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3話 古い友人との時間

小さな備え付けのテーブルに並ぶ果実入り紅茶が2つ。

しかし、1つはドングリのかさで作った、ラルーの為の小さなコップだ。

ラルーは尻尾の立派な、小さなリスだ。
出会った頃より白い毛が増えたように見えるが、それでも山で見かけるどのリス達よりもフワフワとした柔らかい尾を持ってくる。

ドミノはラルーのその滑らかな毛並みを見つめ、墓で眠る王達の事を思った。

世界が始まった時、8人の王達は神に呼ばれ世界の中心に集まった。
楽しい食事会。
気心知れた仲間と心許せるわずかな時間。
そこには神の目の代わりとして世界に生まれた、ラルー達8匹の「柱」の姿もあった。
柱とは王に付いた守り神に近い存在だと、以前ラルーは笑って教えてくれた。

その食事会は、いつも通り楽しく終わるはずだった。
8人目の王が卵を手に賭けをしよう、と言うまでは。

僕達の知る世界の話はここまでだ。

ドミノはラルーから宙へと視線を漂わせ、心地よく押し寄せる眠気の波に乗ろうとしていた。

ラルーはそんな疲れたドミノをしばらく静かに見守った。
ヒゲをフルフル動かしながら、かつての友の事を思い出していた。

ラルーを守り神に持つ第1の王「dodo」(ドウドウ)は、人の話を聞きそれを理解するのがとても上手な王だった。
彼の綺麗な赤い目は、相手の心の中まで見ていたのではないだろうか…。
皆を見届け、最後に眠りについた心優しい王。

もう何代墓守は交代したか分からない。
王から受け継いだ赤い目は、世代が続くにつれその色を無くした。
ドミノの目も赤くはない。

しかし、その目元がかつての王によく似ているな、とラリーはドミノの顔を見上げていた。

ラルーは疲れ切ったドミノを気づかいなるべく優しい声で切り出した。

「なぁ、ドミノよ。最近の墓は安定してるか?」

ラルーはコップを小さな手で覆い持つと、紅茶をチュチュっと音を出しながら口にした。

ドミノはこの小さな友人は何でも知っていると分かると、小さくため息を吐いた。 

疲れた体を椅子の背に預けると、ポケットからあるものを取り出しラルーの前に置いた。
卵型の光だ。
しかし、今は普通の卵の様に見える。

「光が弱いのぅ…」
「残りもこの3つそれだけです……いつ王達が目覚めるか分からないこの状況で心細いのは確かですね」

ドミノは卵に近づき腕を組むラルーをじっと見つめた。

「そろそろ風の子を起こさなくてはならんな」

ラルーはそう言って、自分の体ほどある卵にその小さな手を置き優しくなでた。

卵はキャラキャラと笑い声を発し、小さく光って揺れた。

「いい子達だ。ドミノよ、近いうちに皆集まる。お前さんも来てくれ」
「8人会議ですか?」
「そうだ。今、他の奴らにもそれぞれが声をかけとる」

そう言ってラルーはその大きな尻尾をブンと揺らし形を整えた。
彼のクセは昔も今も変わらない……帰る、という合図なのだ。

「わかりました。ではまた日時が決まったら知らせて下さい」

あぁ、とラルーはドミノの手のひらに乗る。

「ロットの奴が怒ってたぞ。お前さんが最近相手にしてくれないって」

ドミノは小さく笑う。

「それは申し訳ありませんでした。ここ最近忙しくて相手出来なかったので」

戸口を開けると風が空へと吹き抜けた。
生ぬるく決して心地いい風とは言えないがリズムは安定している。

「急がねばならんな」
「はい」

ドミノは今朝の強風で木から離れたであろう、大きな落ち葉を拾うとそれに息を吹きかけた。
落ち葉はドミノの息で宙に舞い、ラルーの元へとやってきた。
ラルーはその落ち葉に乗り換えると、

「邪魔したな」

ラルーは風に乗って空へと進んでいった。

「突風にお気をつけてください! 最近機嫌がよめませんので!」

言う側から風が乱れ落ち葉が大きく揺れる。

「大丈夫じゃ! この風と少し遊んで行くとするかのぅ!」

フォフォフォというラルーの声が風に巻かれながら空の彼方へ消えていった。

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