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福澤諭吉「文明論之概略」は、今の時代の変わり目にも役に立つ

福澤諭吉がこの本を書いた時は、黒船が来て時代が大きく変わる時であり、大変だったと思いますが、変化の早い現代は"数年毎に黒船が来ているようなもの"です。

久しぶりに読み返してみると、時代の変化に日本人がどう対応すべきか、色々参考になることが書いてあります。また、昔も今も変わらない日本人の性質も描かれています。

そこで、この本の中から、現代にも役立つ部分をいつくか抜粋してみました。


1 極論はダメ

当時は、今後の国のあり方について色々と議論がなされていたようですが、当時も今のSNS上と同じように、極論を唱えて不毛な議論をする人がいた模様です。

これを福澤は「酒客と下戸の争い」に例えています。酒客は「酒が有害というなら結婚式の杯はどうするのか」と主張し、下戸は「餅が有害というなら正月は何を食べるのか」と主張。こういう論争、今でもなされている気がします。


2 マーケティング大事

福澤は孔子や新井白石を御用学者だとしきりにdisっていますが、実は本人も儒学をしっかり勉強していた人で、この本も実は、儒学を修めた当時の50代以上がターゲット読者だったとのこと。実際の本も、高齢者向けに文字は大きめだったそうです。孔子や新井白石disという炎上マーケティング。

一旦儒学を修めても、時代の変化に対応して西洋の学問を修め、さらにその両方の知見を生かして、儒学に親しんだ読者を対象に西洋文明に関する本を書く、という高等芸となっています。


3 徳義と智恵

当時は、欧米にキャッチアップするため徳義(道徳)を向上すべき、と主張する人たちがいたようです。日本が欧米の文明のレベルに及ばないのは、日本人に道徳心が欠けているからだと。これに対して福澤は、徳義はプライベートに関するものであり適用範囲が狭く、文明の発展には広く世間に展開する智恵(知識)である、と主張します。

現代でも、個人の修身に関する道徳というものを世間に対して振りかざす"◯◯ポリス"とか"◯◯自警団"のような人もいますので、黒船が来ると、こういう反応が増えるのかも知れません。


4 課題設定が大事

当時は外国から開国を迫られ、国家の独立が争点だった訳ですが、時代の変化にとらわれて方向違いの議論も多かったようです。例えば、西洋文明にキャッチアップするためにはキリスト教を広めるべき、という主張など。

これに対し福澤は、「議論の本意を定る事」という表現で、課題設定の大切さを主張します。問いをどう立てるかを間違うと、いくら議論をしても徒労に終わるからです。イシューからはじめよ。

なお、本の中には2軸マトリックス的表現も出て来て、コンサルのプレゼンっぽいです。


黒船が急に来た時代を懸命に生きた人たちの当時の考えを知るのは、共感するところがありました。私も、変転する今の時代を生きる中で、枝葉に惑わされずに進んで行けたらいいなと思います。

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