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【京都】 苔寺(西芳寺)で心整う

「このお寺が一番美しいのは、新緑の季節なんですよ」

よく聞いているFMラジオからその言葉が流れてきたのが、ちょうど1年前。それを聞き「来年の新緑の季節、絶対そのお寺に行こう」と決めた。

それは、京都にある臨済宗の禅刹「西芳寺」、別名「苔寺」だ。

このお寺は、行ってみたいと思い立っても、ふらりと立ち寄ることはできない。参拝するためには事前の申込が必要。参拝希望日の2ヶ月前から、往復はがきで申し込むことができる(オンライン申込もあるが、往復はがきよりも受付期間が短く、受入れ枠も少ない)。

なんでもかんでも「効率よくスピーディにするのが良い」とされる、このご時世に、時間も手間もかかる往復はがきでの申込。昭和世代のわたしにはその申込方法が懐かしく、往復はがきを買い、希望日の2ヶ月前に投函した。

先日、実際に苔寺を訪れて分かったこと。

それは、2ヶ月前に往復はがきを用意し、投函し、お寺からの日時決定の連絡を待っているそのときから、苔寺に流れるゆるやかな時間を感じていたんだな、ということ。

国の特別名勝および史跡に指定されている
苔寺の由来


苔寺では「観光ブームに乗じて闇雲に参拝者を増やすのではなく、寺院本来の宗教的雰囲気を保ち、皆様に心静かにお参りいただきたいという願い」のもと、コロナ前から参拝人数を制限していて、6人以上のグループは申込できない。

わたしは20年来のママ友と2人で訪れたが、まわりを見ても2、3人のグループが多かったように思う。

「昨夜の雨で苔は水分をたっぷり吸っています。本日は最高の状態でご覧いただけますよ」

受付でそう声をかけていただき、わたしたちの胸は高鳴った。

このお寺が一番美しいといわれる新緑の季節の参拝がかなったうえに、苔を毎日見ている職員の方から「最高の状態」というお墨付きをいただいた。ラッキー過ぎる!昨夜の雨はすっかりあがり、頭上には青空が広がっている。

BEST OF BEST の苔寺を参拝できる。なんてありがたいんだろうと思った。

門をくぐると、湿気を含んだ甘やかな風に迎えられた。風の薫りをゆっくりと吸い込み、本堂に向かう。

本堂では写経体験。「Moss Temple」として海外でも名高いお寺のため、外国の参拝客も多い。彼らも、わたしたちと同じように本堂の文机に向かい、静かに写経をしていた(本堂での撮影は禁止なので写真はありません)。

お参りを済ませ、いよいよ待ちに待った「西芳寺庭園」へ。


庭園の入口


35,000㎡にもおよぶ庭園のあちこちに群生する苔は、120種類以上。その美しいことといったら。

これまでわたしは「苔」というものを、こんなにもしげしげと見つめたことがあっただろうか。


線香花火のような形のキュートな「苔」


モコモコ群生する「苔」ファミリー


木の根元にキューッと寄り添う「苔」


庭園を360度ぐるりと見わたす。

緑、緑、緑。

陽の光を浴び、天から優しく降り注ぐように目に映る新緑。地面を覆うように広がる苔からは、ひそやかな静けさが立ちのぼる。緑色のグラデーションに包まれるその空間は、癒し以外のなにものでもない。


木の幹と苔の美しいコントラスト


外界から切り離されたような空間と、ゆったりとした時間の流れ。そこは別世界だった。

風のそよぐ音も、外のそれとはまったく違う。葉は頭上を悠々と泳ぎ、鳥が優しくさざめく。湿気を帯びて少しひんやりとした空気が、体のすみずみをゆるやかに巡っていく。心がだんだんと静まり、脳がすっきりしていくのがわかる。


「あぁ…」

目の前の景色に、思わず溜息がでた。

これは、現地に実際に足を運び、自分の五感を使って感じないとダメな種類のもの。いくら言葉を尽くしても伝わらない。写真で切り取っても伝えきれない。そういう類の空間だ。そう思った。

人が少ないため庭園はとても静かで、ゆっくりと見ることができる。わたしたちは苔の群生を見ながら、庭園を2周した。1回目は、たくさん写真を撮りながら。2回目は、カメラは使わないで自分の心に景色をしっかり焼き付けようねと言いながら。

池の近くのベンチに2人で座る。言葉少なに、ただ景色を眺める。大きく深呼吸をした。心が浄化されるような感じだ。


庭園内の池


1300年前の奈良時代に開山した苔寺。これまでどれほどの数の人が、この位置からこの庭園を眺めたんだろう。先人たちはどんな思いを抱き、この庭を見ていたのだろうか。

肌で苔寺の歴史を感じながら、のんびりと庭園をめぐる。空に向かって伸び伸びと葉を繁らせる木々。地面を覆い尽くしている苔。

苔寺が開山した1300年前も、1000年前も、500年前も、100年前も、そして現在も。生きている時代や状況はそれぞれ違えど、人が抱える悩みの本質はそれほど変わらないのかもしれないな。そんなことを思った。


苔と幹のアート


2時間たっぷりと苔寺を堪能し、心身ともに浄化されたわたしたちは、本堂前の青紅葉を見上げる。

「旅に出ると、旅先で必ず絵葉書を買うの。それでね、そこで見て感じたことを忘れないように、その場ですぐに絵葉書に書くの。それをね、旅先から自分宛に届くように投函するんだ」

友人がそう教えてくれた。

「旅で感じたことを、記憶が鮮やかなうちにダイレクトな言葉で残しておきたいから」

彼女のその習慣をとても素敵だな、真似したいなと思った。

彼女にとっての絵葉書が、わたしにとっての今回のnoteなんだと思う。苔寺で感じたこと、友人と一緒に過ごした豊かな1日。今までにもいくつもあった、忘れたくない日。その忘れたくない日に仲間入りした、友人との苔寺の参拝記録。

京都の苔寺で、心整う。













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