人間。

あまり大きなニュースにはならなかったが、最近大学4年生の女性が新橋の公園に新生児を埋め、死体遺棄で逮捕されたという事件があった。羽田空港の多目的トイレで出産し、首を絞めて殺したという。トイレからは遺体を手提げ袋に入れて運んだという。

痛ましい事件である。

何が痛ましいか。孤独である。母親も知らなかったというこの孤独。一人で問題を抱えていたのである。妊娠が分かってもどうすることもできない。堕ろすことも。覚悟もなくダラダラ来てしまった。

赤ちゃんは生まれたとき、泣かなくてはいけない。泣いて息を吐き出し、呼吸を始めなければならない。泣かない赤ちゃんをわざわざ叩いて泣かせたりもする。

しかし、この人は泣く赤ちゃんの首を絞めて殺した。周りに気づかれてしまうからだ。一瞬、躊躇したかもしれない。でも赤ちゃんは泣きやまない。大声で泣くのが赤ちゃんだ。

今もいるか分からないが、アマゾンの奥地に、ヤノマミという種族がいる。彼らにとって、生まれたばかりの子供は「精霊」で、「精霊」のまま天に返すか、「人間」として迎え入れるかは母親が決めることになっている。母親が「精霊」のまま天に返すことに決めた場合、出産したあと、首を絞める。

これを本で知った時、大変なショックを受けた。日本人とは基本概念が違う。人間なら、赤ちゃんは生まれたら愛おしく思い、抱きしめるのが普通だ、というのが日本(のみならず大方)の社会通念だろう。

多目的トイレで出産したこの女性にこの社会通念を強要するつもりはない。ただ、何が悲しいかというと、やはり孤独だ。彼女は誰にも話さなかったのだろうか。それとも話した人がいたが、その人がトイレで産んで殺しちゃいなよと言ったのだろうか。そんなバカな話があるか。

母親にも話せない孤独。そんなに理解のない母親なのか。友達はいなかったのか。応援してくれる味方はいなかったのか。事情は全く分からない。性交は合意のもとに行われたのか。相手の男はどんな奴だ。

産後うつの女性が増えているという。産後うつという言葉を聞くたびに、会社から帰ると暗い部屋で一人、おっぱいをあげているカミさんの姿を思い出す。そして、竹内結子を思い出す。

「おせっかい」が大事だ、という。「おせっかい」はうざい。プライバシーの侵害だ。個人情報保護法だ、ハラスメントだ。上等じゃねえか、こんなみじめな孤独に比べれば。

一人で生きられる強い人間もいる。ほっときゃいい。そいつは一人で生きられる。

言ってくれよ。言わなきゃ分からんよ。

胸を締め付けられるニュースだ。コロナで増えなきゃいい。どうしたらいい。自分には今、歌うことしかできない。

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