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3%の“かわいい”を纏う

“かわいい”からずいぶん遠いところにいる。

中学生のころから、身長は170cm近い。クリクリとした大きな目に憧れているが、現実は一重まぶたでアーモンドのような形をしている。

スカートをはくことはほとんどなく、足さばきのいいパンツスタイルばかり。

男の人が『守ってあげたい』と思うような雰囲気を、うまく醸し出せない。だからフラれるときは決まって、「カミーノはオレなんかいなくても1人で生きていけるよね」だった。

1度だって、「おっとりしているね」なんて言われたことはない。なんでも自分でサッとやってしまう性格で、男の人に甘えるのが得意じゃない。

パステルカラーの服やふんわりしたスカートは持っていないし、フリルやレース、ふわふわしたものが苦手だ。

好きな色はブルーやグリーンで、お気に入りの髪型は手間いらずのショートカット。

「かわいい」よりも「かっこいい」と言われたいひねくれ者だし、実際に「かわいい」と言われたことはあんまりない。

“かわいい”からずいぶん遠いところにいるんだよね、ワタシって。

そんなワタシでも、“かわいい”と思って集めているモノがある。

それは、ハンドメイドのアクセサリー。

アジアン雑貨屋さんや、手作りマーケットなどで売られているピアス、指輪、ペンダントだ。数百円から2000円くらいで買える、個性的で“かわいい”アクセサリー。

耳たぶでゆらゆら揺れるピンク、白、オレンジのライスビーズを組み合わせたピアス。

ペパーミントグリーンと薄いピンクの花をあしらった、チロリアンテープのピアス。

レジンのなかに黄色い押し花とキラキラのパウダーが入ったペンダント。

小粒のハートが数珠つなぎになっている、華奢なシルバーのブレスレット。

菜の花とかすみ草のブーケの形をした小さな指輪。

花畑のような優しい色でも、キュートなデザインでも、アクセサリーならはずかしくない。お値段も手ごろで“かわいい”ので、気負わずに着けることができる。

全身コーディネートの3%くらいのアクセサリー。それなら照れずに、“かわいい”を纏うことができる。その3%には、“かわいい”のエッセンスがギュッととじこめられている。

全体的にはかっこいい雰囲気でまとめたい。でも、ほんの3%の“かわいい”アクセサリーが、意外なシチュエーションにつながることがある。

その日曜日は、趣味の仲間とワイワイ過ごし、そのうちの5人で同じ方面の電車に乗った。日曜の夕方のわりに電車はかなり混んでいて、立っている乗客同士の距離もかなり近い。

途中の駅で、仲間の1人、また1人がバイバイと手を振りながら降りていく。仲間うちで、2つ年下の男とワタシだけが電車に残った。そのときだ。

「カミーノ、いつも“かわいい”アクセサリーを着けてるよね。」

薄いピンクの紫陽花と雨のしずくをモチーフにした小ぶりのピアスが、ワタシの耳元で揺れている。

彼は、3%の“かわいい”エッセンスに気づいた。というか、ずっと前から気づいてくれていた。

仲間たちが電車から降りて2人になったタイミングでの一言。

“かわいい”からずいぶん遠いところにいるワタシに、“かわいい”という単語が、2つ年下の彼からワタシだけに向けられる。

あまりにも突然の単語の響きに、ほほがほんのりと染まっていくのが自分でもわかった。

「カミーノ、飲みにでも行こうか。」

急な誘いにドキッとしながらも、「う、うん。」とうなずき、同じ駅で降りた。

全体像が“かわいい”からずいぶん遠いところにいる女が、優しい色合いの3%の“かわいい”を纏っている。男は、その意外性に惹かれたらしい。

女は、その男のまえだけで“かわいい”面をさらけだし、男から「かわいい」という極上の誉め言葉をもらう。

日常で“かわいい”を纏うのは3%、それは女が決めたマイルールだ。

でも、とっておきの場合だけは”かわいい”の比率をグンとアップさせる。それもその女のマイルールなのだ。

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こちらのコンテストへの応募作品です。

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