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16の思いも天にのぼる④恵美(1)


大沢恵美は広に人として、憧れを抱いていた。
全校集会で広の逝去を知らされ、ショックを受けて驚いた。
 恵美は恋愛の気持ちではないが、広に対し好意を持っていたため、ショックは大きかった。
だが恵美は友だち思いで正義感が強いため、こんな時も友だちの心配をしていた。
自分がこんなに動揺しているということは、広に恋愛としての好意を抱いている大の仲良しの友だちは、どれだけショックを受けているのか気にかかった。少し離れた所に並んでいるため、友だちの様子は見えない。
 昨日も友だちから過去の広の話を聞いて盛り上がっていたのに、その話題の人物が亡くなってしまった不思議さと、恵美は闘っていた。
 様々な感情が恵美を取り巻き、自然と涙が溢れてきた。
 集会が終わり、友だちの元へ駆けつけると、思っていた通り、声には出していなかったが、号泣していた。
「大丈夫幸子? 」
 友だちは、肩を弾ませながら、頷いた。
「うん、大丈夫」
しかし大丈夫なようには見えない。恵美は、友だちの肩をさすりながら教室へゆっくりと移動した。
教室には、もういくつかの輪が出来上がっていて、すすり泣く声があちこちから聞こえてきた。
一人、遅れてきた男子がいて空気が読めず、ニコニコ笑っており、
「人が死んだんだよ」
と言ってやりたが友だちの方が心配だったので、無視をした。
 ハンカチを手渡しながら言った。
「辛いね。幸子、今は泣きたいだけ泣きなね。昨日も話していたばっかりだもんね。苦しいね」
 こぼれてくる涙を制服のすそで、ぬぐいながら言った。
 友だちを抱きしめ、背中をさすった
急に、ふと広の彼女が気になった。
(広君と付き合っていたんだから、幸子より辛いはずだよね。きっと号泣しているに違いないわ。クラスに仲がいい友だちだっていないし、独りきっと辛い思いをしてるはず)
 そう思い、彼女に目を向けると、驚くことに彼女は、表情一つ変えずまっすぐ前を向いて座っていた。
 何故か、その姿を見て頭にきた。
(人が心配して見てみれば、泣きも悲しい顔をしてないなんて、薄情すぎる)
「幸子、美奈子泣いてない」
 その言葉に、友だちがやっと反応し、彼女の方を向いた。
 さっきまで、この世の終わりかのように泣いていた友人は、少し泣くのを止めびっくりした表情を浮かべた。
「彼氏が死んだって言うのに、薄情な彼女だね」
 と恵美が言うと、友だちは小さくうなずいて、小さな声で言った。
「何で、泣かないんだろう。悲しそうな顔もしてないし」
「広君、男子にも女子にも人気あったから、みんな泣いているし、普段泣かない人まで泣いているのに、薄情だよね、本当」
 恵美が続けて言ったが、友だちは、ぼぉとしていて、聞いていない様子だったので、少し大きな声で呼びかけた。
「幸子、幸子」
 その恵美の呼びかけにも反応しない友だちを見て、相当ショックだったのだなぁと、恵美は思った。
(よし、帰りに元気付けるために、駄菓子屋でも寄るか)
 恵美は、周りの子にも気を使える子だった。また気さくで、周りを明るくする天才だった。
だから、よく色々な子の相談に乗っていた。
 しかし、今は友だちのことで、いっぱいいっぱいになっていて、彼女のことや、周りのことが考えられないでいた。
 彼女の心の中まで行かないで、姿だけで判断することしかできなかった。
「彼氏が、死んだって言うのに落ち着いている彼女なんてありえない。幸子の方が、広君のこと好きだったんじゃないの。幸子、帰り、駄菓子屋寄って帰ろうね。色々聞くよ」
 恵美の問いかけに、友だちは涙をぬぐいながら小さくうなずいた。
 そうこうしているうちに担任がクラスにやってきた。まだ心配だったが、とりあえず友だちから離れ、自分の席に着いた。
 みんなが席についた頃、担任が告別式での、手紙を読む代表を決める話をし始めた。
 恵美はせめて、最後は彼女に最期のお別れをさせてあげたいと思い手を挙げ、
「渡辺さんがいいと思います」
と言った。
 クラスの人たちも恵美の意見に賛成した。
 しかし当の本人はやはり顔色一つ変えず、
「嫌」
と、だけ言って断った。
 恵美はせっかくの自分の善意を、否定された気分になって、腹が立った。
(何なのいったい。せっかく、推薦したのにさ)
 結局、代表は普段は大人しい広と、仲の良かった友だちが自分から、
「読ませて下さい」
と進みでたので、告別式の代表は広の友だちに決まった。
 恵美は、友だちをちゃんと慰められない力のなさと、彼女への配慮が否定ばかりされ、さっきから一人空回りしているような気分になった。
そして、彼女へのあわれみの気持ちが怒りへと変わっていた。

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