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冥土喫茶に逝こう⑪

常連会②

 お盆も終わり、常連会の日になった。
 OPENは18時だった。
 1時間ほど遅れて行くことをtwitterで呟いた。
 19時に店に到着。

 1つ目の扉を開けると、大きな声が私の耳に届いた。
 盛り上がっているなと思いながら、2つ目の扉を開く。
 店を見渡すと9人ほどいただろうか。
 L字のカウンターの真ん中に、店で見たこともない男女が座っていた。
 50代くらいの女性と男性。
 まいさんの親御さんだろうと思い、母親と目があったので軽く会釈した。

 その後、父親と目があった瞬間。
 私は顔をそらしてしまった。
 直感でこの人の顔を見てはいけないと感じたからだ。
 ヤバさのレベルがまいさん異常だった。
 O市で会社を経営しているとまいさんから聞いた。
 社長なのだから、風格ぐらいあると思っていたが、人としてのヤバさを感じた。

 昔、高圧的な仕事ができる上司と仕事をしていたことがあるが、あの雰囲気とも違う。
 とりあえず、顔は見ないでおこうと考えた矢先。

 まいさんの親御さんは帰る準備をし始めた。
 店は満席だ。
 これから入って来るお客のために、席を譲るようだ。
 私は扉の近くにいたので、扉を開けた。
 すぐにまいさんが駆けつけて
「ぼうしさん、ありがとう」
 代わりにドアを持ってくれた。

 まいさんと、親御さんは店の外に出て5分ほど帰ってこなかった。

「ぼうしさん、ここ空いているから座ったら」
 ぐっさんが私を手招きしてくれたおかげで私はやっと席に着くことができた。
 しばらくすると母親がなぜか再び現れてまじまじと私を見た。
 あの目には覚えがあった。
 この男で娘は大丈夫だろうかという、母親としての男を見る目。
 1分ほどまじまじと見られた。
 まいさんに強引に店の外に出され、2度と帰って来ることはなかった。

 なぜこんなことをやるのだろうか。
 私はこの時点で彼女がやっている行為について考えてしまっている時点で、罠にはまっていることに私は気付かずにいた。
 彼女の言動、行動を考えることが彼女の魔法でもあるからだ。

 それから、2時間ほどたっただろうか。
 私は店の外に出て、タバコを吸おうとした。

 先客がいてぐっさんやマサさん、他のお客がタバコを吸って話していた。
 その中で気になる話が耳に入ってきた。
 ぐっさんがタバコをやめたことと、自宅に何もないという話。

「自宅に何もないんですか?」
「まあ欲しいものないからね。生活に必要なものだけあるよ」
 40代中盤になるとそうなるのだろうか。
 歳をとれば物欲が減っていくことはわかるが、そこまで何も買わない生活になるのだろうか。

 今ぐっさんはタバコを吸っている。貰いタバコだ。
「タバコをやめたのはいつですか?」
「2年前かな」
「タバコやめた理由はなんですか?」
「健康に悪いからね」

 普通はそう答える。
 だが実際は違った。
 やめさせられたのだ。
 タバコ代も掠め取るために。

 突然、まいさんが現れて私にこう言った。
「ぼうしさん、LINE交換しよ?」
「何で?」
「仲良くなりたいっていうことと、この前話した店連れてってくれない?」

 美味しい店があると、前話したことがある。
 その時は深く考える余裕もなく、まいさんとLINE交換した。
 だが、冷静になって考えると、周りに他のお客がいるのに店に連れてってとかいうだろうか。
 内緒にやるものではないだろうか。
 その後、また飲み直し、私はLASTまで店にいてしまった。

 帰りの電車の中、泥酔状態の私は楽しかったなとお気楽な考えをしていた。

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