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エッセイ

立ち読みが趣味です、と言って快く共感してくれる人はいるのだろうか。あ、自分では買わない人なのかコイツ、とか、浅ましい人間だと思われるのだろうか。でも図書館で本をとても借りていく人は浅ましくなくてむしろ、きっと讃えられる。いやでもコンビニで立ち読みしてるオッサンとかは誰だって近寄りたがらない。しかし、小学生が立ち読みしてたら暖かい目で見守ってあげたい。どうして今こんなことを書いたのかといえば、私が地元の本屋によく立ち読みをしに行くからである。だってしょうがないじゃん。すぐ近くに品揃えのいい本屋がないのだから、少し遠出して暇を潰すことくらい。


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私は睡眠に関しては規則正しいほうで、決まった時間に起きて決まった時間に寝る。少し崩れると寝不足でいつもより早く起きてしまい、一日の生活リズムが崩れてイライラする。だが、その日はいつも通りに寝て起きたにも関わらず、あまりにも眠気がすごくて二度寝してしまった。朝食を食べて、火を洗って、眠い。眠い。眠い。体はどんどん気だるくなり足は寝室へと動いていく。

ぼーっと、朝の眩い光は鈍い曇り空に変わる。気温は下がり、布団は私をさらに誘う。11時ごろだったか。

起きたらなんと14時。こんなことは滅多にないので思わず声が出た。しかし眠い、声はすぐに沈み、私は動かない体を無理やり起こした。寝室を後にする。


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今日は天気予報によると「最強寒波到来!」とのことなので厚手のコートを着て外に出る。保温下着も念入りに、手袋も、ネックウォーマーも、厚手のセーターも着てしまおう。そうして外に出る。めっちゃ寒い。が、眠気覚ましにはちょうど良い。16時過ぎなのでもう夕日が出ていて恐ろしいほどに眩しい、美しい、とか思いたいけど自転車運転には邪魔なほど眩しい。

どうしたものか、耳にはBlackpinkの音楽が流れている。うーん、こんな寒々とした真冬にはそぐわない。夏の夜に聞いた方がそれらしい。きっとこんな日は、寒空に別れた恋人のことを思い出して、マルシィとか聞くべきだろうか。もしくはOfficial髭男dismを聴いて、エモいとか呟いたほうがいいんだろうか。いや、やっぱりこのそぐわなさがいい。ときはガールクラッシュ戦国時代なのである。

近くに本屋はあるのだが、なにせ品揃えが悪い。そのため西の方角に向かって、自転車で15分かかる本屋に行く。店舗の大きさでいえば2階までしかなくてそこそこだが、都心から外れた割には質が良い(と思っている。)私は店に着いたらまず『群像』という文芸雑誌をいつも見る。品揃えの良し悪しはこの雑誌基準ではないのだが、この雑誌を売っている本屋は、近くだとここしかない。あとは電車で15分かかるターミナル駅の地まで赴かないと売っていない。毎月、この雑誌を立ち読むためにここの本屋まで自転車をかっ飛ばす。

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私は店に着き、『群像』を探すため、文芸誌・総合誌のコーナーに出向く。おや、今月号はないのか……..。珍しいな、売れたのか?とか考えていたら、春を感じさせる薄いピンクの表紙になったそれを見つけた。いつもはメンフィスデザイン風で洒落ているのに、今月号はちょっと違うらしい。フリーのデザイナーが表紙を担当していたらしい。ふむ、成程。どうりで気づかなかったわけだ。

百瀬文さんというアーティストのエッセイを探す。あれ無い。あれあれあれあれ……..そういや今月号の執筆は体調不良で初めて休載したと言っていたな、などと思い出す。知っている名前を他に探すと布施琳太郎……!布施さんてばエッセイも書くのか。ちなみにこの方もアーティストである。

エッセイの内容はこうだった。海外へ展示会に行くためにない成田空港へ行ったが、苗字と名前を反対に記入してしまい、搭乗できずに一旦帰宅。後日買い直して搭乗すると、その後の入国審査なぜかで別室へ……..というもの。そして後半はタイトル回収へと展開していく。

ところで疑問に思ったのだが、これはフィクション?それともノンフィクション?エッセイとは不思議なものでそのへんの定義づけは定かではない。以前、彼と他二方の鼎談イベントに参加したのだが、そこでも「エッセイとは何か」ということが話し合われていた。結局のその場でも答えは出ていなかった。私が思うに、つまるところエッセイとして本人が書けばそれはむエッセイなのである。詩のように抽象的であり、言葉の響きとか、流れを意識するものでもない。かといって日記のように、淡々と起こったことを如実に記しただけのものでもない。誰かに読んでもらうことを前提として書かれた文章、つまり文学であり、そこには本人が感じた日常が描かれているのである。文章によって日常をどう彩るかは本人の力量次第といったところか。今回でいえば本人が感じたノンフィクションと言ったらいいのか。

そうこうしているうちに私は群像をサラリと読み、店内を物色し始める。目が悪いので商品の近くまで行かないと大体わからないのだが、いつも雰囲気で認識している。ファッション雑誌は、やはりもう春を感じる表紙になってきている。スポーツ誌はこの前開催された箱根駅伝の特集が組まれていた。文庫コーナーは目新しいものがなかったが、近い卒業シーズンに向けた感動的な小説が多かった。他、新書のコーナー多数。

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季節は真冬で、自分は寒いのが苦手だからもう帰ってしまおうと思い、店外に出た。そこには、鉛色の雲と落ちてきた夕日の激しいコントラストの空が広がっていた。サドルにまたがけ、どこへ行くわけでもなく自転車を走らせる。切る風は冷たくとも、まだ落ちていない夕空を見て私は少し春を感じた。やはりエッセイの立ち読みは悪くない。













読者のあなたはエッセイについて書かれたエッセイを読んでいる。これはなんともややこしい。


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