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Spin efficiency ってなに?[基本編]

現在の野球、特にピッチングの世界においては様々な測定技術の発達によっていろいろな情報が可視化されるようになってきました。特に「ノビがある」や「キレがある」など曖昧だった投球に対する評価が、数値などのデータとして見ることができるようになってきています。

2007年頃からpitchf/xと呼ばれるビデオカメラの画像処理によってボールの軌道を算出するシステムが運用され始めました。
現在ではMLBのすべての球場でStatcastシステムが設置されており、投球に関するデータのみならず打撃や守備のデータまで計測されています。

これらのStatcastシステムやトラックマンレーダー、pitchf/x、最近は持ち運びもできるRapsodoなどのデバイスも登場していますが、球速、回転数(スピンレート)、回転軸、変化量などあらゆるパラメーターを測定できます。
それにより目や球速で投球を見る時代から、現在では「回転数」や「回転軸」などからより詳細に知ることができる時代になってきています。
こうして”投球を知る”ために多くの新しい概念が取り入れられていく中で、最近「spin efficiency(回転効率)」という概念が注目され始めています。Baseball savantでは「Active spin」という名前で、算出方法の違いはあるかもしれませんが同じ概念です。

今回のnoteではこの「spin efficiency」に注目してみたいと思います。

1, 2種類のスピン

本題に入る前にこの後の説明がよりわかりやすくなると思うので、投球されたボールの回転を構成する2種類のスピンについてお話しします。

ボール・球体の回転は”変化方向に関わるもの”と”関わらないもの”の2種類に分けることができます。

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1つ目は“True spin”です。
このtrue spinは、実際の変化量・変化方向に関わるスピンのことで、バックスピン、トップスピン、サイドスピンなどがあてはまります(transverse spinともいわれる)。少し難しく言うと座標系の原点にボールを置いた時の、x-z平面上の回転軸の傾きを抽出したものです。
回転軸の傾き具合によって変化方向が決定され、回転量によって変化量が決定されます。

もうひとつは"Gyro spin" で、回転軸が進行方向を向いており実際の変化方向には寄与しないスピンのことです。よく言うジャイロ回転のことです。
ジャイロ回転はフットボールや銃弾のような回転で、回転軸が進行方向を向いており空気抵抗が少ないことが特徴です。
True spinの回転軸が進行方向に傾いていればいるほど、ジャイロ回転に近づき空気抵抗は少なくなると考えることができます。
つまりGyro spinは空気抵抗に大きく関わる、言い換えれば減速具合に関わることになります。

ちなみにTrue spinの回転軸の傾きは、「Spin axis」や「回転軸の角度」として数値になっています。Baseball savantの「spin axis」はtrue spinの回転軸を捕手側からみた角度で、楽天の主催試合の中継映像に出てくる回転軸も投手側から見たものですが同じものになります。
これらの回転軸の角度を数字で見るときの注意点として進行方向への傾き、つまりジャイロ回転軸は全く考慮されていないということです。後ろから二次元的に見た回転軸なので、これが実際の回転軸ではないことに気を付けてみてください。

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まとめると、投球の回転は変化量・方向に寄与するTrue spin空気抵抗に関わるGyro spinに分けることができるということです。
すべての投球されたボールの回転は、これらの2つのスピンの和によって構成されています。

2, 2方向からスピンを観察する

正直2つのスピンの和といわれてもわからない、イメージしにくいと思われるでしょう。それは三次元になるとスピンがイメージしにくいからだと思うので、2つのスピンに分解して考えてみましょう。

章題の通り、「後ろから(投手側から)」と「上から」の2方向から投球を見てみると1章で見た2種類のスピンに分解しやすくなります。

この動画のStephen Strasburg選手のカーブを例に見てみます。
この三次元的な回転を、「後ろから(投手側から)」と「上から」見てみます。

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➀後ろから見ると、回転軸が少し上に傾いたトップスピンをしていることが分かります(x-z平面上)。これは左方向に曲がるサイドスピン成分と下に落ちるトップスピン成分が足し合わさっており、左斜め下方向に落ちていく回転になります。
これがtrue spinであり、回転方向を決める要素になります。

②上から見てみると、トップスピンの回転軸が進行方向に向かって傾いていることが分かります(x-y平面上)。これがジャイロスピンGyro spinになります。回転軸がいくら進行方向に傾いていても、変化方向に寄与することはありません。

この二つを合わせると、Strasburg選手のカーブの回転は左斜め下に落ちていくトップスピンでかなりジャイロ気味になっていることが分かります。軌道としてはかなりスライダーのようになっています。

このように投球の回転を後ろから見ることでTrue spinを抽出することができ、回転を上から見ることで回転軸がどれだけ進行方向を向いているか、つまりどれだけジャイロ回転になっているかを見ることができます。

3, Spin efficiencyとは

Statcastシステムのトラックマンレーダーシステムでは、投球の全軌道を測定しており、そこからtrue spinがどれくらいかを推定できます。さらに投球の合計スピンレートを測定することができ、ここから総スピンレートのうちのtrue spinの割合を出すことができます。これがSpin efficiencyです。
もう一回言いますと、総スピンレートの内のtrue spinの割合がSpin efficiencyです。

つまり完全なバックスピンやトップスピン、サイドスピンだとSpin efficiencyは100%になり、完全なジャイロスピンは0%になります。

具体的に総スピンレートが2,475 rpmのカーブを考えてみると、このボールのSpin efficiencyが60 %だった場合、True spinのスピンレートは1,490 rpmになります。 別の言い方をすると、このカーブボールの総スピンの60 %だけが完全なジャイロ軌道からの変化に寄与していることになります。

つまりこの値は総スピン量のどれくらいが変化方向に寄与しているかを示す数値で、このSpin efficiencyが大きければ大きいほどボールは大きく動いている、ということになります。
「動いている」という表現は少し曖昧になりますが、完全なジャイロ回転のボール(投げ出されてからボールにかかる力が重力のみ)の軌道と比較して「動いている」という意味です。バックスピンのボールは回転によるマグヌス効果で揚力を受けるのでこの軌道からは上方向に外れ(動き)ますし、サイドスピンのボールなら右左に曲がっていき、トップスピンのボールはこの軌道より落ちていきます(下図イメージ)。

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Spin efficiencyと合わせてみると分かりやすいのが、よく見る投球の変化量のグラフ・マッピングです。Baseball savantなどから得られる投球の縦の変化量と横の変化量をそのままマッピングしたものです。

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このマッピングを見れば、True spinの影響がよくわかります。原点に来るのが完全なジャイロ回転のボール=マグヌス力による変化のないボールなので、その上下左右どこにあるかでTrue spinがどの向きに寄与しているかが分かります。
裏を返せば、原点(真ん中)に近いボールはジャイロ回転に近いということです。
つまりSpin efficiencyが大きいボールは原点から離れ、小さいボールは原点に近づくことになります。

ひとつ大きな注意点として、ここまでで分かっていただけるかと思いますが、Spin efficiencyの値が大きければいいボールということではないですし、小さければ悪いボールということではないです。
ただし球種や用途、球質ごとに大きい・小さい方がいいというのはあります。
例えばフォーシームだとspin efficiencyが高いとホップ量やシュート変化が大きくなり、低いとシュート変化が小さくなりカットボール気味になります(「真っスラ」と呼ばれたりもするフォーシーム)。
スライダーだとspin efficiencyが高いボールはトップスピンやサイドスピンの割合が大きくなり、変化量が大きく、軌道の膨らみが多少出てくるようになります。低いスライダーはジャイロ回転に近づき、カットボールのように変化量は小さく鋭く曲がるボールになります(いわゆるスラッター)。

4, まとめ

・投球の回転は変化量・方向に寄与するTrue spinと、空気抵抗に関わるGyro spinに分けることができる。
・投球の回転を後ろから見ることでTrue spinを抽出することができ(x-z平面上)、回転を上から見ることで回転軸がどれだけ進行方向を向いているか、つまりどれだけジャイロ回転になっているかを見ることができる(x-y平面上)。
・総スピンレートの内のtrue spinの割合がSpin efficiency、総スピン量のどれくらいが変化方向に寄与しているかを示す数値である。

このSpin efficiencyを実際の投球にどう生かしていくかは、長くなってしまったので次回まとめたいと思います。

5, [おまけ] TrackManとRapsodoのちがい

TrackManとRapsodoはどちらも投球の回転軸の角度を測定することができますが、方法が異なるため長所短所があります。
TrackManはドップラーレーダーによってボールを追跡(トラッキング)することで軌道を測定し、軌道から計算によって回転軸を推測することができます。
Rapsodoはカメラとレーダーを搭載しており、光学追跡テクノロジーを使用することでボールに対して回転軸を直接取得し、軌道を推測しています。これにより、物理的に回転軸を計算して出す必要がないのでより正確に回転軸やSpin efficiencyを出すことができます。

[参考]


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変化球を物理的に考えるのが好きです。@bourbon429
コメント (5)
ありがとうございます!
spin axisについては、各選手を“Search Player Name”の所から検索して、下のStatsの中に“STATCAST”という項目があります。その中に“PITCHING”という項目があり、下に“ Statcast Pitch Arsenal”というのがあると思います。そこに球種毎にボールが回転しているアニメーションがあって、それが打者側から見た3次元的な回転軸を表しています。数値で見たい場合はExcelのデータとしてダウンロードする必要があるかもしれません。
ご返事頂き有難うございます!
アニメーションがあるのは知っていましたが、具体的な数値が知りたかったんですよね。
ダウンロードデータの方も回転数や変化量などのデータはあるものの、回転軸についてはありませんでした。
おそらく変化量などの投球データから算出しているから出していないのかもしれませんね。
なるほど、そういう事なんですね
やはりsavantには載っていないらしく、Brooks baseball(https://www.brooksbaseball.net/)というpitchf/xのサイトには載っているみたいです。こちらはsavantのトラックマンとは計測方法が異なるので一概には比較できませんが、数値の確認だけなは出来ると思います!
有難うございます!
やはりそちらのサイトを見るしかなさそうですね。
色々とお手数をお掛けして申し訳ありませんでした。
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