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映画『夜明けのすべて』感想文

 『夜明けのすべて』見て参りました。

 情報解禁から原作を読んで、楽しみで仕方なかったです。
 やさしく進んでいくお話も、藤沢さんと山添くんも、萌音ちゃんと北斗くんにぴったりなのが映画見る前から"見えた"感じがしました。

 題名の通りレイトショーが似合う映画で、オードリー若林さんの言葉(*)を借りるなら「お守りになるような」お話でした。その感想をば。

(*)オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドームでの最後の挨拶の言葉

■小説と映画

 原作小説と映画のストーリーは割と別物です。
 「原作に忠実な映画」を期待して見ると、きっと物足りなく感じると思います。
 小説にはあったセリフやシーンが、映画には無かったりもするからです。

 でも、スクリーンに登場する人物たちは、たしかに「山添くんと藤沢さん」で、2人を見守る周りの人たちなんですよね。
ストーリーはそのままじゃないけど、それはたしかで。

 私はその道のプロではなく、これはあくまで一個人の感想なのですが、たぶん、映像にする上での様々な弊害があったり、実際にセリフにしてしまうと映像としては野暮なものもあって、その辺りの匙を上手く加減してある感じがします。

 例えば原作では、桜餅を食べるのが二年ぶりと話すシーンで、

「お餅、喉に詰めたら発作が起きそうだから?」
「それはないですけど、パニック障害になって食べることが億劫になったせいで、好きだったものまで忘れてました。蓬餅とか桜餅とか柏餅とか、香りがする和菓子好きだったんですよね」

というやり取りがあるのですが、映画では、
帰り道に肉まん(たぶん)を頬張る二人の

 「これ美味しい」
 「山添君って美味しいとか言うんだね」
 「まぁ…」

みたいなやり取りだったりする。

 でも、表情や仕草から山添くんが「あれ、そういえば」と考えてそうな様子だったり、後日藤沢さんにコンサル調で「実は香りがする和菓子が…」と語っていそうな行間が十分に感じられるんです。
 敢えてそのシーンを映像化しない余白が素敵でした。

 「原作そのまま」を求めると何か違う感じがするかもしれませんが、類似するシーンを比べてみると絶妙なバランス、脚本・演出・演技の丁寧さに感動します。
 文章で伝える小説と、映像・音で伝える映画が、お互いを補い合うような関係性にある作品だなと思います。(それこそ藤沢さんと山添くんのように。)

■個人的好きなシーンまとめ

(適宜足していくかもしれない)

・冒頭 雨が降る夜のタクシーの窓ガラス
 街頭に照らされる窓の水滴が波のように光る画から始まるのがとても好きでした。
 雨だから見えないはずなのに、水滴が星のようなのも、藤沢さんたちを見守っているようでじわりと温かくなるシーンでした。
 そのあと、光がいっぱいの栗田化学のシーンになるのも良い。

・「もうこういうことしなくていいからね、決まりになるとよくないから。でも私、ここの大福大好きよ。ありがとう。」
 こんなに360°思いやりが行き届くことある??
 ここまで言葉にしてくれる人は中々いないけど、「会社の座席で真ん中のあたりに座ってくれる人」っているなぁと思ったシーンです。

・髪を切るシーン
 みんな大好き散髪シーン。
 藤沢さんがバリカンの動作確認する仕草からして、明らかに慣れていないのが笑えます。藤沢さん、突拍子もないのに、自転車に空気入れ付けてあげるような思いやりがある所がちぐはぐで面白い。

 いざ失敗して山添くんの髪を隠そうとする藤沢さんも、山添くんのへにょへにょした笑い方もとてもよいです。心許しちゃってるジャーン。

・髪を切った後のスン…としている山添くん
 劇的ビフォーアフター。
 顔が良すぎて超苦しかった。黒髪短髪デコ出しは松村北斗最強三種の神器だと思ってますから。
 「何かあった?」「いや別に…」じゃないんですよ。絶対何かあっただろうがよ。

 小説だと、山添君はこけしみたいな髪型になった設定になっています。
映画ではそんなこと無いんだろうけど、もしかしたらすっごく頑張ってセットしてスン……としてるのかもしれないと思うと超愛しい。

・「栗田化学の好きなところを教えてください」
 ベテランお三方集まっておいて「うーーーーん」とうなって、その末に出てくるのが「駅からもうちょっと近いといいね」って、そんなことある??

 でも、本音を言ったら、会社の好きなところってそんなスラスラ出てくるものじゃないよなって肩の力が抜けたシーンでした。
 たまぁに採用のお手伝いとかで、同じような質問を受けたら、ある程度用意しておいた答えをそれっぽくすいすい話す(まあ、仕事だから普通ではある)んですが、仕事モードの入っている自分が実際の気持ちからは浮いて話してる感じがします。

 「人はいい会社ですよね」というセリフだと、あまりこういう感想は出てこなかったと思うけど、「駅から近いと良い」という答えがあまりにも脱力感があって、それをベテランの社員さんが言っている頓珍漢さも含めて好きなシーンです。

・お母さんの手編みの手袋
個人的に、私がいちばん刺さったのは藤沢さんとお母さんの関係でした。

 色々と迷惑をかけて(親はそういうものとは言え)申し訳なくなったり自分や相手にしんどくなったり、いつまでも元気なわけじゃない親を受け入れるのに時間が必要だったり。
 PMSやパニック障害と一緒じゃないけど一緒、というか。

 あくまで温かみのある映像ではあったけれど、お母さんがリハビリの一環として編んだかもしれない手袋と、「荷物届いたよありがとー」と留守電を入れる藤沢さんの心境を思うとキュ、とくるものがありました。

・藤沢さんポテチラスト流し込み
  えっあっ結構残り多くない???

・光があふれる自転車の漕ぎ始めと、手押しの坂道
 これだけは言わせてほしい。
 脚長すぎね~~~~~~~!?
 ってか藤沢さんクロスバイク乗ってたんか!??

 光がいっぱいの道へ自転車を漕ぎ出す栗田化学のジャンパーを羽織った山添くん、まだ上り坂は手押しだけど、「きっともう大丈夫」な気がするし、不思議とこちらの背中も押される。優しさが滲むシーンです。

・エンドロール
 本編と地続きでこれからも続いていきそうなエンドロール。

 あまりにも素敵すぎる「仕掛け」が隠れているので、時間のある方は副音声コメンタリーを聞いてみてほしいです。
 お三方ともケラケラ突込みながらコメントしてて笑えます。

■何かが解決するわけじゃない、けど

 ドラマチックな起承転結のある映画ではありません。

 藤沢さんはまだPMSと付き合っていかないといけないし、お母さんを支えながら生きていかないといけないし、山添くんもまだパニック障害をかかえていて、栗田化学も今のままのメンバーではないでしょう。ほんのりと不安を抱えたまま映画は終わります。
 それはきっと映画を観ている自分も、今後ずっとそうで。

 でも、立ち止まったり、しゃがみこみたくなる時があったとしても、たとえ自分のことを好きになれなかったとしても、他人の苦しみを和らげることはできる、そんな夜を皆がそれぞれに過ごしている。
 無理のない人肌の温度感の優しさが背中を押してくれる作品です。

 「明けない夜はない」だと荷が重いけど、「夜明け前がいちばん暗い」だと許せるというか、顔を上げられる気がするのが不思議でした。
 いちばん優しく寄り添ってくれる言葉であり、それを体現した映画だと思います。

 家で見るなら、部屋暗くしてプロジェクターで観たいな~って思います。
 プロジェクター欲しい。


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