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変身願望

毎年秋には、季節に合った作品を頼まれる。

作品というのは、小説やエッセイ。

十五夜、ハロウィン、読書の秋といった、普通の主婦や会社員に喜ばれそうなネタをストックして書いていく。

秋に限ったことではなく、春なら別れと出会い、夏には夏休みの思い出、冬ならクリスマスネタだとか、春夏秋冬ほとんど同じことをしている。

そうすると、時々スランプというのがあって、読者はこれで満足してくれるのか? 他の作家も同じようなことを書いているんじゃないかと、自信がなくなってくる。

今書いているのは、ハロウィンにちなんだ変身ものの小説だ。

ハロウィンパーティで童話の主人公やおばけの仮装をするように、何かいつもと別の存在になれたなら…

そこまで考えて、数日筆が止まってしまっている。

普通の主婦や会社員は、何になりたい? 透明人間や狼男はありきたりだし、シンデレラや白雪姫になるとしたら、その先が思いつかない。

普通の仕事をしている人は変身するなら何になりたいのか、世界的スター、ジェフ・ベゾスみたいな億万長者、アメリカ大統領、それとも鳥や猫?

思いつくたびに、スターはパパラッチに追いかけられて大変だとか、鳥や猫だって病気が怖いとかネガティブなことばかり考えてしまう。

もし自分が変身するとしたら……そう、パパラッチに追いかけられるほどではないけれど、特技を仕事にしている有名人、ステラおばさんになるのはどうだろう。

よく調べたら、ステラおばさんの本業は幼稚園の先生だそうだけれど、お菓子づくりが得意でユーモアがあってみんなに愛される……そんな自分とは違う存在になれたら幸せだろうなと、少し切なくなった。

ハロウィンの仮装と、小説の中でなら、みな自分以外の誰かになれる。


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