベートで上陸したことのある数少ない街のひとつだ。

新卒時代の秋の空気感にすっぽり包まれた頃、仕事での赤羽訪問が決まった。平日の昼間(と言っても夕方だったけど)は初めてだった。意外とサラリーマンが多くて、駅前のロータリーには人だかりができていた。そこは喫煙所だった。喫煙所から溢れる人々を横目に、その街の治安を判断するのは彼女の悪い癖。

飲み屋街で賑わう通りとはまったく別の物静かな通りを進んでいく。喧騒の裏側を切り取ったような雰囲気で、赤羽だと言われなければどこか分からない。ビル群が並んでる都心のオフィス街とも異なる。

未熟な彼女の話を親身になって聞き入ってくださった担当者のことを、いまだに思い出す。優しくて協力的で、全幅の信頼で任せてくれて、これから先もずっと一緒にお仕事ができると信じて疑わなかったのに。

別れは突然で、担当者は本社に異動することになった。まだ半年も経っていなかった。後任の担当者もたしかにいい人で、とてもお世話になったけど、最初の担当者を超えることはない。新規アポと初受注をくれたという記憶補正が強いのかもしれない。

別れも突然なら、再会も突然だった。数年後、後任の担当者も本社に異動になる。初めて本社に訪問した日、最初の担当者が先に彼女に気づいて声をかけてくれた。決して感動的なものではなかったが、数年ぶりとは思えない雰囲気に安堵した。

新卒時代の凝縮した思い出を肴に、ほろ酔いの彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


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*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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