見出し画像

河童(ショートショート)

 俺は水泳部。夏休み、大学のプールで泳いでいたら、足を水の中から引っ張る者がいた。誰か部員の悪ふざけかと思って、水の中を覗いて見たら、なんと河童だった。
 何でこんなところに河童がいるのか。というより、そもそも、河童が存在すること自体が不思議な話だ。
「ぎゃー、助けてくれ」
 俺は恐怖で叫んだ。水の中へ引っ張られていく。多少水を飲んだ。周りの部員が助けにプールに入ってきた。みんな俺を引っ張って、助けようとしてくれた。
 部員の1人が、河童のその手を掴み、捻った。そのため河童は手を放し、俺はその隙に逃げ出した。
 友人は5人。俺と合わせて6人。河童は一匹。どれだけ強いかはしらないけれど、多勢に無勢だ。俺たちの方が有利だ。河童は逃げ出した。プールの外に出て、走って逃げた。陸に上がれば、こっちがもっと有利だ。俺たちは追いかけた。奴を捕まえれば、いい見世物になる。TVにも出れるぞ。
 河童は走るのが遅かった。あっという間に捕まえることができたが、やつの体はぬるぬるして、すぐに逃げられた。その繰り返しだった。だがこの炎天下である。河童の皿が乾いてきて、だんだん弱くなってきたようであった。
 ついに俺たちは河童を捕まえた。すぐに警察に連絡した。それからTV局にも電話した。俺たちは有名人になるぞ。
 警察がやってくるまで、少し時間がかかった。その間、河童は萎んでしまい、どんどん小さくなった。「これはいかん」と部員の1人がいい、水をぶっかけた。そしたらいくらか元気になって、元の大きさに戻った。
 警察が来た。流石に驚いたようだった。TV局もきた。
「これはスクープだ」
 TV局は嬉しそうにカメラを回した。河童は水族館が引き取りに来た。俺たちはインタビューを受けた。きっとTVにでっかく映るだろう。
 嬉々として、俺たちは、水泳部の部室に戻った。そしたら何と部屋が荒らされていた。みんなの財布がなかった。河童を捕まえている間にかっぱらいにあったようだった。
 
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?