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つながる

ハタチが終わったばかりの2年ほど前、当時借りていたアトリエのメンバーの一人が「ついに戦争はじまったよ──。」と一言、私に話しかけてきた。それは2022年が始まって間もない時のことであった。そのとき、世界で大規模な戦争がまたはじまってしまったのかと思っていただけで、ひどく無関心で無知だった。日本は安全で、きれい、清潔。ここは都市インフラも整っていて、蛇口をひねれば水が出て、夜一人で出歩ける。島国であり、外に出なければ攻撃なんかされない。世界の時事問題に目を向けなくても生きていける理由は探せばたくさんある。ロシアのウクライナ襲撃?イスラム戦争?、ごめん、わからなかった。


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本を読むとつながる。という経験は誰もがあるのだろうか。
つながるというのは、次のようなことである。今ニュースで流れてきたこの話の人物と本に出てきた引用の人物が同一人物だったとか、内容の例に出された事柄が先日テレビで観た内容と同じだ、とかそういう経験なのである。こじつけかもしれないが、如何せんそういった状況に遭遇する。本を読むとかなりの確率で。とってもメルヘン、とっても胡散臭い。まあこれはほとんど読まない人生を歩んできて、自身の知識が乏しい故なのかもしれないが。つながった経験、あるだろうか。


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先日漫画を読んだ際にこの状況にまた遭遇する。正確には漫画を読んだあとの話だが。私はその日一日中漫画を読もうと思って、それができる施設へと足を運んだ。時間制限までそれはそれは精一杯気になる漫画を読み漁った。終了時間が近づいた時に何を読もうかと考えていて、藤子・F・不二雄先生の大全集に目が止まった。全部は読みきれないが、今少し読もうと手に取る。何を隠そう私はドラえもんの大ファンなのである。幼い頃からアニメと漫画の両方を読んできた。しかし、その日読んだのは代表作のドラえもんではなく、SF短編集である。先生曰くScience・fictionではなく、Sukoshi(少し)fushigi(不思議)であるらしい。ネタバレになってしまうので割愛するが、近未来の起こるかもしれないようなこと、現在進行形で起こっていることを、ドラえもん的なポップな絵柄でブラックユーモアを描いている。内容のエグさとは裏腹な絵柄やキャラクターがとてもいい味を出していることは間違いない。
別作を手に取る。「T・Pぼん」という漫画である。こちらはT・P(タイムパトロール)をする中学生が主人公の話で、ドラえもんからやや年齢層が上がったような漫画である。時間を遡り、未来人である自分達が歴史の谷間で不幸に命を落とした人々を救助するというもの。実はこの漫画はコンビニのドラえもん雑誌のおまけ話として読んだことがあり、偶然にも開いたページがその読んだことのある回で、パラパラと流してタイミングも良くその場を後にした。そして内容は聖地エルサレムの砂漠で、十字軍の少年騎士とサラセン人が出会うというものだった。その本は購入し、家のどこかに眠っている。


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私は、現在とある事情で文章をほぼ毎日書いているのだが、社会問題とはなんだろうかというところにいつもぶち当たる。そう言った際に世界で起こっている戦争について思い出す。恥ずかしながら中学生で社会の知識は止まっており、世情について本当に詳しくない。パレスチナでのガザの場所すらわからないままだった。私がパレスチナ問題について知らなければいけないと感じた理由は、知人たちがその問題についてSNSツールを通じて発信していたからだった。無知ゆえに今まで、文学、漫画、映画でパレスチナ問題に関するものが出てきても、そういうものの一種としか感じなかったのであろう。なんと愚かで、恥ずべきことか。と、ネガティブになるのも良くないが。なんてことを考えているうちに家の眠っているドラえもん雑誌が2000年ほど前から続くパレスチナ問題を含む内容で……と色々つながった。


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「親密さ」という四時間超の映画がある。濱口竜介監督のもので、二ヶ月ほど前に友人に誘われて観に行った。俳優陣が学生であり、小劇団で活動する役者たちがぶつかり合い、演劇を作っていく。そして、その実際の劇を後半で上映するという二部構成になっている。詳しい内容はここでも割愛するが、途中には、イスラエル戦争において2012年の終わりに大規模な軍事侵攻が行われた描写があり物語は大きな局面へ向かう。ここでも、パレスチナ問題は出てきていた。上映前は近作だと思っていのだが、実は10年前の映画だったことを知る。もしパレスチナ問題に少しでも知識があれば当時のニュースなどを思い出し、もう少し深読みできたかもしれない。(10年前は小学生だったので無理はないが。)


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戦争について知ろうということではない。ただ、世の中を何も知らない自分が恥で、悔しいのだ。もっと貪欲でありたい、自己中でありたい、周りを見ていたい。冒頭のウクライナ侵攻とパレスチナ問題の違いさえよくわからなかった過去の自分へ殴ってやりたい。いや、やっぱり殴るのはよくない。一緒に食事でもしてあたたかく解決したい。


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