図3

小学生の僕がモテるためにカイロ温め代行を始めた話

パァンッ!!!!!!!

カイロが爆発した。

こげ茶色の中身が盛大に飛び散る。
西日に照らされたカイロの五臓六腑は幻想的でとても綺麗だった。

〜fin〜

***

いきなり驚かせてごめんなさい。
小学生の僕が「初めて掃除機を使うまでの成長物語」を書いてみたので見ていってください。

***

一年中半袖半ズボンの小学生っているよね?

冬が訪れて、寒さに弱い順に、マフラーやコートを着用し始める頃、元気に走り回る半袖半ズボンの小学生。

皆さんの周りにも一人はいたんじゃないですか?
寒さのネジが緩みまくりで季節感の無い温度設定バグのクラスメイトが。
芸能人だったら、勝俣州和とホンジャマカ石ちゃんを足すだけ足した、焼酎の焼酎割みないな人間が。

経験上、この話になると確実に誰もがふるさとの勝俣州和を思い浮かべる。
てっきり宮城みたいな田舎だけだと思っていたら、東京でもエンカウントするから、一年中半袖半ズボンの小学生は一定の割合で日本に分布していることになる。

もちろん僕の小学校にも勝俣のような人間がいた。


僕である。


僕は温度設定のバグった半袖半ズボンの小学生だった。

全国かつまた

***

半袖半ズボンになったのには理由があった。
その理由を紹介しようと思う。

小学生って足が速いだけでモテる。

おかしくない?

大人になってアスリートでもないのに走ってるやつがいても、遅刻しそうなのかな、と思われるだけなのに。
くそ。

小学生の僕は足こそ速くなかったが、太っていて、性格も悪く、すこぶるスケベだったので相当モテなかった。
マジで相当。

多感な年頃なので可及的速やかにモテたかった。
バレンタインに、下駄箱に入っていた送り主不明のチョコレートに喜んでいたら実は男子のイタズラだった、ってのはもうごめんだ。

フライドポテトを食べながら、すばやさステータスに負けないモテる方法を探す。
なんでもいい。
なにか皆より突出いるもの……

お腹しかなかった。

しかし、これがきっかけになった。
周りと見比べるとどうだろう。
マクドナルドのポテトで肥えた僕のわがままボディは同級生の男子と比較して明らかに寒さという感覚に疎かった。

これしかない。
人生とは挫折とひらめきの連続である。

冬でも半袖半ズボン=丈夫で健康な身体=カッコいい
猿でも豚でもわかる簡単なロジックだ。

小学生の僕は大人が束になっても解けない悪魔のロジカルシンキングを導き出してしまった。
勝俣スタイルが産声をあげた瞬間である。

勝俣スタイルは小学2年生くらいから、当時好きだったひかりちゃんに「お前さすがに痛いって」と言われるまで続いた。

図1

余談にはなるが僕の腕と足には一切毛が生えていない。
脇や陰部は人並みに生えているので、小学生の頃に露出していた肌の毛根だけがもれなく死んだのだろう。

私より肌キレイじゃん

ムダ毛リテラシーのある女友達からよく言われる。
その度に、極寒の東北を半袖半ズボンで過ごすことで毛根を文字通り"根絶やし"にしたのだと伝える。

リアクションは毎回「キモっ……」だ。

僕に向けられる一通りの悪口はアンロック済みなのでこの程度では傷つかない。

心臓には毛が生えていた。

図2

***

小3の冬、寒さにもトレンドにも敏感な同級生の間ではキャラクターカイロが流行っていた。
"デジモン"や"おジャ魔女どれみ"など、当時バチバチに話題の中心にいたキャラクターがパッケージに印刷された使い捨てカイロである。

当然のことながら僕の手元にはカイロなんて無かった。

スクールカースト上位の同級生達は互いのキャラカイロを見せ合いながら身体と会話を温めまくっている。
小学生の風上には置けないとてもハレンチな奴らだ。

とても羨ましかった。

一方、身と布を削ってクールを体現している僕は見事に"変なやつ"という称号を得ていた。

なんで?

モテたくて始めた半袖半ズボンが完全に裏目に出ていた。
まずはこいつらと仲良くなる必要がある。

キャラカイロ熱は一向に冷めることなく翌年の冬が来た。
カイロの熱、冷めろよ。

どうにか彼らに混ざる方法は無いものか。
こうなったら我が家の財務大臣に直談判するしかない。

お母さんに頼むことにした。

「カイロって知ってる?学校で流行ってて、僕も使ってみたいんだよね」

「なに言ってんのよ、あんた毎日半袖半ズボンなんだからカイロなんていらないでしょ」

ぐうの音も出なかった。

こうなるのは目に見えてた。
交渉を有利に進める理論武装を一切まとっていないのだ。
理論まで薄着とはね。

どうしても諦めきれなかった。
クラス全員のカイロを盗んで帰り道の用水路に捨ててしまおうかと悩んでいた時、ひらめいた。

人生とは挫折とひらめきの連続である。
そう、僕はこの冬"とあるアイディア"によって見事に奴らと関わることができたのだ。

カイロ温め代行始めました。

カイロを持たない僕でも彼らの口振りから温まるまでにはそこそこの時間が必要なことには気付いていた。
そこに糸口を見つけたのである。
発明王エジソンなの?

同級生に手当たり次第カイロ温めソリューションを提案。
スクールカースト上位の人気者達は、進んで煩わしい温め工程を受託するデブが現れて喜んでいた。

秒で受託できた。

図3

温め業は軌道に乗り始めた。

色々な人気者のカイロを温めまくることで、僕は宮城の片田舎にある小さなピラミッドを一段ずつ、確実に、登りつめていった。
周りの目さえ無視すればこの代行業はWin-Winの関係になるのだ。

開封したばかりの冷たいカイロを丁寧に温めて、再び持ち主に献上し媚を売る。
さながら、主君である信長のために草履を温めまくった結果、日本を統一を果たした豊臣秀吉である。

豊臣秀吉はサルと呼ばれていたらしいが、僕が戦国時代に生まれていれば、ブタと呼ばれ、カイロを献上し、日本を統べていたに違いない。

ある雪の夜、信長が草履を履くと温かくなっている。
「サルめ!おまえ腰掛けていたな、不届者め!」
秀吉は頑として腰掛けを否定する。
「足元が冷えると思い背中に入れて温めておりました」
証拠を示すために秀吉は衣服を脱いだところ、背中には鼻緒の跡がくっきりとついていた。
そんな光景をあざ笑いながら、ブタは温めたてのカイロを信長に渡す。
信長もたまらず
「こんな優秀な人材どこで!?」
転職サイトのCMよろしく、舌を巻いたのであった。

***

半年後、夏休みに事件は起きた。

僕の夏休みは、ラジオ体操、プール、ノリ君の家で永遠にプレイする「星のカービィ スーパーデラックス」で構成されていた。

この夏、3周目のメタナイトの逆襲へ挑もうとしていた頃、ノリ君は家族と旅行に出かけると言い出した。
しょげてる僕を見たノリ君はとても憐れんでいた。

「さすがに3回もメタナイトを倒さなくてもよくない?君も旅行に行けばいいんだよ!」

ぐうの音も出なかった。

その日も、僕はいつも通りラジオ体操へ向かい、夏休みのノルマであるプールでビート板遊びの可能性を追求する。

ただ、カービィだけが足りない。

ノリ君よりもカービィを求めている自分に気づき子どもながらに反省をした。

ノリ君にコピー能力があれば最強なのに。

図4

しょうがない。

諦めて水上ビート板渡りで蓄積された気だるさを引きずり家に帰ることにした。

誰もいない家に入るとすぐに異変に気付いた。
真夏の部屋には絶対にあるはずの無いものがそこにはあった。

カイロだ。

なんで?

どれだけお願いしても買ってくれなかったカイロが、リビングの机の上に鎮座している。
部屋に差し込む夕日のせいか、そのたたずまいはとても神々しく後光さえ見えた。
あまりの嬉しさに気だるさが一気に吹っ飛んだのが分かる。
水中に沈めたビート板のように僕は跳ね上がって喜んだ。

見たところキャラクターカイロでは無さそうだし、なぜか剥き出しの状態で置いてあるけどそんなことはさして問題ではない。
財務大臣ありがとう!善は急げだ。

カイロへ駆け寄って手に取り、勢いよく揉ん……


パァンッ!!!!


カイロが爆発した。

こげ茶色の中身が盛大に飛び散る。
西日に照らされたカイロの五臓六腑は幻想的でとても綺麗だった。

〜fin〜

は?

いやいやカイロが爆発ってヤバいよな。
ふふふ。
焦りすぎて逆に笑ってしまった。
何が起きた?痛みは?手は無事か?手に痛みや損傷は全くない。

……ん???

ふと香ばしい夏の匂いが鼻に伝わる。
え……この匂いって。
嗅覚に伝わった情報で全てを理解し、と同時に自分の愚かさに涙があふれた。

麦茶のパックだった。

僕がカイロだと思って破り散らかした物体は、麦茶のパックだったのである。

***

パブロフの犬は、ベルを鳴らしてからエサ与えるという事を繰り返していると、ベルを鳴らすだけでヨダレを垂らすようになった。
条件反射というらしい。

僕の場合はカイロを見ると揉むという行為だった。
カイロのような麦茶パックを見た瞬間、僕は今すぐにそれを揉まなければいけないと思った。

これではパブロフの豊臣秀吉だ。

はたから見れば、帰宅後即、麦茶パックを破り捨てる小4男子だ。
狂気じみている。

麦茶のパックを剥き出しでリビングの机に置いた張本人である財務大臣に泣きながら電話をかける。


「掃除機はどこ?」

これが小学生の僕が「初めて掃除機を使うまでの成長物語」だ。


図5



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