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境界と相似形

 ショッピングモールのコーヒーショップ。大きなガラス窓の向 こう側で、重力の隙間を探すように枝を広げる樹木を眺めて いると、ある瞬間、それは反転して、空の裂け目の黒い傷で あるかのように思えてくる。
 「(この世界に存在するすべての生き物という意味で)私た ちはみな、内在する自己というエネルギーと外側にある他者 としての重力の境界で形をなしている。また、その様は、すべ て相似の関係にある。」そんなことが頭に浮かぶ。
 境界とは、はじめに存在するのではなく、多方からのせめぎ 合いによって生じるもの。たとえば、人間が設けるあらゆる壁も、 境界を可視のものとするための仮のものに過ぎない。私たち のこの姿でさえ、壁と同じように仮のものであり、本当の存在 の証しは、自己と他者の間の不可視な境界によって定めら れるものではないか。
 そう考えるならば、境界の伸縮によってもたらされる生の意 義と死の現象も容易に理解可能なものとなり、存在の本質 も見えてくるような気がする。
 私たちは、形あるものとして存在するのではなく、また魂のよう なものとしてでもなく、まさに境界として存在するのである。光に 満ちた空を背景にして広がる樹木が不意に見せる、その様 のように。

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