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木樵とニンフ(ショートショート)

 貧乏な木樵が山の奥の池の側で、チェーンソーで木を伐採していた。すると突然、キックバック(稼働中に反動で後ろに反らすこと)現象を起こし、チェーンソーを池に落としてしまった。作業中に油断は禁物である。
 チェーンソーは重たいので、池に落ちたら、ブクブクと音を立てて沈んでいった。
 水に濡れては使い物にならぬと、ショックをうけた木樵は茫然と池の前で立ち尽くした。チェーンソーがなければ仕事にならぬ。木樵は困ってしまった。
 しばらく池を覗いていた木樵であったが、諦めようにも諦めきれない。チェーンソーは決して安価なものではないからだ。
 そこへ池の真ん中あたりが、ボコボコッと音がして、池の底から、1人の美しい女性が現れた。池の妖精、ニンフである。
 ニンフは木樵に問いかけた。
「お前が落としたのは、この金のチェーンソーか、それとも、銀のチェーンソーか」
 と、問うて、金のチェーンソーと銀のチェーンソーを見せた。
「金や銀のチェーンソーでは、とても木は切れますまい。私が落としたのは油と木屑で汚れた鉄のチェーンソーで御座います」
 木樵は正直に答えた。
 それを聞いてニンフはくるりと背中を向けてこういった。
「私の後頭部に刺さったチェーンソーがお前のか」
「そうです。それが、私のチェーンソーです」
「では早く抜いてくれ」
 ニンフはそういって、木樵に後ろ向きで近づいた。チェーンソーはニンフの後頭部に深く食い込んでいた。
 エンジンを掛けてみれば、幸い動いたので、木樵はエンジンを回しながらチェーンソーをニンフの後頭部から抜き去った。
 鮮血がドバーッと出てきた。木樵は動揺し、思わず、ニンフの首をチェーンソーで切り落とし、金のチェーンソーと銀のチェーンソーも奪い、逃走してしまった。
 木樵は町へ出て、金のチェーンソーと銀のチェーンソーを高額な金額で売ることに成功した。大金持ちになった。
 それ以来、池は赤く染まり、ニンフの泣き声が時々聞こえるという。

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