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クラフトジンを通して考える① 放置竹林問題とはそもそもなんだろう?

実は、全国に広がる多くの竹林は人為的に植えられたもので、もともと自然に生えている竹ではないと言われています。では、なぜ竹林が植えられるようになったのでしょうか?そして、その竹林が放置されている理由と、それによる問題点についても解説したいと思います。

日本の竹林の歴史
現在国内で多く見られる孟宗竹や真竹は、昔から日本にあったものではないようです(諸説あり)。日本書紀などに竹についての記載はありますが、そこに出てくる「竹」はいわゆる「笹」であり、熊笹のように草の一種だったようです。

8世紀頃から、中国から真竹が輸入され、貴族の間で広まりました。儀式のため、観賞用、薬用など、貴族が竹を取り入れた理由には諸説あります。その後、16世紀になると孟宗竹が中国から鹿児島を経由して一気に全国に広まりました。孟宗竹の伝来にも諸説あり、京都経由説や名古屋説、江戸経由で広まった説などがありますが、各地の孟宗竹のDNAが一致しないことから、何度かさまざまなルートで日本に渡ってきたのではないかと考えられています。このため、すべての説が正解である可能性が高いです。

伝来の経緯はさておき、江戸時代、明治、大正と時代を経る中で、孟宗竹の筍は日本人の食文化に欠かせない大切な食材となりました。また、真竹はその見た目の美しさから日本庭園の重要な要素となり、竹竿や弓、梯子などの日用品や竹細工など、各地の工芸品に使用されるなど、日本人の文化や生活を支える大切な素材として浸透していきました。このような背景から、竹がどんどん植えられ、竹林が各地に広がっていったのです。

東京の表参道にある根津美術館には金明竹が植えられ、来館者を魅了する

竹林が放置されて何が問題なの?

しかし、時代が移るにつれて、国内で竹の加工をするよりも、海外で加工された安価な竹が輸入されるようになったり、竹ではなくプラスチックなどの新しい素材に取って代わられたりすることで、人為的に植えられた竹は伐採するのにもコストがかかるため、そのまま放置されるようになりました。

そもそも生命力の旺盛な竹ですから、放置されるとどんどん成長していきます。若い竹は1日で1m以上伸びることも珍しくなく、地下茎は1年で5mから8mも横に伸びるというので驚きます。そうなると、近くに自生していた樹木などの植物の成長を阻害し、最終的には枯らしてしまいます。つまり、竹林を放置すると、もともとそこにあった多様な生態系や環境を壊してしまうのです。

生態系を壊すと同時に、荒れた竹林は野生鳥獣の格好の棲家になります。特にイノシシは好んでタケノコを食べますし、竹林はそもそも人里に近い場所に植樹されてきたため、人の生活圏に野生鳥獣が入り込んで被害を及ぼすことも増えてきています。

久留米市民なら誰しもが一度は登る高良山にも猪が。春になるとタケノコを食べに竹林にやってきます。

さらに、根が横に薄く伸びる竹は、深く根を張る一般的な樹木と比べると、地面を固め保持する力が強くありません。そのため、地滑りを起こしやすく、気候変動により大雨やゲリラ豪雨、洪水などが頻発している近年では、放置竹林による土砂災害が発生する可能性が高まっています。

竹林の現在

Wikipediaによると、2019年時点で国内には16万7千ヘクタールの竹林があると言われています。7年前の2012年には16万ヘクタール、2009年には15万9千ヘクタールだったと言われており、2024年現在でも拡大を続けていると考えられます。2019年時点の16万7千ヘクタールは東京ドーム約36,000個分に相当します。10年間で増えた8千ヘクタールも東京ドーム約1,700個分に相当します。さらに、竹林ではなくても、森林の中に25%以上竹が混ざっている森林も含めると、42万ヘクタールに達すると推計されています(林野庁HPより)。これらの竹林は全国各地に点在しており、各地で生態系の変化や地滑りが起きる危険性をはらんでいるのが放置竹林の本質的な問題です。

放置竹林が今のまま放置され続ければ、このリスクがどんどん広がっていきます。

そして、竹林面積が広い都道府県ランキングのトップ3は、1位が鹿児島、2位が大分、3位が福岡と、すべて九州に集中しています!放置竹林問題は九州の人々にとってはもはや他人事ではありません。

竹林の可能性

ここまで竹林の悪い面ばかりを見てきましたが、多面的に見ることが大切ですので、次は良い面を見ていきます。

竹林は土砂崩れなどの災害を引き起こすと言いましたが、逆に、きちんと管理されている竹林は防災の役割を果たすこともあります。丈夫な根を横に張り巡らせることで表土を繋ぎ合わせる効果があり、特に平野部では地震の際に地割れや断層から土地を守る役割を果たします。昔から竹林を背に家を建てていたのは、このような理由もあるそうです。

そのため、適切に管理された竹林を活用することで、日本の防災に役立てることができると考えます。事実、「地震が起きたら竹林へ逃げろ」という言い伝えもあるそうで、すべての竹林に当てはまるわけではありませんが、それほど土地を強固に守る役割を果たします。

このような竹林の特徴を活かした代表的な事例が四国にあります。四国三郎の名前で知られる日本三大暴れ川の一つ、吉野川沿いには美しい真竹が植林されており、自然の堤防としての役割を果たし、住民の生活を守ってきたありがたい存在でもあります(参照:徳島県ホームページ)。

吉野川沿いには真竹が植えられ堤防の役割を担っている

考え方を変えると、不要と思われていたものが資源に変わるのが面白いところですが、放置竹林に関しては、その活用方法が実験的なものも含めて、たくさん考えられています。以下にいくつかの事例を挙げます。

竹炭

間伐などで伐採した竹を炭にして竹炭にします。一般の木炭に比べて、竹炭は3倍もの穴があり、多孔質で表面積が大きいため、湿気や匂いを吸着したり、微生物の棲家になったりします。これらの機能を活かして水質改良に使われたり、消臭剤や洗剤に使われたり、土壌改良に使われたりしています。

竹のチップ、パウダーの活用

竹炭と同様に、竹のチップやパウダーを畑にまくなどして土壌改良し、野菜やお米を育てる動きもあります。また、乳酸菌が豊富に含まれていることから、宮崎県などでは家畜の餌に混ぜられています。これは世界的な飼料の高騰も背景にあります。

竹紙

竹を使った紙もエコな取り組みとして注目されています。日本一の竹林面積を誇る鹿児島県の大手製紙会社が取り組んでおり、一般的な木材からの紙作りに比べて竹は効率が悪く、かなりの挑戦でしたが、ついに100%国産の竹を使った紙を安定的に製造できるレベルに達しました。

竹皮染め

筍の収穫時期である春にしか取れませんが、筍から剥がれ落ちる皮を使って染色する草木染めも一つの方法です。筍の皮から色を抽出すると、このような色になります:薄紅藤色

メンマ(たけのこ)

全国的にも広く取り組まれている活動の一つがメンマ作りです。「純国産メンマプロジェクト」という組織がその普及活動を支援しており、毎年メンマサミットを各地で行っています。もともとメンマは外国産の麻竹からしか作れないとされていましたが、糸島での研究の結果、真竹や孟宗竹からも作れるようになり、近年では放置竹林の解決策の一つとして有力になりました。詳しくはこちらをご覧ください:純国産メンマプロジェクト

竹水

春先に芽吹く幼竹は生育力が非常に強く、地中からどんどん水分を吸い上げます。幼竹の先を切り、ビニール袋を被せて一晩置くと、切られたことに気づかずに成長しようと水分を吸い上げ続け、ビニール袋の中に水が溜まります。これが竹水です。幼竹の中を通ってできた水は濾過され、竹の持つ乳酸菌の影響でほんのりとろみがあり、甘みも感じられます。この竹水を活用して化粧品を作る取り組みもあります。

春先の幼竹では切ったそばから綺麗な水が溢れてきます

現在研究中のものも含めて、竹には多くの活用方法があります。これらをうまく活用すれば、環境を守りつつ、経済的にも意味のある取り組みが期待できます。九州に日本の竹林が多く集まっていることを考えると、九州でも環境課題解決型のビジネスチャンスがまだまだありそうです。

私たちが取り組めること

では、私たち個人としてできることは何でしょうか?個人で竹林の伐採をすることも可能ですが、まずその竹林が誰のものであるか、伐採して良いのかなどの確認が必要です。さらに、チェーンソーなどの道具も必要になります。持っている人は全国で取り組まれている放置竹林整備活動に参加すれば良いですが、なかなかそういう方は少ないと思います。

まず簡単に取り組めることは、竹製の商品を選択することです。特に国産の竹を使っているものを選ぶことで、放置竹林の課題解決に貢献できます。

同じ流れで、筍やメンマを食べることも竹林整備に繋がります。私有地でないことや採取許可エリアであることを確認した上で、自ら筍を取りに行き、筍料理を楽しむことも直接的な対策になります。誰かが筍を採取しなければ、その筍は成長して竹になってしまいます。

また、各地で行われている放置竹林整備活動に参加するのも良い方法です。White Cliff Bamboo Ginのボタニカルに使っている高良山の竹を整備している高良山竹林環境研究所さんは、インスタグラムで活動参加者やボランティアを募集していますので、ぜひ一度覗いてみてください。高良山竹林環境研究所のInstagram

バンブージンについて

以上、まだまだ概要レベルではありますが、国内の竹林に関する状況を説明してきました。Bamboo Ginは、高良山の麓に広がる竹林を整備する高良山竹林環境研究所の取り組みから生まれ、沼津蒸留所で蒸留されています。

この青々とした爽やかなクラフトジンは、1400年以上前に竹が中国からもたらされ、日本に広まった歴史の賜物と考えると、悠久の時を感じずにはいられません。

長い間、人の営みを助け、愛されてきた竹と竹林が、きちんと整備されると、爽やかな風が吹き抜け、笹のサラサラとした音が心地良い空間を作り出します。そんな風景がこれからも続くようにとの願いを込めて、Bamboo Ginを作りました。

【高良山竹林環境研究所”Bamboo of Kitchen”】
高良山の放置竹林問題を解決すべく2022年に本田修三と渡辺琢磨の二人で結成。竹林整備による高良山の環境整備を行いつつ、春に伸びてくる幼竹を使ったメンマを新たな地域の観光資源とすべく活動されています。

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