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第十三話『未明の豪雨』

前回までのあらすじ

 朝夕に美しい薄紫を見せる花韮が満開。放置されていた蘭も開花し春の真っ只中を感じる。


第十三話『未明の豪雨』



 閉じた瞼の向こうで、太い雨音が目を覚ますほど低音を響かせている。水滴の無限と大地を叩くドラム。

 昨日はゴールデンウィークの最終日。特に用事もないが七時に起床しカップにコーヒーを注いで庭へ出た。雲の広がるぼうぼうの庭は薄寒く、頻繁にカップを口へ運びながらぷらぷらと庭を見てまわった。

 新芽が芽吹き、抜いたはずの草がまた増えている。空いた片手で軽く引っこ抜けるものを除草する。だんだんと熱がこもり、カップを縁側に置いて手袋をつけた。GW最終日の朝はいつになく静かで、人の気配も薄い。土から引き抜く根や途中で千切れる茎の音がする。




 前回来た時に水の溜まりそうなものをあらかたひっくり返しておいたお陰か、まだ蚊の襲撃は発生していない。薔薇の根元に生え出ている下草を切る。芽は至る所から伸びているけれど、どうも途中で弱りしんなりとしている。今ひとつ元気を感じない。さまざまに伸び放題になっている下草を除き風通しをよくしてやれば活力を取り戻すのではないか。
 薔薇は貴族の印象。他の雑多なものと共にというよりも、一人で咲き誇りたいのではないかと思う。


 自然に増えたのか叔母が植えたのか分からないが、紫陽花の株が多い。梅雨までに咲く準備を整えようと葉が緑を濃くし、蕾の膨らみが徐々に大きくなっている。カエルがいても良い雰囲気。


 ホウチ蘭がまた一つ咲いた。紫は枯れたが今度のは薄い黄色。(ホウチ蘭とは、当初ぼうぼうの庭に転がっていた蘭の鉢を、扱いが分からないまま大した世話もせずにまとめてあるもののこと。場所が気に入ったようで元気にしているので一層放置が進んでいます。)

 庭の手入れを始めた初期、寂しかった庭へ植えた黒竜に花芽がついていた。細長く黒い葉が緑の多い庭を引き締める。育てたことのあるMさんには「この辺りでは色が抜け、溶けて消えてしまうかも」と言われていたがまだ黒さも保っている。



 駐車場の角に燕が巣を作りはじめた。先週軒先で飛び交っている姿を見ていた。もしやとは思っていたのだが、遂に今年の営巣場所に認定されたらしい。春の風と共にやってくる憧れ。長旅の疲れを癒やし次の世代をここで産み育む。まだ完成しておらず放卵もしていないのでグラミー賞にノミネートされたような段階。気がつけば野良猫も見上げている。
 彼らの巣は細い繊維質な枝と、壁になる泥状の何かで作られている。一方で以前見た山鳩の巣はもっと簡素で細い枝をわずかばかり組み合わせただけ。双方を比べればバラックと漆喰の家ほども異なる。
 私の生まれた産科のある病院はすでに当時の建物が取り壊されて存在しないのだが、その解体の話を耳にしたときに感じた一抹の寂しさのようなものをカメラのレンズ越しに思い出した。

fine 第十三話『未明の豪雨』


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